29-16 Defeat

第29部 Calm Day?

奥多摩湖畔から15日目 



(16) Defeat *****************************************************4122文字くらい



「すっごーい!香さん!

どうして分かっちゃったんですか???」



興奮しながら聞いてくるかすみの姿は、まだ見えないまま。

同じ空間にいるのは、

奥多摩で別れて以来、初めてのこと。

「ほれ、目隠しはずせってば。」

撩の声が近くで聞こえて、はっと我に返り

慌ててバンダナに手を伸ばす。

「あ、そ、そうだったわね。ちょ、ちょっと待っ…、てって、あれ?

ほ、ほどけ、な…。」

後ろ手に結び目と格闘する香。

「もう!撩!どんな結び方したのよ!」

もたくさしていたら、かすみが近付いて来た。

「あ、あたしが解きます。」

そう言いながら、優しく手を伸ばす22才。

その時、香の腕の内側に視線が止まる。

思わず、あっと声が出そうになったのを喉の奥でなんとか寸止めに。

撩からはその表情は見えなかった。



「あ、ありがと…。」

疑惑の芳香の正体がより近くなり、勝手に納得しながら、

香は、かすみに身をまかせる。

「はい、どうぞ。」

ふあっと解放された視界は、最初に強烈な眩しさを感じ、

すぐには目を開けられない。

細目で瞼がかすかに震える。

バンダナが外されるのと、

撩がソファーの長辺側の端にどさっと座るのはほぼ同時。

目隠しを香に手渡したかすみは、二人の間にそのまま腰を下ろした。

いたってラフな街中スタイル。

薄い紫色のカッターシャツに、黒のスーツパンツで、

肌の色に近いストッキング。

襟元からは、少しだけYの字に寄せられた胸元が覗いている。



「驚いちゃいましたよー。なんで私って分かったんですかぁ?」

かすみは驚きを隠さないまま、香の横顔を覗き込むように尋ねてくる。

目元を指で押さえつつ、

細かなまばたきをし、明るさに目を慣れさせる香は、

若干状況に混乱していた。



「あ、あのね、あたし、

てっきり撩が何かしかけてくるもんだとばかり思っていたから、

こっちの方が驚いたわよー。」

ソファーのコーナー寄りに座ったまま、

早口で言葉を返す。

「でも、ズバリ名指し出来るなんて、スゴくないですか?」

撩もその答えを知りたい。

「な、なんで分かっちゃったんだろ?」

香もいまいち絞り込みができた経緯が説明できない。

顎に指をかけて小首をかしげる。




「実はですね、冴羽さんから連絡もらった時、

香水とか、匂いの強い化粧品とかは付けないで来てくれって言われてたんですよー。」

「れ、連絡?」

香が聞く始めての事案に顔があがる。

「そうなんです。だから、昨日もお風呂入るのに、

無香料のシャンプーとか石けんですませてきたのにぃー。」

悔しそうに膝を叩いてみせる。

「ちょ、ちょっと撩っ!

あんた一体いつからこんなことしようって思ってたのよ!」

「あー?」

香は、訓練が始まったのは、

あの奥多摩から帰ってきてから間もなくのことであって、

こんなすぐに第三者の協力を得られるような準備が

そんなに速やかにできるものなのかと、

かすみがこうして今ここにいることを

至極驚き疑問が湧いた。

面倒くさそうに頭をがしがしと掻き揚げる撩。



「んー、おまぁがさぁ、教授んちで、タコやミックの気配を読んだことが、

あいつらには結構驚きだったらしくてさ、

そんで、香ちゃんがどこまで分かんのかなぁーと思ってさ。」

そう言いながら、指を組んで後ろ頭に回し、目を閉じた。

「で、かすみちゃんを呼んだわけ?」

「そ。」

「昨日の夜電話もらったんです。」

「は?き、昨日?」

撩は、説明を始めるかすみに、

少しバツが悪そうに表情をゆがめ、唇を尖らせたまま目を閉じている。



「前に、美樹さんから、冴羽さんから何か連絡がいくかもって、

あらかじめ聞いてたんですけど、用件聞いて驚いちゃった。」

くいっと両腕を組んで、ちらっと撩の方を見やりながら、

いたずらっこの空気を含ませた笑顔で続けた。

「冴羽さん、ホ・ン・キ、なんですよねっ!」

「あ”?」

撩は目をパチッと開けてしまった。



座り直したかすみは、ゆっくりとした口調で話し始める。

「……結婚式の時、戻って来た香さんと冴羽さんを見て、

ああ、私の恋は終わっちゃった…て、すぐに感じたんです。」

「は…?」

香は話しの展開についていけない。

救出された香と救出した撩が、

式場に辿り着いたあの時のことを思い出す3人。

「でも、まだどこかで諦めきれなかった想いがあったんだろうな…。」

かすみは、ふっと顔を上向きにあげて、ふーと息を吐き出す。




「今回の依頼でスッキリしました!」



撩に向かって、

一番言いたかったことを、やっと口にできた。

心を寄せた男が、香に本気で向き合うことにし、ケジメをつけたかを、

今日の声かけで痛く思い知らされた。

かすかに持っていた希望願望を

完全に捨て去る決意を新たにする。

かすみは、両手を膝の上に揃えてしゃきっと背筋を伸ばし、

香をまっすぐに見つめた。



「ちょっ、なに?なんなの?その依頼って?」

かすみの話しがいまいち飲み込めない香は、

引っかかった単語をまず確認しようと尋ね返した。

「へへ、香さんの訓練に協力する代わりに、私が何か依頼する時は、タダってことで。」

「ええ?!」

すでに2回、依頼済みの経験を持つ麻生嬢。

3回目も視野に入れての交換条件に、

撩が、はぁとため息をつく。

香は、ワケが分からないといった顔で

視線がソファーに座る二人を往復する。

「ただし、私が香さんにタッチ出来たらってことだったんですけどね。」

撩の指がぴくんと動く。

かすみは、ぺろっと舌を出して、

きょとんとしている香を横目で見つめた。

「ざぁーんねん!イケるって思ってたんだけどなー。」

さらに続ける。

「ハンマー出るかもって聞いてたんですけど、その前に、正体ばれちゃって、

どーしてぇ?って気分なんですけどぉ。」

かすみは、肩にかかる長い黒髪を左手でさらっと流して、

香に向き直った。

「香さん、さすがです!完全に私の負け。」

その意味合いは、恋のライバルとしても、と心の中で小さくつぶやく。

「そ、そんな、勝ち負けだなんて、

あ、あたし、全然そんなつもりないのに…。」

先ほど、外してもらったバンダナにくっと無意識に力が入る。



「で、なんで俺じゃないって分かったんだ?」

やっと撩が口を挟んできた。

「それ!聞きたいです!」

「あ、あの、よく分からないのよ…。」



香は、顎に指をそえて斜め上を向きながら空を見つめる。

最初に撩じゃないと思ったのは、

ほんのわずかだけキャッチできた違和感。

何となく、

男ではないとどこかで確信を持ってしまった。

そして、あとは消去法だったのか、

美樹は入院中、かずえも教授宅、冴子と麗香は香水付きが日常、

気配を押さえて冴羽アパートに出入りできるメンツは限られてくる。

残ったのがかすみ、という式を

香は無意識に絞り込んでいた。



「なんかね、一瞬キャッツの風景が浮かんだのよね。」

「え?」

ドキリとするかすみは、くいっと自分の胸元の布地を引っ張ってみた。

「まさか、コーヒーの匂い連れてきちゃったかしら?」

自宅を出る前に、一杯飲んだコーヒーは、

キャッツのオリジナルブレンド。

「あ、ううん、まさか!コーヒーの香りはしなかったわ。ていうか、

少し前まで、あたしたちもここでお店のコーヒー飲んでたし。」

香も腕を組んで首をかしげる。

「んー、やっぱり、自分でも分かんないわ。

あ、あとね、ほんの少しだけ花屋さんのイメージが浮かんだのよねー。

どうしてかしら?」

そんな困惑する香の表情が、かすみの目にも愛らしく映る。

一部心当たりがある回答に、

くすっと自分の失態と油断を薄く笑った。

「もう、冴羽さんと長いこと一緒にいたら、そのへんが気付かないうちに

鋭くなっているかもしれませんねー。」

明るい口調のまま、撩の方を見ると、

また、後ろ頭に両手を回して、長い足を組んだまま目を閉じている。

かすみは、晴れ晴れとした笑みで、ふっと息を軽く吐き出し、

話しを続けた。

「冴羽さん、私、

香さんのためだったら、またいつでも協力しますから。」

「あ?」

「でも…。」

にやりと小悪魔的な表情に変わったと思ったら、

香のほうに手を伸ばした。

「え?なになに?」

腕まくりをしていた右腕をかすみについっと取られて、

折り畳まれた袖口をするすると両手で元に戻された。

「私が来る時は、こーゆーのは、見えないところにしてくださいね。

からかいたくなるんでー。」



「 「  っ!!!  」 」



香は、珍しく瞬時にその意味することを理解して、

ボンッ!と音を立てて赤くなり、

撩は、頭を支えていた指がずるっとほどけて、

頭ががくっと後ろにのけぞった。

膝の上に戻された両手は反射でばばっと後ろに隠すも

すでに時遅し。



かすみは、すっと立ち上がり、

そんな二人の様子を微笑ましく見下ろした。

「じゃあ、私、これで失礼しますね。」

撩の前を通って、

ガラステーブルの脇をすり抜けようとしたかすみに、

香が慌てて声をかける。

「あ、あ!か、かすみちゃん!

よかったら、今からお茶かコーヒー持ってくるわよ。」

冷たいフローリングをスリッパなしで歩く姿に、

一緒に履物も玄関から持ってこなきゃと、同時に思うも、

ソファーから立とうとした赤い顔の香より、

かすみの台詞が早かった。

段差に片足をかけて立ち止まると、振り向き様に笑顔をつくる。



「お気遣いなくぅー。

香さん、楽しかったわ。こんなゲームだったらいつでも大歓迎ですから。

冴羽さん、非常口の扉の所にプレゼント置いてあるんで、

あとでちゃんと拾っておいて下さいね。

お邪魔しましたぁー。」

そう言い終わるとモデルウォークで扉に向かい、

また肩の髪の毛をぱさっと跳ねさせ、

パタンとリビングを後にした。

そして、入口そばの廊下に仮置きしていたショルダーバッグと

畳んだ上着をさっと拾い上げれば、

するりと腕に通してふわりと羽織り、

軽やかにバッグの紐を右の肩に引っ掛ける。

非常階段から上がり込んだ時、

脱いだパンプスもそこに置いてあったので、

二本指でついっとひっかけて運ぶことに。

ふぅーと長い息を吐き出せば、肩からしゅうと力が抜ける。

かすみは、そのまま玄関に向かって冴羽家を退場することにした。







「………。」

「………。」




リビングでは無言の二人の間に、

窓の外からの雑踏音に混じり、

秒針が動く音が妙にハッキリ響いている。

キャビネットの上の置き時計は、

もうすぐ3時を知らせようとしていた。



******************************
(17)につづく。








かなり遡りますが、
奥多摩から6日の美樹が銃創を診察されるシーンの「11-09」で、
撩がかすみちゃんにコンタクトを取ろうとしている場面を作っております。
撩なら、美樹に聞かなくても、
かすみちゃんの連絡先を得ることはたやすいはずですが、
訓練をしようとしていることを、示唆する意味も含めて、
美樹ちゃんに直接聞いた方が早いと考えた、という設定にしました。

腕のキスマークは、山荘でつけられたもんです。


【訂正ご連絡感謝!】
Sさん、Nさん、ほぼ同時ご連絡ありがとうございます!
今回は大量生産でしたっ(><)。
本当に助かります!
改めて赤ペンセンセイのみなさんに感謝です!
2014.03.03:21:18

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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