29-19 Emotional Dependence

第29部 Calm Day?

奥多摩湖畔から15日目



(19)Emotional Dependence ********************************** 3787文字くらい




「な、なんだって、菓子メーカーの名前なんぞが出てくんだよ?」

「ぐりぐりするから“グリコ”!

ま、まったくっ!油断もスキもあったもんじゃないわっ!」



ぷいっと朱色の顔を反らしながら、

腕組みをしてプンとご立腹の空気を作る。



「はぁ…、これで、美樹さんに海坊主さんに、お店のママたちに、唯香ちゃんに、…」



香は、まだ熱い頬に左手を添えて、

残った右手の指を一つ一つ折っていった。

「で、かすみちゃんにも、完全に知られちゃったのよ、ね…。」

はぁと、肩を落としながら、ソファーの上で膝を抱え込んだ。

こつんと額を膝頭に乗せる姿を

撩はこめかみを押さえつつ、横目でちらりと見やる。



ケジメをつけてから半月、

もう近い仲間内では秘匿しようがない状況。

撩にとって、

このことは多方面で大きなデメリットになるのではと、

そして、

撩と関係を持ってしまった自分が、

これまでのように、親しい仲間たちと普段通り向き合えるのか、

教授宅に通っていた時には、あまり考えていなかったことが、

今になって深い悩みの種となる。



「だから、いつも通りでいいっつったろ?」

撩も右隣で胡座(あぐら)のまま。

「で、でもっ。」

「誤摩化す必要もなし、隠す必要もなし、気にすんな。」

「うー・・・。」

香はまだ体育座りで額を膝にこすりつける。

そんなパートナーの姿を横目で見ながら、

撩は、強制的に話しの方向を変えることにした。

「それよかさ、おまぁ、よく当てたよな。」

「え?」

ふっと顔をあげて撩のほうを向いた香。

ソファーの長辺に並んで座る二人の視線がパチッと合う。



「かすみちゃんにタッチを許さなかったどころか、

正体を当てるなんざ、俺の想定外だ。」

「は?」

撩は、右肘をソファーにひっかけ軽く指を丸めて頭を預けた。

長い足は、胡座を解いて組み直される。

細くなった瞳に香は、かぁと赤くなった。



「さすがだな、完全におまぁの勝ち。」

「う、…で、でも、あんなにそばに近付いていたなんて、

なんか悔しい。」

目を反らしながら、また顎を膝に乗せる。

香の中では、

この結果について褒められたことを

素直に受け入れられないでいる。

もう少しで触れられるところまで接近を許していたとは、

本来なら部屋の侵入直後から気付くべきだったと、

反省せざるを得ない。

そんな思いが、下がった眉に表れる。



「今は、あれで十分さ。」

暗くなった表情から、香の低い自己評価を感じとった撩。

重ねて褒めておくことにする。

また類似のお試し訓練も繰り返す予定ではあるが、

出だしは上々と、

冗談抜きで“さすが俺のパートナー“と心の中でも高評価の採点。




「しっかしさ、おまぁ、なにバタバタしてたんだ?」

「へ?」

また顔をふっと上げて撩の方を見る。

「歩き回ってただろ。」

「あ…。」

「待っているだけでいいっつーただろうが。」



香の目がふわっと見開いた。

さっき、一人で目隠しのまま部屋を半周した時、

ソファーに座りなおす直前に

自分の頭の中で浮かんだ言葉と口調と寸分違わず、

ホンモノの口からそれが出て来た。

あまりにもデジャブに近い現象に、

思わず丸めた指先を口元に添えてぷっと吹き出した。



「な、なんだよ。」

香の妙な反応に、支えていた頭がつと浮く撩。

「ううん、きっとそう言われると思った。」

鼻からくすすっと小さな笑いを含みながらそう答える香。

「分かってんなら、言われたとーりにしろっつーの。」

「は、はい、す、スイマセンデシタ…。」

「お、珍しく素直だな。」

「悪かったわね。いつも素直じゃなくて!」

目を合わせないように、ベランダ側を見やりながら、

体育座りの足を伸ばして床に降ろし、

軽く腕組みをして、ふんとそっぽを向いてみる。

“ どうせ素直さもない、可愛くないオンナですよーだっ ”という

モノローグが聞こえてきそうな表情に、

今度は撩がぷっと吹き出した。

「そーだなぁー、もうちっと素直だと、もーっと色々出来んだけどなぁー。」

言い終わる前に、また撩が香に後ろから絡み付いて来た。

「わわっ。」

(ま、また、触ってくるしっ!)

