04-04 Professor's Residence (side Ryo)

第4部 Report

奥多摩翌日の夕方から夜


(4)Professor’s Residence (side Ryo) ********************************************4546文字くらい



閑静な住宅街へと入ると、間もなく敷地の広い教授宅へ到着。

呼び鈴を鳴らせば、すぐに返事が来た。

『おお、撩か。入んなさい。』

当然、監視カメラで姿を確認したのであろう。

鍵が開き、俺たちは中に進んだ。



「教授、美樹さんはどうですか?」

出迎えてくれた教授は、挨拶もなしに香の第一声がそれであることを、

さも当然という表情で答えた。

「ほほ、心配いらん。彼女は奥の部屋じゃ。」

促され3人で廊下を進んでいく。



「ところで撩よ、おまえさんたちの式はいつじゃ?」

ガタタンッ!

振り返った教授は、躓(つまず)き転倒した俺たちを、細い目で眺めた。

「きょ、教授っ!なんすかっ!突然にっ!」

起き上がりながら迫ってみれば、

からからと笑いながらこう言われた。

「隠すでない、隠すでない。

お前さんもようやく覚悟を決めたようじゃし、

ここはファルコンを見習った方が得策だと思うのじゃがの。」

「なーんで、俺がタコ坊主を見習わなきゃならんのですかっ!」



香も、沸騰した顔でおずおずと立ち上がろうとしているので、

とりあえず手を貸してやった。

教授はそのままスタスタと先に進んでいく。

「ったく…。おい、大丈夫か?」

「ぅ、うん。びっくりしただけ…。でもなんで?」

教授の少し後ろを一緒に歩きながら、小声で会話する。

「き、昨日から、みんなそうなの、よ、ね…。」

「なにが?」

かおりは持ってきた花をきゅっと抱いて、更に赤くなる。

声はますます小さくなって、

「…な、なにも、言ってないのに、

…みんな、お、お見通しって感じで…。」



まぁ、俺たちのまどろっこしい関係にやっとケリをつけたことが、

周囲にバレるのは時間の問題であって、

しばらくは、からかわれること必至だろうが、

悪友たちの勘ぐりを含む質問攻撃に香がどこまで耐えられることやら。

いや、たぶんできねぇだろうな。

昨日は、人の心理を読むことも仕事であるような家業の連中が集まっていたんだ。

香を救出してから教会に戻った後の、

些細な行動の変化や表情で、

お節介な仲間は、色々と勝手に読み取ったらしい。



「んまぁ、気にすんな。いつも通りでいきゃあいいんだよ。」

香の頭をくしゃりと撫でて、先に進んだ。

「ぅぅー。」

香は赤面しながら唸っている。

「ここじゃよ。」

教授は、ノックをして奥の部屋に入る。

そこは、以前海原戦の後に海坊主が使っていた部屋だ。

「美樹君、食事はすんだかの?」

「いらっしゃい、冴羽さん、香さん。」

気配ですでに察知していたのか、俺らが入室する前に声をかけられた。

「今、食べ終わったところですわ。ごちそうさまでした。」

ニコニコしながら教授も答える。

「早く治るように、

かずえ君もタンパク質を多めにしておると言っておったぞい。」

中に入ると、

黒のランニングシャツを着た海坊主も一緒に食事をすませていた。

昨日からここに泊まり込んでいたらしい。



「美樹さん、体起こして大丈夫?」

「平気よ。痛み止めが効いているから、ケガしてるって忘れそうなくらい。」

「お花と果物持ってきたの。」

自分が持っていた花束をベッドサイドのチェストにそっと置いた。

「あとで、生けさせて。」

「ふふっ、お願いするわ。」

俺もその傍に果物籠を置くことにした。



美樹ちゃんは、食べ終わったトレーを片手でベッドサイドに置こうとしたが、

香がすぐに受け取った。

「ありがと、香さん。」

「ううん、海坊主さんのも一緒にこっちに置いておきましょうか?」

香とベッドを挟んで反対側にいたタコにも声をかける。

「ああ、頼む。」

「はい。」

と、扉近くののテーブルに2つのトレーをそっと置いた。



「よかった、昨日より断然顔色がいいから、

いつもの美樹さんに会えてちょっと安心したわ。」

「え?そぉ?」

右手を動かさないように、三角巾で吊り下げられている肩以外は、

確かにいつもの美樹ちゃんだ。

「だって、教会では青白かったから、本当に心配だったもの。」

「もう、香さんも心配性なんだから。この分だと、早く治りそうな気分よ。」

これは美樹ちゃんも、口調から本気でそう感じているようだ。



そこへ、かずえちゃんが入ってきた。

「あら、冴羽さん、香さんいらっしゃい!」

「お邪魔してるよん。」

俺はポケットに手を突っ込んだままウインクしながら答える。

「食器を下げに来たの。私ちょっと出かけますんで、

教授、あとをお願いしますね。」

トレーを持ったかずえちゃんは、慌ただしく部屋を出て行った。



「教授、ミックは来てますか?」

俺は元相棒の所在を聞いてみた。

先ほどから、この屋敷内に奴の気配はない。

「ミックはのう、この2、3日で片付けてしまわなければならない原稿が

あるとかいっておってのう、

昨日はこっちについたらすぐに帰ったんじゃよ。」

「確か、かずえちゃんも実験がどうのと、教会で言っていたような。」

「恩師との共同実験のデータ解析で、今から大学に行くらしいのう。」

なんだ、ミックもかずえ君も結構忙しいんじゃないか…。



「ファルコン、お前さんも、確か緊急の仕事が舞い込んでいるはずじゃの…。」

「はぁ?結婚式直後から仕事かよ?」

初めて聞いた事実に正直驚く。

「ファルコン、私のことは気にしないで、

お店はいつでも休みがとれるけど、

あなたへの依頼は、先送りできないものでしょ?」

美樹ちゃんが続ける。

「ケガの方はもう全然平気だから、付き添いは大丈夫よ。」



ここで、香がそれぞれの状況を読んで、会話に入ってきた。

「ねぇ、美樹さん、私がここに通うわ。」

「か、香?」

突然の提案に、

この展開はあまり自分がいいと思わない方向になりそうな予感がよぎる。



「私たちに、そうそう依頼は入りそうにないし、かずえさんも、忙しそうでしょ?」

「香さん…。」

「海坊主さんも、ここは私に任せてお仕事に専念して下さい。」

「ちょ、ちょっと待て、香。」

俺は、今はできるだけ香を安静にさせときたいと思っているのに、

その真逆をしようとしているこの提案は受け入れ難い。



「撩、元はと言えば、私たちが原因なのよ。美樹さんは謝らないでって言ってくれたけど、

この状況で何もしない訳にはいかないわ。」

「香さん、……冴羽さんは、すごぉーくいやそうな顔してるわよ?」

ぎくっとする。

俺としたことが表情に不快感を丸出しにしていたとはっ!

「い、いやだなぁ、美樹ちゃん。俺も香の意見にもちろん賛成さ!」

はぁ、大ウソだ。

教授の視線を感じて、ちらと見ると、肩で笑っていやがるっ。くそっ!



タコがゆっくり立ち上がった。

「香、本当にいいのか?」

「もちろんよ、こんなことじゃ、

助けてもらった恩返しにもならないと思うけど…。」

「そうか…、だが伝言板に依頼が書かれたら、そっちに集中してくれ。」

香は、その言葉を聞いて微笑んだ。

海坊主は、香の提案を飲むことにしたようだ。

はぁ〜、まいったなぁ。



「そこの花瓶使っていいかしら。」

と香は、部屋の隅にあった陶磁器を手に取り、花束を入れて戸に向かった。

「じゃあ、話しはこれで決まりね。あたしお花生けてくるから。」

と振り返りながら出て行った。

さりげなく教授も後に続く。



俺も部屋を出るか迷ったが、タコに聞くことができた。

「おい、海坊主、今回の仕事はやっかいなもんなのか?」

たぶん、簡単な内容じゃなさそうだな。

「いや、たいしたことはない。」

口調で分かるっつーのに。

「冴羽さん、ファルコンに早く戻ってきて欲しいんでしょ。」

美樹ちゃんが突然ふってきた。

「はぁ?」

「香さんがここで色々することが、とってもイヤだって顔に書いてあるわ。」

あーもー、昨日から美樹ちゃんには、つっこまれっぱなしだ。

「な、なに言ってんのっ!美樹ちゃーん!

あいつ、自分から一度言い出したらなかなか聞かないだろ?」

ちらっとタコの方を見る。

「あー、海ちゃん、詳しく話せよ。手伝うぜ。」

海坊主の困惑する空気が伝わってくる。

「…撩。」

「タコのためじゃねぇさ、美樹ちゃんのためだ。」

腕を組んでそっぽを向きながら早口で言う俺に、くすりと漏れる声が聞こえた。

「冴羽さん、素直じゃないわねー。」



そこへ香と教授が戻ってきた。

香はちょっとギクシャクしている。

まーた教授が余計なことをくっちゃべったんじゃないだろうなぁ。

「お、おまたせー。ここに置いておくわね。」

「ありがとう、香さん。きれいだわ。」

「美樹さん、明日昼頃また来るわ。

朝食はもうかずえさんが用意してるって、教授から聞いたから。」

「でも、香さん無理はしないで。

なんだかいつもより体が重そうに見えるわ。」

俺ら二人ともこの言葉にドキッとする。

たのむ、美樹ちゃんそれ以上は突っ込まないでくれ…。



「たぶん香さんも昨日の疲れが残ってるのよ。」

「あ、あはは、ち、違うのよっ。

あ、あの、ゆっくり休みすぎちゃって……。ね、ね、寝過ぎたくらい、なのよっ。

だ、だ、だから心配しないでっ。」

必要以上に不審な身振り手振り、赤い顔で、かみながら説明する香。

はぁ、余計怪しまれるだろうが…。

ため息をこぼす俺。

教授も、ニヤニヤしている。



「香、そろそろ行くか。」

これ以上、香にしゃべらせると墓穴が待っていること間違いなし。

ここからの脱出を図ることにする。

「あ、う、うん。じゃ、ま、また明日。」

朱に染まったまま、まだどもる香。

「おっと、海ちゃん、あとでウチに電話くれや。」

タコに視線を送り仕事の内容を教えるよう合図をする。

「ああ。」

「じゃあな。」

「教授、また明日来ます。」

「ほほ、待っておるぞ。」

香は教授に会釈して、部屋の外に出た。



戸を閉め切る直前に、美樹の大きな声が追いかけてきた。

「冴羽さん!香さんに無理させちゃだめよ!」

バタン!

「っが!」

指を挟む。

くっそぉー、痛てぇ。

「りょ、撩!大丈夫?」

「あー、手元が狂った。」

美樹ちゃん、なんにでも取れるそのセリフは勘弁してくれ…。

「さ、帰ろーぜ。」

「うん。」

明日以降の予定は海坊主の電話の内容次第と、

教授宅の門を出た。



。。。。。。。。。。。。。。



2人が出て行った後、

美樹が休む部屋に残った3人はおのずと顔を見合わせた。

「香さん、本当に分かりやすいわね。」

「あぁ、撩も戸惑い具合が面白いくらいだ。」

「ふぉっほっほっ、あまりからかうでないぞ。」

それぞれが、彼らの姿を思い返す。



「…でも、本当によかったわ。」

美樹は、あの二人がおそらく長らく越えるに越えられなかった一線を

ようやく越えたことを感じていた。

同じ裏世界に身を置き、一度ファルコンに別れを告げられた身、

お互いが相当の決心を携え、壁を壊したことが痛い程伝わってくる。

妹のような大事な人だからこそ、

家族のように心配していた懸案に、やっと明るい光を見て、

心からほっとしていた。



ファルコンが小さく口を動かした。

「あいつは自分じゃ気付いていないかもしれないが、

撩の奴、体の匂いが微妙に違っていた。」

「え?それって?」

「ほほ、香君とくっついている時間が長かったんじゃろう。」

自分で言ったくせに、ファルコンは茹で蛸になっていた。



「じゃあ、私たちも匂いが変わるくらい仲良くしましょ!」

流し目でファルコンを見つめる美樹。

「っな!な、なにを言っているんだ美樹!

ははははし、た、ないこと、をっ!」

耳から蒸気を出すファルコンを細めで見ながら教授は扉に向かった。

「ふぉほほ、お邪魔虫は退散することにするかのう。」

と、パタンと音を立てて、その場を去った。


**************************************************
(5)につづく。




奥多摩で美樹が狙撃された後、
流れとして当然教授宅で療養ということは、
疑いの余地がないところ。
で、当方、この入院中に香ちゃんに美樹のお世話係りをさせるシチュを
どぉーしても作りたくて、
海ちゃんには「仕事」を与えてやることに。
同時にかずえもミックも忙しくさせてしまえば、
撩と香がここに通わざるを得ないでしょ〜と、
にやつきながらキャラを動かしてしまいました。
負傷した美樹と香がその後しばらく会えない、会わないというのは、
あまり考えられなくて、
海ちゃん、かずえ、ミックが忙しくなくても、
香ちゃんは、毎日、お見舞いに行っていたかもしれないし、
だったら、世話させちゃえ!と
続きが勝手に出来上がっちゃいました。
翌日から、通いが始まりま〜す。




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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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