29-14 Zatohichi

第29部 Calm Day?

奥多摩湖畔から15日目  


(14)Zatohichi ************************************************** 3418文字くらい



(いま、何時なのかしら…。

時間の流れが全然分からないわ…。)



香は、足は組まずに揃えたままソファーの長辺側で座り、

重ねた前腕を軽く腹部に当てて、

すすんと息を吸った。

もちろんバンダナで目隠しをされたまま。



(えーっと、さっき確か1時半は過ぎていたわよね。

んー、でもそれから何分くらいたったか、

さっぱりだわ。

こんなことなら、羊でも数えていたほうが良かったかしら?)



周りが見えないまま、ふっと斜め上を向く。

ベランダの窓越しから聞こえる雑踏が、

ほんの少しだけよく聞き取れるような気がしてきた。



(それにしても、いつまでここで待ってればいいのかしら?

もっ、もしかして、夜までとかってないわよね!

って、ううん、何時までなんて全然言われてないから、

下手したら、朝まで待ってなきゃいけないってこともゼロじゃないわよっ。

だ、だとしたら、どーすんのよ!

お風呂とか食事とかっ!)



終わりの時間が分からないことに、

計算外の不安が込み上がる。

視力を奪われた状態で、

果たしてどれだけ待つという行為を続けなければならないのか。



(2時間、3時間コース?

5時間、6時間コース? ま、まさか、24時間コース? )

無意識に、

乾いた唇を上下に軽く動かして薄い皮膚に湿り気を施した。



(も、もしかして、撩、このままいなくなっちゃう、なんてことないわよね…。)



不安要素の各論が一つ、また一つと増えていく。

(ううん、そ、それは、ない、…と、思う。

だって、ずっと一緒だって、言われたじゃない。)

あの日の湖畔の風景が浮かび、また勝手に赤面するが、

ぷるるると顔を細かく振って、

とりあえずこのまま自分が置き逃げされることはないはずと、

信じることにした。

同じ寝具を使うようになっても、

まだ消し去ることが出来ない、一人になるかもしれない恐怖感。

兄の急逝という変えられない過去に、未だトラウマ的になっている。



(だ、だけど、本当にどうしよう…。

2日待っても、3日待っても何もなしっていうことになったら、

あたし、ここで目隠ししたまま餓死しちゃうわよっ。)

香は、バンダナの上から左指で両こめかみを押さえて俯き、

うーんと悩む。

しかし、何呼吸かした後、ぱっと顔を上げた。

(そうよっ、生きること優先だから、お腹減って死にそうになったら、

さっさと台所に行けばいいのよ!

そう言ったの撩だし!)

一つ自己解決。



(撩は、どこまで気配が読めるか試すって言ってたけど、

読むなんて、真面目にしたことなんかないわよ。

ん?ちょっと待って?

もしかして、あいつ、今ここにしれーっと、戻って来ているんじゃない?

だって、ドア開けっ放しだわよね。

たぶん。

閉まる音しなかったし。

そっと閉めても、少しくらい音でるもん。)



完全に気配を消した撩を感じることは、

今の自分の能力では不可と考えている香は、

まずは、部屋の状況を確かめることにした。

(座ったまま動くなとは、言われてないもんね。)

ゆっくり立ち上がると、

背もたれに向かい合い、両手をソファーの背板頂部にそっと添える。

(もし、そばにいたら逃げられるかもしれないけど、

あいつが少しでも動けば、なにか分かるかもしれないし…。)



そう考えながら、

まずは、ソファーの長辺側を端から端まで、

空間に触れるものがないかを確認することに。

左手を支えにして、

人が座っていたら触れるであろう場所に右手を泳がせる。

座椅子部分にそって横歩きをしながら、

一往復終えると、はぁと一息吐き出した。



(な、なんかキンチョーする。これでなんかに触っちゃったらどうしよう…。)



その ” なんか ” が、撩であることを信じながら、

次は短辺側を確かめることに。

端から見たら、怪しいことこの上ない動きではあるが、

まずは物理的な確認作業が先だと、

とりあえずソファーに誰も座っていないと確信する。

両手を背もたれに預けたまま、

香は俯き加減で、またどうしようかとしばし迷う。



(ついでに、部屋、歩いてみようかな…。)



