29-29 Let's Go To The Seventh Floor

第29部 Calm Day?

奥多摩湖畔から15日目   



(29) Let’s Go To The Seventh Floor ******************************** 3076文字くらい




「なっ、なに?!」

「このレベルの気配はまだ読めないワケね。」



頭の上から聞き慣れた楽しそうな声が聞こえて、

しかけた相手の正体を知る。

このタイミングで、どこぞの輩(やから)が撩の声色を真似て

こんなことをする可能性は低いだろうと、

本能的な感覚も

ニセモノ説を考慮しなくていいことに賛同した。



「なっ、なにすんのよ!」



圧迫を感じる両目部分に反射で手先がかかる。

指先に触れたのは折り畳まれた布地。

どうやら昼に使った目隠し用のバンダナを

再度同じように使われているらしい。

確か、リビングのガラステーブルの上に置きっぱなしだったはず。

抗議している間に、

素早くキツく布の端が頭の後ろで結ばれた。



「訓練だっつーただろぉ?」



この声色に、

護身術や射撃のような実地訓練がこれから始まるようには思えない。



今、自分は後ろから撩にバンダナで目隠しをされた。

しかも、簡単には取れないように。

困惑する香の鼻先をくすぐるのは、

風呂上がり特有の石けんとシャンプーの匂い。

わずか数分でもう上がったのかと、あまりにも短時間過ぎる入浴に

思わず冗談でしょと口に出そうになった。

その前に、直近の疑問を訴える。



「く、訓練って?あ、あたし、もう寝る準備をし」

「なお好都合だ。」

「は?」

香は、撩がいると思われるほうに振り向いた。

不思議なことに、

このところ執拗にべたついてくる相棒は触れてこない。

視野は真っ暗。

シンクを背に自分の立ち位置は確認できるが、

撩がどこにいるのか全く分からない。



「ど、どういうこと?」



がたりと音がした。

たぶん、撩が白木の長椅子に座った時に、

床で発生した重みのある摩擦音。

入口から見て、左側に腰を下ろしたような音源。

そう感じた香は、

撩がいると思われる方に顔を向ける。



「撩ちゃん、けっこう迷ってだんだけどぉー、

ここから香ちゃんを抱っこしてそのまま俺の部屋に持ってくかぁ、

それとも自力で移動してもらうかぁ、

どっちにしよっかなぁーって。」

「はい?なによ!ヒトを荷物みたいに!」

この時、撩は両手で頬杖をついて目を細め、

香を見つめていた。

しかも、風呂上がりの腰巻きタオル一丁状態。

実は、目隠しされている香が

自分の方にしっかり顔を向けていることが

かなり嬉しかったりするが、まずは説明を始めることに。



「おまぁ、とりあえず、このままここから7階へ行ってみ。」



シンクの端を掴んでいる香の手がぴくんと動いた。

昼間、香は目隠しをした状態で自主的にリビングを周回し、

停電や煙幕などの襲撃に備えて疑似訓練をやってみた。

それを今からまたここをスタートとして、

撩の部屋をゴールというコース取りで歩かなければならないのかと、

撩の言葉を繰り返した。

「え?見えないままで7階に?」

「そ。」

6年も住んでいる場所、間取りは当然頭に入っている。

しかし、非常灯も見えない状態での移動は未経験。

こくりと喉が鳴った。



「く、訓練、なのよね。」

「そ。」

「………せ、制限は?時間制限とかある?」

「うんにゃ。」

「………りょ、撩の部屋まで、行けばいいのよね。」

「そ。」

「………わ、わかった。」

香は、たぶん撩の中でストップウォッチが動いていると感じた。

もたついて、がっかりさせるワケにはいかない。

訓練という文言に、

真面目に向き合うスイッチがカチリと入った。



一回すっと浅く空気をすって、出発の合図とする。

背筋を伸ばして、

寄りかかっていたシンクから腰を離し、

右手をつと伸ばして、ダイニングテーブルの端を見つける。

そこから、木目に指を滑らせながら、

長椅子の角に自分の足が触れたのを確認して、

いつもと変わらぬ歩調で出口に向かった。

パタパタとスリッパの音だけが妙に耳に届く。

右手はテーブルの端に触れたまま、左手を長く伸ばして、

ドアの木枠を見つけた。

真っ暗闇でも、

触ったものから周りの風景が目の裏に描かれる。

テーブルから右手が離れ、香は廊下へと一歩踏み出す。

キッチンよりも気温が低いとより明確に感じた。

左手を壁から離さないままで、

香はカーディガンの襟元をくっと寄せた。

そのまま廊下を右に曲がると、

右側通行で壁を手すり代わりに、

次の扉に向かって出来る限りいつも通りの歩幅で前進する。

すると背後でパチンという電気を消す音と、

パタンとキッチンの扉が閉められる音が聞こえた。

おそらく距離を置いて、様子を伺っているのだろうが、

あまり気持ちのいいものではないなと、

香は急ぎでゴールを目指すことにした。



「たぶん、このへん、だと…。」



吹き抜けに繋がるドアの位置をさぐるべく、

右手を添えていた壁に背を向けて、

両手を伸ばして反対の壁に接近する。

「あれ?」

思った場所になにもない。

ここの廊下は、こんなに横幅があっただろうかと、

またも思い込みの感覚に惑わされる。

「あ、あった。」

指先に触れたのは、ドアではなくどうやら壁らしいが、

この場所から左右どちらにノブがあるのか、すぐには分からなかった。

まずは、横歩きで右に移動するが、目的のものに触れられない。

ということは、もっと左に出口があるということかと、

香は、左に向き直ってパントマイムをするように

壁に触れながら左に横歩きをする。



「な、なんで?」



ドアが見つからない。

ここの廊下、こんなに短いはずないのに、

自分が最初に奥に行き過ぎたかと

現在地に自信がなくなり始める。

不安がちらりと見えたところで、指が蝶番を見つけた。

「こ、ここか…。」

はぁ…と、肩から力が抜ける。

もし、停電になったり、目を負傷して視力が奪われたりしたら、

こんな移動も簡単に出来ないのかと、

日頃の視覚依存度の高さを改めて思い知る。



かちゃりとノブを回し、書棚が並ぶ吹き抜けに入れば、

より一層気温が低いことを肌で実感する。

自分のすぐ左手には、7階への階段があり、

つま先でその段差を見つける。

ここは、左寄りで歩くと階段を登り切ったところで、

途中壁がなくなるところがある。

香は少し迷って、階段右詰めに立ち位置をずらし、手すりに指先をそえた。

あとは、いつも通りの歩き方で、トントントンと登って行く。

たったこれだけで、とてもエネルギーを使った気がすると、

毎日のように使っている場所を、

ただ目隠しして歩くだけで、

こんなに世界が違うように感じるものなのかと、

思うように三次元を認知出来ない事実に唇をきりっと噛んでしまう。

昇り切ったところで、

ここから何歩のところで撩の部屋の前なのか、

いつもどうやって撩の部屋に行って起こしに行っていたか、

イメージを頭の中で浮かべる。

あまり考えていても時間ばかりとってしまうので、

最後の扉を目指して一歩を踏み出した。



「だいたいこのへんのはず…。」



目測で一旦停止。

柵を背にして、撩の部屋があると思われる方へ顔を向ける。

ゆっくり両手を前に向け、触れるものを探して通路を横断。

想像した場所で、指がつんと平面に当たった。

壁を雑巾がけするように手の平を這わせたら

左の小指にまた蝶番があたり、ドアの場所を特定できた。



「つ、ついた…。」



で、ここからどうしたらいいのか分からない。

一応、真っ暗な中で撩の部屋の前まで辿りついた。

中にこのまま入ってもいいものなのか、

それとも次の指示を待ったほうがいいのか、

香は、自分の後ろからついて来ているであろうオトコに、

確認をとってみることに。



「ね、ねぇ、撩、ドアまで来たけど、このあとどうするの?」



香は扉に両手の平をひたりと当てたまま、

顔を階段の方に向けて話しかけた。

「開けて入ってこいよ。」

「は?」

撩の声は、なぜか部屋の中から聞こえてきた。



*************************
(30)につづく。





【誤植修正!】
パートマイム⇒パントマイムに直しました!
中学生の時から、
ずっとパートだと思い込んでおったぁ…。
ご連絡感謝!
2014.06.06.09:48

スポンサーサイト
プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


9万hit記念に
とりあえず作ってみた
CH専用Twitter
 


拍手1000パチ記念につけちゃいました。



かなり便利なサーチツール

登録サイト最新情報はこちらをチェック!


試運転中…

カテゴリ
最新記事
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR
現在の閲覧者数: