29-23 Tracesmarks

第29部 Calm Day?

奥多摩湖畔から15日目



(23) Tracesmarks  *************************************** 2403文字くらい




(な、なに…?この香り…。)



目を閉じたままで、うっすらと覚醒すれば、

香水のような匂いが漂っていることに気付く。

ゆっくりと目を開けると、

視界にはガラステーブルの端が映る。



「あ、れ?」



パチッと瞳が見開き、

むくっと上半身を起せば、

客間にあったはずの毛布が香の肩から腰にずり落ちた。



「へ?あ、あたし、なんでここで寝てんの?」



寝起きですぐに状況がつかめない。

まさか、出先で拉致されて薬か何かで気を失わされて、

撩が助けに来てアパートに連れ戻された?

と悲しいかな、職業柄の痛い選択肢が先に思い浮かんだ。

「んー……。」

と指で両目を軽く押さえて、

なんとか前後を思い出そうとする。

随分深く眠っていた。



「あ!」


(そうだった。かすみちゃんが来てたんだ。)

ざっと昼過ぎのことを思い返し、

撩とくっついて休息タイムに至った経緯までの記憶が蘇る。

そこでまたじゅわぁ〜と赤くなり、

目覚ましも兼ねて、自分の頬をぺんぺんと叩いてみる。



時計を見れば、5時過ぎ。

「やだ!もうこんな時間?」

買い物は省略できるが、

台所周りの雑用と食事作りを始めなければならない時間。

(それにしてもこの香りは…?)

と、後ろに振り向いてみれば、

目に飛び込む色鮮やかなバラの花束。



「……な、なにこれ?」



全く心当たりがない。

それにしても、正装をした女性が纏うような

ローズ系の芳香に、

きちんと整えられた花の飾り方に、

今見ているモノの正体や機序の理解が出来ない。



そもそもここには、以前ミックが9日前に持って来た

黄色いサンダーソニアが飾られていたが、

日光に行った日の午前中に家事の雑用の中で、

くたびれた花卉を処理して花瓶も撤収したはずの場所。

またそこに、

しれっと同じように花が置かれている。




「???」



そういえばと、

うっすらと同じ香りをかすみが纏っていたことを思い出した。

「かすみちゃんが持ってきてくれたの?」

(花瓶ごと?ううん、これウチの花瓶だし?わざわざ活けてから帰ったの?

ええ?だとしたらいつ???)

確か、あの後かすみはすぐに玄関に向かってこのアパートを出たはず。

扉が開閉される小さく音も聞こえていた。

「じゃ、じゃあ、リビンクに来る前に?」

だとしても、この白い花瓶を倉庫から見つけるのに

音無しで出来るとは考えにくい。

倉庫はちょうどリビングにめり込む形で位置している。

異変に気付くように集中していたのにも関わらず、

壁越しの倉庫の異音に全く気付かなかったということか、と

花と左側の壁を交互に見やる。



「あ、そういえば…。」



帰り際、かすみが言い残した台詞を思い出す。

— 冴羽さん、非常口の扉の所にプレゼント置いてあるんで、

あとでちゃんと拾っておいて下さいね。 —

と確かに言っていた。

「これのこと?」

花瓶ごとのプレゼントではないことは間違いない。

きっと普通に花束で持ち込まれたのだろう。

ならば活けたのは誰なのか?

適当な該当者が出てこない。



「まっ、まさか、撩!?」



あまりにもミスマッチな行動に、

にわかには信じ難い推論。

が、あの変態オトコ以外どう考えても思い当たるフシはなし。

飾られた5色のバラを見つめたまま、

何十秒かのフリーズタイム。

窓の外から伝わってくる車のエンジン音やクラクションに

はっと我に返り、

とにかく、起きなければと足元のスリッパを探してつっかければ、

毛布を持ってリビングからまずは客間へ向かうことに。



「あいつ、どこいったのかしら?」



気配がない。

廊下を進んで、自室兼客間に着くまでの間、

同じフロアーに相方の存在を感じなかった。

シングルベッドの上で毛布をたたみ指定席に戻すと、

寝起きの顔を確認すべく、

鏡台を覗き込んだ。



「もう!寝ぐせあるし!」



指で立ち上がった房を搔き上げて、

くしゃくしゃとくせ毛に混じらせ誤摩化すことに。

「先に、キッチン片付けなきゃ。」

とりあえずは、

いつもふらふらしている相棒のことはさて置くことに。

昨日おとといで家を空けたぶん、

しそこなった雑用が保留になったままなので、

主婦モードのスイッチが入った香は、

自室をあとにしてダイニングキッチンの扉をチャッと開けた。

夕刻で薄暗くなった空間、

壁際のスイッチに触れてパチッと照明をつける。



「あ…。」



藤のゴミ箱からはみ出ている水色の不織布に、

三角コーナーに残っているバラの葉とトゲ。

かすかに漂う残り香に、

ここであのバラが処理されたことがうかがい知れた。

調理バサミも洗われて水切りカゴの中に入っている。




「……暇つぶしにしても、らしくないことを……。」




やはり、どうも状況に納得がいかない。

これは、本来ならば自分の仕事であって、

ましてや、頼んでもいないのに自ら進んで花を飾るとは、

これまでの撩の所業を見返しても、

得心できる部分が何一つない。




— リョウちゃん、

  カオリンが休んでいる間に一つお仕事したぁーげたからぁ

  ごほーび欲しいなぁぁぁ〜   — 




突然、ポン!と頭に浮かんだ、にへら顔の変態オトコの台詞に、

香の表情がひくひくっと右上に引きつる。

「ま、まさか、後で見返りなんて言い出すんじゃないでしょうね!」

不自然過ぎる行動の裏に、

とんでもないことを要求してくるんじゃないかと、

このテーブルで、にやつきながら花を切りそろえる

撩の姿が思い浮かぶ。




「もう!何考えてんのよ!あいつはぁっ!」




今の時点では、“何考えてんのよ!あたしはっ!”と

自分に突っ込むべきところであるが、

おおかた間違っていない妄想であったことを、

約8時間後に知ることになる。



「さ、片付け片付け!」



頭の上の像を片手でぱっぱっと追いやると、

香は、水回りの整理整頓と

夕食の下ごしらえを同時並行で進めることにした。



ダイニングキッチンの小さな窓の外は、

すっかり暗くなり、

11月後半の日没の早さを感じさせる。



「何つくろっかな…。」



メニューを思い描きながら、

節々の筋肉痛らしき痛みでわずかに顔をゆがめつつ、

せわしく動き回る香であった。



*****************************
(24)へつづく。





ミックが持って来たサンダーソニアは、
6日目の17-09で登場します。
片付けさせるシーンを入れ損なっておりました〜。
よく撩がゴミ箱に捨てなかったもんだと…。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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