引き寄せられて、

左の首筋に撩の鼻と唇の間の部分がふんふんと触れ、

黒く柔らかいくせ毛が香の左耳をくすぐる。

細い腰回りに、また2本腕が巻き付き、撩の左脚はソファーの上で曲げられて、

無駄に長い足の間に収まってしまった香。

撩の前面と香の背面が温度を分け合う。



「っもー! ! !」

驚きと照れでまた赤くなった香は、

無駄だと思いながらも、撩の前腕を掴んで解こうとする。

これ以上べたべたされると、本当に自分の中で自制が効かなくなる。

こうして触れられるだけでも、

声を聞いているだけでも、

傍にいてくれるだけでも、

その先に進みたいと坂道を下るように車輪が回る。

それを何とか悟られまいと

自転車のブレーキレバーをぎゅうと握るように、

指に力を込める。



今はまだおやつの時間にかかる昼間。

さすがに、お天道様が高いうちから、

そんな雰囲気を望むワケにはいかないと、

香は、懸命に“その気”がないことをアピールすることに。



「な、なんなのよっ!もう!さっきから何度も何度もぉー!」

「んー?だってぇ、今までぇ〜、こぉーんなことぉ〜」

甘えた声を出しながら、自分の鼻先と香の右の耳介とを擦り合せる。

そして聞こえた、あの香が弱い声色。



「したくても、できなかったんだぜ…。」



大動脈が破裂するんじゃないかと思うくらいに、

ドクン!と心筋が跳ねた。

そんなことを鼓膜のそばで囁かれたら、

きっとどんな女でも簡単に落ちてしまうだろう、そう強く確信する。

香は、必死にオンになりそうなスイッチにカバーをかけるように、

今はその気はないと宣伝すべく台詞を考える。



「なっ、なによ!それ!色々できるって何のことよっ!」

ジタバタしながら、まずはさきの撩の言葉を繰り返した。

「んー?それはまた夜のお楽しみっつーことで♡」

「はぁ?」

「それともぉ、今からスルぅ?」

「ばっ!」

そうならないようにするために、

今自分の中で黒と白がせめぎあっているのに、

耳のすぐそばで聞こえる相方の声で、一気に潮流に押し流されそうになる。

「ぼくちゃんは、どこでもいつでもいいんだけどぉー」

撩は、ピンクに染まった可愛らしい耳にしゃぶりつきたくなるのを

ぐっと押さえて、そのまま口元を香の後ろ頭にふわっと埋めた。

「おまぁが、本気で嫌がることはしたくないしぃー。」

くいっとまた抱きしめ直して、

ふさっとした緩いウェーブの中に、顎をこしこしと擦り付ける。

「とりあえずぅ、慣れるためにはだなぁ、

スキンシップはいーっぱいしとかんとなぁー。」

のんびりとした語り口で続ける。

「ま、今は、ここでは襲ったりしねぇーから安心しろ。」

「ちょっ、だ、だからって、こ、こ、こん」

なにベタベタしなくてもと、続ける前に撩の言葉が重なる。



「言っただろ?これまで出来なかった分を取り戻さんとな…。」



ジタバタしていた香の動きがすうと治まる。

「りょ…。」

香のホンネも、このまま撩に抱き込んでいてもらいたい。

ただ、これ以上進まないと宣言があるのであれば、

撩の言葉通り、安心していいのかな、と真っ赤になったままぼんやりと思う。

目を閉じて、少し上向き加減に顔を上げる。

頭のてっぺんで撩の顎が少し動き、頬ずりに変わるのを感じた。

ふぅーと一息細く吐き出せば、

そのままゆっくり、背中を撩に預けることにした。




「……やっぱり、…慣れない。」




くくっと鼻で小さく笑うのが上から聞こえた。

「ま、半月だもんな。」

暴れていた香の少しずつ心拍が落ち着いてくる。

撩の言葉に、きっと何年たってもムリ…と、

慣れた自分の姿は全く想像できない。

「……もっと、素直に甘えてこいよ。」

「え?」

目が開いた香は、ちょっと待て、と思った。

このベタベタは、どう見ても撩のほうが、これまで甘えられなかった分、

ここぞとばかりに、甘えているように思えてきた。

ということは、

(あたしからも、べたべたしてこいってこと???)

「ん〜……。」

また眉間に細かなシワが寄り、こめかみに人差し指と中指を当てる。

¨慣れる=甘える=べたべた触る¨なの?と疑問符が浮かぶ。

(だめ、やっぱり想像できない…。)



「やっぱり、……とーぶんムリ。」



といいながらも、トンと撩の鎖骨に後ろ頭を当てる。

ふっとまた後ろから吐き出される小さな息を感じた。

「ま、のんびりいこうや。」

いつも通りにと、慣れろと、2つの課題を同時に抱えて、

困惑しながらも、

こうして撩に半身を預けられることそのものが、

改めて奇跡的なことだと、

今が現実であることをまだどこかで信じきれない。



(アニキ…、今すごく幸せだよ…。)



香は目を閉じて、そっと撩の腕に自分の腕を重ねた。

「ねぇ、……いつまでこーしてるの?」

「腹減るまで。」

「バカ…。」

「とりあえず、お疲れさん。またすっから覚悟しとけ。」

お疲れさんとは、さきの目隠し訓練のこと。

次の訓練実施の予告を受けた。

「ん…、わかった…。」



気持ちいい。

目隠しの間、無意識に過度な緊張もあったせいか、

若干の疲労感もあり、

昨日、一昨日のトレッキングコースを登った際の筋肉痛も

時間差で増してきた。




「りょ…。」

「ん?」

「……ここで、……ヘンなこと、したら、ハンマーだから、ね。」

「へいへい。」

そう撩に言い伝えれば、

撩に抱き込まれたまま、とりあえず一休みと、

香は、少しだけ¨甘え¨を意識して、

上半身を預けることにした。


**************************
(20)につづく。








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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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