29-12 Sandwiches

第29部 Calm Day?

奥多摩湖畔から15日目


(12)Sandwiches  ************************************************ 4530文字くらい



「おっせーな…、何やってんだ?あいつ。」



コーヒーから湯気の勢いがなくなった。

トイレなら、すぐ戻ってくるだろうと、

また、ごろんと横になって待機中の撩。

要は一緒に食べないとつまらないのだが、

やや長いおあずけ状態に小さな疑問符が浮かぶ。



「……おっきーほー…、かな?」




いや、あいつが長いトイレというのは、

よほど調子が悪い時以外はなかったのではと、

のそりと上半身を起した。

さっきの様子では、体調がよろしくないという空気はなかったはず。

照れ隠しのための、一時逃避だろうと思っていたが、

長い。

長過ぎる。

壁の向こうでは、洗面所の扉が開いて閉じた音1回のみ。



「倒れてんじゃねぇーだろうな…。」



ドアの音以外、異変は感じとれなかったが、

これから、ひとつ企てがある。

あまりだらだらと昼食の時間を伸ばすのは都合がよくない。

ましてや体調不良だったら本日の実施が意味を持たなくなる。

とりあえず様子を確認しておくかと、

立ち上がってスリッパを引っ掛ければ、

パタパタとリビングから右折して、また右に曲がった。



「おい、香、大丈夫か?」

ドアの前で声をかけてから開けてみる。

と、同時に慌てて立ち上がりながら、振り向く香と目が合った。

「ちょっ!な、なに覗きに来…」

てんのよ!と続けようとしたところで、

香の目の前が真っ白い雪原に変わる。

「お、おい!」

撩の声が聞こえたが、姿が見えない。

対面式で抱きとめられたことに気付いたのは数秒後。

どうやら急に立ち上がったために、血圧の変化が追いつかなかったと、

双方が理解できたのも、数秒後。

すぐに視力が戻ってきた。



香は、んー…、と少し顔を歪ませながら、こめかみを押さえる。

こんなことで立ちくらみを起すなんてと、先の転倒未遂といい、

これ以上、自分のドジさ加減を晒すのが情けなくもなり、

撩の腕の中にいたいホンネの願望を強制的に押し込めて、

愛おしい両腕の温かさから脱出を図ろうとする。



「ご、ごめん!

ちょっと立ちくらみしちゃったみたい!も、もう、だ、大丈夫だから!」

撩の胸を布の上からやんわりと押して、

もう放してと距離をおこうとする香。

が、拘束は解けない。

「ね…、もう、放していいよ。へ、平気だから…。」

頬を赤らめて、濡れた前髪の間から斜め上を見上げる。

撩は、香を洗面台の前で抱き込んだまま寄り目で一息すぅっと呼吸すると、

ゆっくり口を開いた。



「……おまぁ、なんか隠してない?」



「は…?」

「なんかおかしい。」

「え”っ?」

「……体調不良、じゃあない、よな。」

「なっ…。」

なんのことよっと、どうやったら誤摩化せるかと

口パク状態の口輪筋をなんとか動かそうとしていると、

まじめな顔で詮索を続ける撩。

「……女の子の日にゃまだ早過ぎるよな。」

言い終わったところで、左側頭部に10トンハンマーがヒットする。

「っで!」

「ばっ、ばかもんっっ!そ、そんなことを真顔でゆーなっ!