もし、自分が拉致監禁された時、

目隠しをされ照明がない状態に置かれ、

環境や状況が読めない場合もありうる。

制限された中でどこまで何が出来るか、選択肢はケースバイケース。

隔離された場所に、

触れただけで危険なものがある可能性も視野に入れながら、

敵の見張りの目が届かなければ、

暗闇の中で、壁の質、ドアや窓の位置、段差、周辺の物品などの情報を、

光がない条件下でもある程度把握すべき時もある。

もしくは、このアパートにいる時でも停電になったら、

光源がない中で懐中電灯がある場所はちゃんと辿り着かなければと、

防災訓練も兼ねて、何も見えないままリビングを、

手短に空間チェックすることに。



まずは、ソファーの端に片手をついて

そのままそっと段差を越えた。

右腕を伸ばしたら、指先にレースのカーテンがつと触れて、

思った以上に、距離が近かったことに、

この時点で日頃の感覚の修正が必要なことを感じた。

見えないままカーテンを少し引いて、カギを確認する。

クレセント部分に指を這わせ、施錠されていることを知る。

窓からの侵入はなさそうだと、すぐに思うが、

ガラスを割って入られたら、また修理費用がかかるわ、と

出費を心配する香。

セスナが突っ込んだ時は、全面改修。

ミックが発砲した時も、自分がシングルベッドを突っ込ませた時も、

痛い修繕費に大きな苦労をした。




(な、なんだか座頭市みたいだわ…。)



そのまま、時計回りに両手を馴染みのものに指先を触れさせながら、

少しずつ横歩きで部屋を移動。

観葉植物に、テレビに、時計に電話にと、

キャビネットボードの上にあるものが手先に触れると、

目の裏で画像が合成されていく。

ステレオセットの下の開き戸が懐中電灯の指定席。

チャッと音を立てて開けて直感を頼りに指を伸ばせば、

然るべきところに目的のものがあることを感じ一安心。

「これで、いきなり停電になっても大丈夫ね。」

そう言いながら、またパタンと木製の戸を閉める。



よっと立ち上がって壁に沿いながら、

ドアのある壁面まで来ると、廊下からひんやりとした空気が頬に触れる。

「あ、やっぱり、開いてる。」

スイッチの横にあるはずの扉には触れられず、

開放されている状態を確信した香。

「んー、うろついていたら、何言われるかわかんないから、

さっさと座ろ。」




『 待っているだけでいいっつーただろうが。 』




あきれ顔でそう言ってくるオトコの顔が浮かぶ。

香は、開いているドアを背に、

スリッパを床に滑らせながら、

ゆっくりとガラステーブルに近付いた。

(うー、もし今後ろに気配消されて立たれてたら分かんないよー。)

視覚なしで歩き回った限り、

同じ空間に生きた有機物の気配はキャッチできなかったものの、

変態顔をした撩がそばでニヤついている場面が

ちらちらと目の端に出て来て、

気を集中させたいところを若干かき乱される。



「あ、あった。」

さっき躓(つまず)いた落差をつま先で感じたら、

落ちついて片足を降ろし、左手を伸ばしてソファーの端を見つけた。

手探りで、もとの位置を見つけると、

慎重に座り直す。

ぎしっと軋む音に、

ふーっと肩の力が抜けていく。

しかし、油断は出来ないと、出口が開いている方に耳をすませた。

外から聞こえるわずかな車の往来の音と、

さらに遠くから聞こえるハシブトカラスの鳴き声以外は、

感じとれない。



今はまだ大丈夫であるが、長期戦になった時、

この刺激のなさがずっと続いたら

きっと眠たくなってしまうだろうと、

眠気とどう戦おうかと、また考え事が一つ出てくる。

依頼を受ける時も、見張りや尾行で長時間待機はあって然り。

経験からたぐり寄せたアイディアに頭の上で電球が灯る。

「そうよ!座ってるとダメなのよ。眠たくなったら立てばいいんだわ。」

バンダナを目に巻いたままの香は、ポンと右手の拳を左手の平に当てた。

2回目の自己解決。



「で、今何時だろ?」



時間が計れないもどかしさが、

先ほどより割合を増す。

(頭の中で歌でも歌ってようかな…。1曲だいたい5分くらいだし。)

しかし、歌詞全部を覚えている曲があまりないことに気付く香。

(あーん、レパートリーそんなにないじゃなーい。)

とりあえず、意識はいつ来るともしれぬ、その「何か」に集中させつつ、

記憶の引き出しの奥から、

知っている曲をひっぱり出す。



とにかく、緊張し過ぎは長く持たないと、

香は、イメージだけでメロディーのみを頭の中でかけ流し、

時間の経過の目安にすることにした。



********************
(15)につづく。







番組名は忘れてしまいましたが、
暗闇で白パンいっちょの「変態おじさん」が
女性タレント陣を驚かす企画が、頭のすみに浮かびました〜(日テレだったっけ?)。
一応、この場面ではリョウちゃん不在です。
いたら、まさに変態オジサンだ。

スポンサーサイト
プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


9万hit記念に
とりあえず作ってみた
CH専用Twitter
 


拍手1000パチ記念につけちゃいました。



かなり便利なサーチツール

登録サイト最新情報はこちらをチェック!


試運転中…

カテゴリ
最新記事
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR
現在の閲覧者数: