29-20 Disappointed Love

第29部 Calm Day?

奥多摩湖畔から15日目



(20)Disappointed Love  *************************************  2040文字くらい




「う…、ひくっ、…ふ、

…え、ばさん、の、バカ…。」



トントンと冴羽アパートの階段を下りる足音が響く。

目元の雫を指で拭うかすみの、

鼻にかかった涙声がそれに重なり、

コンクリートの壁に反響する。



分かってはいた。

奥多摩の時に、

二人が教会に戻って来たあの場面を見た瞬間、

何があったか、

おぼろげながら分かってしまった。



愛おしそうに香を見つめる撩の表情は、

これまでに見たことのない知らなかったものであり、

二人の距離間も、

もし何もなかったらもっと離れているのではと思わせる程に、

ぴたりと寄り添いながらの登場。

顔にほんのりと赤味を残した香の唇からは、

ルージュがすっかり取れていた。

それでも艶やかな上唇下唇に、

コンマ数秒で入ってきた複数の視覚情報は、

一つの結論を導き出す。

同じ答えを、一緒にいた麗香も出したことを、

アイコンタクトで通じ合わせた。



二人して同時に失恋をしたはずだったのに、

まさか、まだそんなことになっている訳がないと、

頭のどこかで、認めたくない願望が残っていた。

祝いの品を持参しつつも、

わずかでも自分にもチャンスがあるかもしれないと、

諦めきれずにいた心理を

深いところまで見透かされたような、

今日の出来事。



今回、訓練の協力要請がきたのは、

自分もケジメをつけろと、無言のメッセージが含まれていたのだと、

ぼんやりと理解した。



片思いの相手は、長年抱えた事案にケリをつけ、

パートナーと本気で向き合うことにした事実を

自分に知らしめるために、恐らく声をかけたのだろう。

潔く踏ん切りをつかせるために。



建前上は、

美樹は入院中、かずえは美樹の看病と診察と研究で多忙、

麗香と冴子も本職で気軽に動けず。

ミックにこの手のことを進んで依頼するようなことも考えられない。

一番声をかけやすかったのが自分であったことは、

流れとして全く自然であることも十分理解できる。

しかし、あえてこのタイミングでの連絡に、

直接の言葉でフラれるよりも強烈な告知に、

受けた打撃は想像以上に大きかった。




涙が止まらない。




「ふ…、こ、この先、…冴羽さんより、いいオトコに、会える、ワケ、

ない、じゃ、ない…、ぐずっ。」



鼻をすすりながら、いつのまにか1階駐車場。

しっとりと濡れた目で、赤い小さな車をじっと見つめる。

ぼやっと見えてくる車内にいる二人。



「に、似合い過ぎるのよ…、冴羽さんも、…香さんも…。」



涙で目尻が湿ったままで微笑むかすみは、

ちょっとしたイタズラを思いついた。

クーパーにまっすぐ近付いて行くと、

リアウィンドに指をすっと這わせる。



「ここでいいかしら。」



ショルダーバッグからお気に入りの口紅を取り出して、

キュポンとキャップを外し、それを軽く唇に挟んだ。

キュッと中身の先端を覗かせると、

ガラスをキャンバスに、手早くルージュを走らせた。

前屈みになった姿勢は、

肩にかかっていた黒く長いストレートヘアを

さらりと落とさせ横顔を隠してしまう。




「このとおりにならなかったら、許さないからね。冴羽さん!」



そう言いながら、パチンとキャップを閉めた。

軽やかな手つきでそれをしまうと、

背筋をピンと伸ばして、また片手でぱさりと肩にかかった髪を流す。

二人のための協力は惜しまない。

これはまぎれも無く本心。

こうも爽快な気分で向き合える失恋相手と恋敵もそうそうないのではと、

クーパーのサイドから見える

運転席と助手席に目を細めた。



実のところ、3回目の依頼時はタダという提案について、

香に触れることが出来たらという交換条件は、

あの場でとっさに出てきた作り話。

今の面持ちであの二人に借りやしこりを残したくないという、

かすみなりの思いつきの配慮。

ビジネスの時にはビジネスときっちりさせてもらおうと、

撩が飲んだ今回の報酬を辞退した。






「あーあ、どっかいいオトコ転がってないかなー。」



かすみは、んーっと指を組んだ手の平を正面に向けて伸ばし、

出口に向かって足を進めた。

パンプスの踵が心地よく鳴る。

ギッとガラス製のドアを押し開ければ、

ひゅうと冷たい風が吹き込んできた。

「さ、さむーい!さっきはまだ暖かかったのに…。」

乾燥した北風がビル街を抜け、

かすみの黒髪をなびかせた。





ぬくもりが欲しい。



あの逞しい腕に包まれるのは自分でないと、

ちくりと痛みを感じる。

つい、二人がまだいると思われる6階を

振り返り気味にちらりと見上げてしまった。



「いいな…。」



ぼそっと漏れる本音。

ぷるぷるぷるっと細かく顔を横に振って、

駅の方に向かってつま先を向けたが、

ふと立ち止まって、隣りのビルも見上げる。

「冗談抜きで、今度麗香さんと合コン計画しなきゃ!」

近々二人で飲み明かしたいわと、

同じオトコに想いを寄せていた相手と

どこかの店に繰り出すことをイメージしながら、

ようやく冴羽アパートの前から歩き始める。



ビル風は、

かすみを追い越していくように風下に流れ、

街路樹の落ち葉をカサカサと巻き込みつつ、

アスファルトの歩道を吹き抜けていった。



**********************************
(21)につづく。






カオリンのお誕生日なのに、
かすみちゃんメインの章が当たってしまいました〜。
かすみちゃんもどうか素敵な出会いがありますように!
もうちょっとリビングでのRKのんびりタイムが続きます。


---------------- 時事的あとがき ----------------
このところのサイトネグレクト、
大変申し訳ございませんでした。
やっと抱えていた件案が一段落つきましたが、
まだ片付いていない事案がございまして、
なんとかGWまでにはケリをつけたいと思っているところです。
明日から新年度、皆様にとって素敵な1年となりますように!
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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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