だっ、だいたい、あんたに隠し事なんて通せるワケないでしょっ!」

本日、フライパンも含めて4ヒット目。

こんな香の激しいコミュニケーションを受け止められるオトコも

この種馬一人だけ。

いつもの反撃を受けた撩は、

体の調子が芳しくない説は取り下げることに。



奥多摩以降、

この打撃の後に束縛が解かれる流れが多数ではあるが、

撩はまだ香の腰で腕をクロスしたまま。

やっと冷ました香の体温がまた右肩上がりになっていく。

「もう!は、放してってばっ。ちゃんと歩けるからっ!」

雫を散らしながら、

じたばたしている香が可愛過ぎると、もっとからかいたくなるも、

やはり挙動不審の源がイマイチ掴めない撩。

当の本人が諸悪?の根源とは露とも思っていない。

まぁ、元気であるならいいかと、

くすりと薄く笑えば、香の両肩をくっと掴んでくるっと鏡に向かわせた。

「わわっ。」

香の驚きの声を聞きつつ、

右腕を伸ばしてひっかけてあるフェイスタオルを引っ張り出せば、

そのまま、背後からばふばふと小さな顔に布地を細かく押し付けた。

「うぷっ!ちょっ、ちょっと!な、何すん」

「顔洗ったまま拭いていなかっただろ?」

そう言えばそうだったと、はっとする間もなく、

また肩で舵を切られた。

添えられている手の平が温かく、またドキリとしてしまう。



「とりあえず、メシ食おーぜ。おまぁがすぐ戻るかと思っていたから、

ボクちゃんもまだ食べてないのっ。」

「ちょっ、ちょ…!」

と、そのまま後ろから両肩を押されつつ、

リビングに向かって誘導される。

香は、余計なことは考えたくないのに、

一歩進むごとに一度体温が上がっていくような気分で、

歩き慣れた廊下がいつもよりとても長く感じた。





「ほれ。」

すとんと座らせられたのは、ソファーの長辺側。

撩は短辺側にどさっと腰を降ろして、ぬるくなったコーヒーに手を伸ばした。

「さて、食うか。」

2人の間に、

先ほどの撩の愛読書が、中身を下にして開いたまま落ちている。

折り込み式のくだんの写真は不自然に一部だけはみ出ていた。

香は、それを直視しないように、あわよくば気付かないフリを通して、

存在を無視することに。



ずずっとカップの中身をすすりながら、

まずはクロワッサンサンドをひょいっと選ぶ撩。

中身は、ゆで卵を細かくしたものにマヨネーズと刻みパセリを混ぜた具が、

レタスと一緒に挟まれている。

はぐっと頬張れば、もしゃもしゃと口を動かしながら、

食後の予定について伝達する。



「おまぁも、さっさと食っちまえよ。この後、ここでちょっとすることあっからよ。」

「へ?」

まだ赤さを残した表情で思わず撩のほうを見た。

「こ、ここでって、リビングで?」

「そ。」

2つ目のロールパンが撩の口元に運ばれた。

粗挽きソーセージと粒マスタードに、レタスと薄切りタマネギの組み合わせ。

さっき言っていた訓練のことなのかと、

詳しく聞こうにも、またナイショと言われるのがオチかと、

とりあえず自分も昼食に手をつけることにした。

パンは3種類、どれも軽くトースト済みで、具材と触れ合う部分には、

ちゃんとバターも塗ってある。

「い、いただきま…す。」

おずおずと香がまず手にとったのは、

6枚切りの食パンを耳付きのまま横方向で2つにカットし、

調理用ハサミで袋状になるように深く切れ込みを入れ、

その中に、スモークサーモンとキュウリとレタスを詰め込んだ

サンドイッチモドキ。

今の季節、キュウリは高いのよね、と思いながら、

はぐっと一口目を味わった。



「撩、こ、これで足りる?」

香も、もぐもぐと咀嚼しながら、唇の端にはみ出そうになった具材を

親指で拭いつつ隣りのオトコに聞いてみる。

「こんだけありゃいいんでない?」

昨晩、日光の帰りに閉店間際に飛び込んだ馴染みのスーパーで、

割引シールが貼ってあったブレッド類を一通りかっさらって来たのだ。

それらを元に、数種類のお手製調理パンが並ぶことに。

一般家庭では数日かけて消費される量が、

冴羽家では1食で片付いてしまう。

たっぷり作った昼食はみるみるうちにカサを減らしていく。



「んと、あんたって良く食べるわよねー。

今時、成長期の男の子でもそんなに食べないって聞いたけど、

そのうち中年太りになっても知らないから。」

準備したのは、自分だけど…、と思いつつ、

相方の日常の食欲を思えば、

朝のやや軽めな和食と対照的にがっつり洋風ランチで決めたメニュー。

まぁ、味はそんなに悪くないわねと、

仕上がりを確かめながらの食事に、

また撩が余計なことを言い始める。

「ふふーん、心配無用!そーゆーのは、運動不足のヤツが心配するこった。

食った分だけカロリー消費、これが基本だろ?」

食パンのサンドをパクつきながら、撩がニヤリチラリと香に視線を流す。

「つーワケで、夜の運動でもしっかりカロリー消費せんとな!」

ぐふふっと両手で可愛らしく歯形が残る焼き色のついたサンドイッチを持って、

いやらしく寄り目になる撩。



香は、きょとんとしたまま。

“夜の運動”の意味が分からず、持っている情報を脳内でかき集める。

あっ、と思い立った事柄は、

自分が知らされていないシゴトのこと。

食べていた手が止まる。

「ね…、りょ、撩?もしかして、今日の夜、どっか行くの?」

「あ?」

ミニハンマーでも飛んでくるかと思っていたが、

想定外の質問に撩の方が目を丸くする。

確かに、今日は1週間ぶりにパトロールに出ようかと思っていたところ。

「あー、晩飯食った後、ちょっくらぶらついてくるわ。」

一通り主食を片付けた撩は、

口の中にまだ食材が残ったまま返事をして、

ヨーグルトとフルーツにスプーンを伸ばした。

香は、その言葉にギクリとし、動きが止まる。

「戻ったら、香ちゃんと一緒に運動すっから、ちゃんとボクちゃんの部屋で待ってること!」

「は?」

自分の知らないところで受けた依頼で、

どこぞの組織の要人やチンピラを退治するための運動

という訳ではなかったのかと、

じゃあ、自分と一緒に運動とは、撩の部屋で護身術訓練でもするのかと、

まだ撩の言っている¨運動¨の意味が分からない香。

「あ、グローブとか使う?」

「へ?」

香が言っているのは、

先週吹き抜けで使った薄手のパンチング用グローブのこと。

会話が噛み合ない。

アノ最中に、さすがにそれは必要ないだろと、ぷっと小さく吹き出した。

きっちり思い違いをしている香を理解しつつ、

撩はどこまで内容を把握させるか、しばし迷う。

この天然の反応もまた、

飽きさせない好みのドツボだと、ニヤリと心の中で含み笑いをしながら、

とりあえず話しを合わせることに。



「うんにゃ、あれは使わねぇ。」

ガツガツと一気にデザート系をかきこみ、甘いジュースで流し込む。

「使うもんは、俺があとで考えとくわ。」

「あ、そぉ?」

香は、運動イコール訓練のことだと微塵も疑っていない。

はぐはぐと愛らしい口元を動かして、自分の食事を進める。



「ごっそさん!食い終わったら、もう1杯コーヒー頼むわ。」

そう言いながら、撩はソファーの短辺側にごろんと仰向けになった。

コーナー側に頭を向け、座椅子部分からはみ出た足は高く組み、

角に落ちていた先ほどのエロ雑誌をひょいと拾い上げて

また、ばさっと自分の顔に伏せさせた。

今度は、折り込み写真は、背もたれ側にはみ出て

香から見えない位置に滑り込む。

その動きをドキリとしながら、視界の端で追っていた香は、

食事のピッチを大急ぎで上げて、

「ご、ごちそうさま!」

とワザと大き目の声を出し、昼食を終えた。

「ちょっと、ま、待っててね、コーヒー、い、入れてくるから!」

また不自然に咬みながら、ガチャガチャとトレーを抱えて

リビングを出てく香。



撩の表情は愛読書の下でクエスチョンマークが湧いて浮かぶ。

やはり、どこかおかしい。

そういえば、いつもだったら床にこの手の書籍があるだけで、

「だらしないんだから!」

と、さっさと拾って指定席に納めるかトラッシュコースを選ぶ香が、

今顔に被せているブツには、目もくれなかった。



(気付いていなかった、ってワケじゃあない、よな?)



いつもらしからぬ行動の小片に、

夜ベッドの中で聞き出してやろうかと、

本日の夜の運動タイムの楽しみを一つ追加した撩。

すーっと、深く息を吸えば、

鼻から細く呼気を出して、

香とコーヒーの到着を大人しく待つことにした。


******************************
(13)につづく。







あらー、あとがき入れ忘れ…。
というか保存し忘れとった…。
「アップ前に見直していたら、腹減った」と
打った記憶が…。
自己サイト管理が手薄になっておりまして申し訳ないです〜 m(_ _;)m 。
[2014.02.06.02:24]

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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