29-24 Meet And Potato Stew

第29部 Calm Day?

奥多摩湖畔から15日目



(24)Meet And Potato Stew  ********************************** 3390文字くらい




「ん、いい味。」



黄色のエプロンを纏い、

姿勢よくガスコンロの前に立つ香は、

丸い小皿を手に主菜の味を確認中。

今晩は肉じゃがの気分だったので、

豚肉の切り落としを使って、緑豆はるさめもたっぷり使い、

にんじん、じゃがいも、たまねぎ、冷凍いんげんと、

大きめにカットされた野菜たちも、

ごろごろくつくつと一緒に煮込んだ。




調理にかかるまでに、

冷蔵庫の庫内を掃除したり、食器棚を片付けたり、

シンク周りの水垢をとるために重曹で磨いたりと、

先送りにしていた作業をあれやこれやとこなしていたため、

この空間の滞在時間が随分と長くなる。




「そういえば、撩どこにいるのかしら?」



エプロンで手を軽く拭くと、

あとは盛りつけるだけの食材をそのままにし、

器の配膳だけすませて、

相方の捜索に出ることにした。



まずはリビングを覗くことに。

かちゃりと扉を開けてみるが、

中は暗くレースのカーテン越しに

奥の街の光がちかちかと見えるだけ。

「あら?どこいっちゃったのよ?」

入口そばのスイッチに指をかけ、パチッと照明をつけたら、

いつもの明るさで部屋が照らされる。

香は、パタパタとスリッパを鳴らして窓際に近付き、

戸締まりがされているかを確認すると、

少し背伸びをして、

ついでに向かいのビルの様子を伺ってみるが、

くだんのオフィスも暗いまま。

ふぅと一息もらせば、

斜光カーテンもシャッと閉めて、テレビの方を振り返る。

そばの置き時計は午後7時前。




「もしかして、でかけちゃった…?」




奥多摩以降も、

撩が外出する時は何かしら声かけがあったので、

自分が寝ている間に遠方へ出向いた可能性は低いと思いながらも、

とりえあえず、電気を消して玄関に向う。

吹き抜けのフロアを抜け、階段を少し降りたところで、

狭い玄関に、

自分と相方の靴がゆるく揃えられて並んでいるのが見えた。



「外じゃないんだ…。」



6階フロア内にあるトイレにも浴室にも自分の部屋にも、

リビングもその気配はない。

(ま、まさか、探し当てるっていうのも訓練じゃないでしょうね?)

「肉じゃが冷えちゃうじゃない!」

まるでかくれんぼの鬼状態。

7階の部屋とその向かいの部屋も確認してみるが至って静か。

「んー、射撃場?屋上?」

階段そばで腕を組んでやや悩む。

ここは7階、一番下まで降りるのは正直面倒。

腿の筋肉痛もまだ引かないので、

先に近い方の屋上へ探しに行くことにした。



ひんやりとした無機質な階段を登って行くと、

すでに通路には照明が付けられている。

外へ続く重い鉄のドアを押し開ければ、

ネオンを背景に

探していたオトコがそこにいた。

香には背中を向けたままで、

コンクリ柵に体を預け片頬杖をついている。

足元はやはり香と同じスリッパのまま。



「いた!撩、ごはんできたよ!」



ちろっと振り向き様に、香の姿をその瞳に映せば、

またふっと鼻だけで薄く笑った。

「何やってんのよ。」

「べっつにぃ。」

「寒いじゃない。早く中に入って食べよ。」

11月中下旬。

上着なしでは、ここは肌寒い。

ドア口から先に進もうとしない香は、

むくっと上半身を起こして背筋が伸びた相方の背中を見つめる。

夜景を背負い、

縁取られたその体の輪郭に一瞬どきりとするが、

それもバレるのがしゃくだと、出て来たのは平静さを装う台詞。

「ねぇ!冷めちゃうよ!」

わざと苛立ち感を混ぜて繰り返し呼んでみる。

「はいよ。」

含み笑い入りでそう返す撩は、両方の手をジャケットに突っ込み、

そのまま真っすぐ屋上の出入り口に近付いていく。

悪ふざけの表情でなく、いたって素の顔のままで間を縮めて来る様に、

頬骨のところがじわっと赤くなり、

また捕まるかもしれないと、とっさに判断する香の体。

撩の合流を待たずに勝手につま先が階下へ進み、

また誤摩化し用の言葉が出て来る。

「温め直すと余計にガス代かかっちゃうじゃない!」

「だな、さっさと食うか。」

まだ距離があると思っていたオトコとの距離は、

自分の頭の上に置かれた大きな手でゼロになったことを知った。

(ちょっ、りょっ、追いつくの早っ!)

いつも温かいその指先が、少し冷えていることをうっすら感じる。

思っていた以上に外気にさらされていたのかと、

そんなに長い時間何をしていたのか、

かすかな疑問となるが、

深く考える前に撩が先に質問をしてきた。



「メシなに?」

「に、肉じゃが…。で、でも明日は買い物行かなきゃ。お肉在庫切れだわ。」

と照れと疑問を引っ込めて、普通を演じるための応答が続く。

しかし、心の中では、

(ひゃあぁぁ、なんでこんなにくっついてここ歩いてんのよぉー!)

とか

(す、すぐに、触って来るしぃー。)

と、もう「照恥」という熟語を自分で作ってしまいたくなるほどに、

この感情で胸の中が一杯になる。

体温は湯気が出て来る寸前。

この赤くなった顔を見られたくない思いと、

もっと触って欲しいけど、

そんなことを素直にオモテに出せない思いとが

マーブル状に入り交じる。

この2人きりで、左肩が撩に触れそうな近さで、

自分たちの生活空間を歩いているということが、

どうにもこうにも耐えきれず、

いかに切り抜けるかを考え始める香。



そこに撩が、あの長い指をいつものように

くしゃりと香の柔らかいくせ毛の中に泳がせた。

「っひゃ、りょっ、ちょっ、そ、そうだった!

あ、あたし、ヤカンの火かけっぱなしだったんだっ!

と、止めて来るっ!」

と、バタバタしながら撩を置いて一気に階段を駆け下りた。



「………… 。」

撩の右手は空で浮いたままになる。

フェードアウトする香の足跡を聞きながら、

ぷっと吹き出した。

「あらまー、上手に逃げたわねん。」

スキあらば、そのへんの壁に押し付けて、

夕食前の前菜とか言いながら、

また唇を味わおうかと目論んでいたところ。

きっと真っ赤な顔になり、

— ああああんたってば、一体一日に何回ちゅーちゅーしてくんのよっ —

激しく照れながら抗議するだろうと、

撩の頭上にその姿がクリアに浮かぶ。



「ま、一日あたりの最高記録を毎日更新っつーもの悪かぁないがな。」



にやつきながら宙に浮いていた右手を

そのまま左手と一緒に後ろ頭に組み直すと、

またトントントンと階段を降りて行く。



ビル内の警備システムのチェックを一通りすませた後、

屋上で数時間、夕焼けを見送りつつ、

多岐にわたるこれからのことを考えていた撩。

あっという間に夜景が眩しい頃合いになってしまった。

ミックから得た昔の情報、

香の訓練のプログラム、

訓練以外に教え伝えておくべき案件の数々、

機材の補充に、

教授から貰い受けた小道具の受け渡し方法、

エトセトラエトセトラ、

共に生きていくために、

心にとめておくべき事案がそれこそ山のようにある。



「あー、アレも注文しとくか…。」



そういえばと、

冴羽家の書庫にはない、とある資料を入手すべきと

また一つチェックリストが加わる。

そんなことを思い描いていたら、いつの間にか6階の目的地へ。

肉じゃがの香りが鼻をくすぐる。

「はらへった。」

匂いの発生源となっているダイニングキッチンの扉をチャッと開ければ、

もはや“妻”状態の相方は、

ちょうど味噌汁をついでいるところ。

主食は白米に炒りごまを一緒に炊き込み香ばしさと艶を高め、

汁物はワカメとしめじと油揚げ、

主役の肉じゃがに、

副菜は小松菜とベーコンと炒り卵を炒めたもの、

デザートは巨峰と、

いつもながら多種の食材を使った献立てで食卓を整える。

もちろん撩の肉じゃがは大盛りの3人前。

これが当たり前になっていることの奇跡がまたくすぐったい。



「くっていい?」

「手は洗ったの?」

「ちぇっ。」

白木の長イスに座ろうとしたところを、しぶしぶシンクに向かうオトコ。

香のとなりに並んでいい加減に手先に水を流す。

まるで母親に注意をされて

いやいや言いつけを受け入れる大きな子ども。

かけてあるタオルで面倒くさそうに水気を拭き取れば、

香はもう汁碗を配膳し、エプロンをはずしていた。

「冷めないうちに食べちゃお。」

「あいよ。」

そう言いながら2人が一緒に席に着く。

「頂きまーす。」

「いったらっきまーす。」



あれから15日目の夕食の時間。

これまでと別段変わらぬメニューではあるも、

関係が変わってから初の肉じゃがに、

伸ばす箸も感慨深い。



願わくば、

共に年を重ねても、

こうして食卓を共にしていけるよう、

そんなことを心の隅に思いながら、

2人同時に、大きなじゃがいもを

はぐっと口に運び入れた


*****************************
(25)へつづく。






屋上の撩ちゃんは、
シンデレラデート後のイヤリング返却シーンの
ところをご参考にと。

【ご連絡感謝!】
今、子ども会行事から帰宅っ。
Nさん、Sさん、ほぼ同時ご連絡ありがとうございます!
「じゃかいも」「ゆくる」修正させて頂きましたぁぁ〜。
いつもお手間をとって頂き本当にありがとうございます!
2014.04.29.23:15

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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