29-31 What Color ?

第29部 Calm Day?

奥多摩湖畔から15日目



(31)What Color ?  ************************************************** 3727文字くらい



「あ…。」



香は、自分の額にさわさわと触れている柔らかいものが、

さっきから気になっていた芳香の発生源だと感じた。



「花?」

「それだけじゃあ、ダメだな。」



しっとりとした薄い質感のそれは、

布越しの目の間を静かに通過し、

高い鼻筋の尾根をじっくりゆっくりと辿り始めた。

「!」

香の口が薄く開いて、すはっと小さく息が吸われ、

枕に添えられた指がぴくりと動く。

かぁっと頬が朱色になり、思わず声が出た。

「な、なにしてんのよ!」

「尋ねてんのは俺、早く回答してみ。」

その言葉と重なるように、

鼻先に行き着いたそれが、

鼻翼と上唇の間をくすぐるように行き来する。



バンダナで目隠しをされ、

撩が片腕をついて自分を見下ろしている。

それだけでも、かなり受け入れ難い状況。

今、何かが肌に触れているが、

撩はキッチンにいる時から全く香自身に触れてこない。

これから一体どうなるのかと、

心臓がトトトトと早くなる。



鼻尖をからかうようにくすぐる有機物の感触。

濃くなる個性的な匂い。

ふと石けんを思い出した。

そのパッケージは、ローズの香りのキャッチコピー。



「バ、バラ?」



浮かんだ像がすぐに言葉になった。

なんでバラの香りがするの?と疑問に思うも、

すぐに心当たりがポンと浮かぶ。

リビングに飾ってあったかすみからの花束。

らしくもなく、

撩が活けてリビングのソファー裏の棚に指定席を設けた。

もし、バラだったらその花がこの部屋にあるのはなぜなのか、

小さなクエスチョンマークがちょんちょんと浮かぶ。



「第1ゲート、クリア。」

「へ?」

なにそのゲートって?と口が香の開く前に、

次の設問が撩の口から告げられる。

「花の色は?」

「はぁあ???」

声が一段大きくなって出てしまった。

「目隠しされてんのに、分かるわけないじゃない!」

思わず起き上がりそうになったが、

口調だけで抗議することに。



「バラって分かったんだろ?」



花弁がそのまま肌を伝って香の頬骨を撫でていく。

触れられる感覚が移動する度に、

ぴくりと細い肩が揺れる。

「ヒントはおまぁも知っているはずだぜ。」

「ひ、ヒントって…。」



この状況に異様なエロティックさを感じ始めた香は、

考えなければという思考が飛散寸前。

おかしい。

目隠しをされたまま、こんな風に花で顔を撫でられるなんて、

日常じゃありえない。

こんなこともちろん人生初体験モノ。

置かれている状況が客観的なイメージとなり、

強烈な恥ずかしさがこみ上げて来た。

これでは、まな板の上の鯉だったか鯛だったかと、

ピキンと体温が上がった体が硬直する。



「思い出せねぇーか?」



撩の声ではっとするも、何をさしているのか分からない。

「な、何を?」

「何色あったか。」

「え?」

香は、撩の言葉をなんとか反芻する。

仮眠から目覚めた時に、視野に飛びこんだ華やかな花瓶。

ぼやぁーと記憶から引っ張り出された部品が組合わさっていく。



(た、確か、一律同じ咲き方ではなかった気がする…。)



蕾、開きかけ、完全開花と様々なパターンがあった。

(い、色は?)

明るい色が多かった気はするが、

網膜にはその詳細までは焼かれていなかった。

「ちょ、ちょっと待ってよ…。」

「ま、考えてみ。」



穏やかな撩の返答にほっとはするが、

とにかく圧倒されたバラの数に、

総論がおぼろげながら見えても、各論が思い出せない。

(お、落ち着いて考えたら、もしかしたら分かるかもしれない。)

「えっと…。」

(赤はあったはず…。そして、た、たぶん黄色も…。)

ぼんやりと構成色が浮かんで来る。

きっと観察力とか記憶力を試されているのではと、

訓練の主旨を少し掬い取った香は、

バラの色としてあっておかしくないものと、

自分が見たはずの色彩を必死に思い出そうとする。



(三色どころじゃなかったわ。確か、もっとあったはずよ…。)

香は、軽く唇を舐めた。

グラディエーションを描くように花瓶にまとめられたバラは、

暖色系が主だった。

(濃い色は、たぶん、赤だけだったのような気がする…。)

眉間にくっと力が入る。

「んー…。」

思い出せない。

(ピンクはあったわよね? オ、オレンジも混じっていたような…。)

4色まではなんとかメモリーから引き出すも、

これが限界。



(ん?い、今、撩が持っているということは、
 
そこから抜かれてきたということよね?)



はたと気付いて、全体像を思い出す。

他のより少なかったと感じた色がなかっただろうかと、

あの時、

バラの香りで驚き振り向き、目に飛び込んで来た対象物を

もう一度思い返してみる。



(うーん、たぶん3、4本ずつ?ううん、

もしかしたら5本ずつくらいあったかしら?

赤が目立ったてたし、他の色って…。)



明るい黄色があったのは覚えている。

可愛いピンクの花びらも目に入ったはず。

悩みに悩んで、結局は

消去法で頭数が少なかったものを勘で選ぶことにした。



「………お、オレンジ、色?」



自信は全くナッシングという力のない小声で、

答える香。

右の頬で円を描いていた花弁がピタリと止まった。

一拍待つが何も返ってこない。

「…りょ?」

間違えた?と自分の記憶力の足りなさを責めそうになった時、

ふっと短く吐き出される息の動きが聞こえた。



「……せーかい。第2ゲートクリア。」



固くなっていた体が、ほっと安堵するとともに力が抜け、

胸部のツインピークスがすうと標高を下げた。

「なぜそう思った?」

撩は、花で香の顎のラインをすーと辿りながら尋ねる。

「な、なんとなく、よ!ちょ、ちょっとまだ続くの?」

撩はくすりと笑って、香のおとがいを花弁でくすぐると、

「いい勘してんな。次第3問。」

「え、ええー?!ま、まだやんの?も、もう、これ、は、はずしたい…。」

「だーめ。」

その却下の言葉と同時に、ひたっと香の唇に感触が乗ってきた。

「っ!」

まるでリップクリームを塗るかのように、

上下の唇に花弁を這わせる。



「手は使わずに、花の状態を答えてみ?」

「は?じょ、状態?」

「そ。蕾か咲きかけか、満開か、散りかけか。」

「そ、そんなの分かるわけないじゃない!」



自分がしゃべるたびに、花片が口先に触れて、

脳の裏にぴりぴりと刺激が回る。

のんびりと薄い皮膚を往復するそれのためか、

無性に撩の感触と熱が恋しくなる。

自分の本能が撩の指と唇で直接触れて欲しいと要求を出し始め、

それを誤摩化すために噛みまくりで訴えた。



「ててて手で触んないと、わわわわ分かんないわよ!」

「感覚器官があるところは手だけじゃないだろ?」



まるで花とライトキスをしているかのような、

こまやかな筆遣いを思わせる動きに、

耐えきれなくなり、

香は顔を思わず横に反らしてしまった。

左耳があらわになったところで、

花は頬を伝って滑るように耳介に向かう。



「は…ん。」



敏感に感じる部分の一つ。

つい声が漏れてしまった。

肌と花弁が擦れる音が鼓膜直近でかさかさと伝わり、

鼻腔にはバラ科特有の芳香がすでに染み付いている。

まるで媚薬を飲まされたかのように、

息が浅く早くなり、

熱くなった体は、オンナの部分が疼き始めてきた。



「ちょ、ちょっと…、こ、これって、ほんとに、…訓練なの?」



また、撩がふっと鼻で短く出した吐気の動きが耳に届く。

「とーぜん。」

花が香の肌を転がっていく。

頬に、首筋に、顎の裏にと感触で

茎を軸にころころと回転しているのが

伝わってきた。

茎の刺はもちろん処理済み。



「まぁだ、わかんね?」



早く答えたいと思うが、意識が集中できない。

すぐにでも撩に覆い被さって欲しい、

そんなことを考えている自分が恥ずかしくなり、

その意志を追いやりながら、

必死で花の形状を触れた部分の皮膚で感じとろうとする。



「つ、蕾?……というか、…さ、咲き、かけ?」



そう言いながらゆっくりと顔を正面に向ける。

若干すぼんだ漏斗状のイメージが浮かんだ。

その間口は狭いのではと、

転がされたと思われる時の感覚を拾い出す。

首筋を這っていたバラの花は、

香の動きに合わせて、再び唇に戻って来た。

撩が自分の肌に口を付けている時の温度と

どうしても比較してしまう。

自分が欲しいのはそれじゃないと、ぽろっと言ってしまいそうで、

口元を強くつぐんでみる。



「ま、こんだけやってりゃ分かるわな。」



楽しそうな口調に、ワケもなくむっとしてしまう。

「ちょっと!あ、あんた、遊んでるでしょ!」

「うんにゃ、至って真面目な訓練だっつーとるだろうが。」

花茎をちょいちょいと指先で動かしながら、

にやにやしている表情が目に浮かぶ。



「第3ゲート通過、次第4な。」

「まっ、まだやんのぉー?」



正直、もう色んな意味で限界の香。

半ば涙声。

「おっと、起き上がるなよ。そのままでいろ。」

反射で上体が少し浮いてしまったのをとがめられた。

はぁと肩の力が抜け、体がまたベッドに沈む。

頬をするっと撫でられた後、花びらの感触が消えた。

「?」

ぷちっと何かが折られるような音がしたと思ったら、

右耳の後ろに細い何かが差し込まれた。



「動くなよ。」

「え?」



バンダナの布の下で目が見開いてしまった。

くいっとパジャマの前みごろのボタンが軽く持ち上げられる。

「なっ!」

あっという間に、6つのボタンが外された。



しかも、

また香には直接撩の指が触れることなく、

布だけが動かされ、

タンクトップから見える白い肌がご開帳。

薄暗い中で、

鎖骨の陰影が深く映し出された。



*****************************
( 32 )へつづく。





もちろん撩は確信犯でカオリンに触れない作戦続行中。
当然、訓練は後付けの言い訳。
シュワちゃん主演の「トゥルーライズ」で
ヒロインのジェイミー・リー・カーティスが
花を顔に這わせられるシーンからの妄想です。

スポンサーサイト
プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


9万hit記念に
とりあえず作ってみた
CH専用Twitter
 


拍手1000パチ記念につけちゃいました。



かなり便利なサーチツール

登録サイト最新情報はこちらをチェック!


試運転中…

カテゴリ
最新記事
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR
現在の閲覧者数: