04-06 Falcon Talk (side Ryo)

第4部 Report

奥多摩翌日の夕方から夜


(6)Falcon Talk (side Ryo) ********************************************************2452文字くらい



もうゴールデンタイムが終わろうとする頃アパートに着く。

忘れずバケツセットも回収。

階段を登りにくそうにしている香は、

俺が口を出す前に、先手を打ちやがった。

「ひ、一人で上がれるから!き、気にしないで!」

まるで顔の色素にリコピンでも含まれてんじゃねぇーかと思う程に赤くなり、

慌てて口走るその内容に、苦笑するも、

たぶん、こいつは小さいころから甘えることを抑えてきたタイプだろうなぁと、

その生い立ちに思いを馳せる。

まぁ、俺も人のこと言えるような来歴ではないが。



「んじゃ、後ろからサポートしちゃおっかなー。」

おちゃらけモードで、

香のタイトスカートの裾に視線が平行になるまで階段を後退し、

スキあらばと首を傾げれば、またミニハンマーが飛んできた。

「ぐへっ!」

一線を越えた後も、

こうしてハンマーを出してくれることに半ば安堵する。



玄関を開けると、また俺らの日常の空間に戻れる。

「あ、あたし、すぐ食事の準備するから!」

「ああ。」

キッチンに直行する香を見送り、俺はバケツセットを脱衣所の前に置いて、

リビングへ向かう。

出発前に香が取り込んだ洗濯物がソファーに積んであるのが目に入った。

まずは一服しようかと、タバコを探す手がポケットに入ったが、

煙の匂いがついちゃぁ、また香がおかんむりになるな。

喫煙をやめ、ソファーに長辺に腰を下ろしかけた。

すると、まだ座るなと言うかのように電話が鳴った。



「なんだよっ、このゼツミョーなタイミングはぁ。」

相手はわかりきっていたので、子機を取ると、文句を言ってやった。



「おいこら、タコ。こっちは着いたばかりでまだ座ってもねぇーんだぞ。」

『だったら早く座れ。』

「手短にたのまぁ。」

ソファーに短辺に腰掛ける。

『明日の午後、現場の下見だ。』

「場所は?」

『大井埠頭だ。』

「近いな。」

『コンテナをいくつか海に沈めて、サツに見つけさせる。』

「ふーん、ヤクか偽札か?」

『俺らの商売道具だな。』

「なるほどね。それ貰っちゃだめなのか?」

『あまり質のいいものはない。あきらめろ。』

つまり、武器・銃火器の密輸現場の差し押さえという訳やね。

『ブツの出港は3日後だ。』

「え〜、撩ちゃんそんなに待てなぁ〜い。」

『気色の悪い声を出すなっ!』

「んじゃ、明日教授んちで飯食った後、見に行きますかね。」

『また、その時説明する。』

ん?やっぱ声に緊張感があるな?手強い相手なのか?

『撩…。』

「なんだ。」

『い、いや何でもない!じゃ切るぞ!』

ゴトッ、ガチャガチャ!ブツ!ツー、ツー、ツー。

「な、なんだよ。あいつ受話器落としやがって。」



しっかし、新婚早々、花嫁は俺らのせいでケガをして、

ハネムーンもなしで、教授宅に入院。

新郎はさっそく裏の仕事に振り回され、

新婦と一緒にゆっくりと過ごせないなんざ、

これが俺らのいる裏社会の宿命ってか。



「はぁ〜あ、あ〜。」

力一杯伸びをする。ぽきぽきと関節が鳴る。

いつ死ぬか分からない、いつ大切な者を失うか分からない。

まぁ、普通に生活していても、

交通事故に、病気に、自然災害、各種犯罪と、

いつ命の危機に遭遇するか分からないというのは、

誰も同じかもしれないが、

俺らのいる環境は、

特に犯罪にからむ危険率が際立って高いことは、

お互いとうに十分認識している事だ。



いつ失われるか分からないからこそ、

この「普通の日常」の有り難さもひとしお強く感じるところだが、

その日常に香がいることが、絶対条件か。

そんなこと、随分前から分かっていたのに、

自分で認め受け入れるまでに、随分と遠回りしたもんだ。

ふっと軽く笑う。



「シャワーでも浴びてくっか。」

畳む手間を一つ減らすために、

そばの洗濯物からタオルを1枚引っ張り出し、

のっそりと立ち上がって、首をコキコキ鳴らしながらリビングを出た。

廊下には、かすかに揚げ物の香りが漂う。

キッチンの戸を開けて、声をかける。

「香ぃ〜、俺、先に風呂入ってくるわ。」

「あ!うん!上がる頃には出来てると思うから!」

背中を見せたまま、首だけ動かして振り返る香。

作業の手は止めないまま、また向き直る。



エプロンをつけ、シンクに立つ姿、いつも見慣れているはずなのに、

さっき悶々と考えていたことのせいか、

後ろから抱きしめたくなる衝動にかられた。

あー、いかんいかん。

今そーんなことしたら、はずみで揚げ物の鍋がひっくり返って大惨事だ。

勝手な妄想と、湧いて出てくる邪心を押し込め、

キッチンの戸を閉めた。



「あ、着替えがねぇーや。」

脱衣所に向かおうとして、着替えを取りに自室へ向かった。

部屋の扉を開けたとたんに、今朝の情景がフラッシュバックする。

取り替えられたシーツに、畳まれた掛け布団。

そうなんだよなぁ、今朝のことだったんだよなぁ。



ベッドの端に腰を下ろした。

スプリングがぎしりと音を立てる。

触れることに、怯え逃げていたことが嘘のようだ。

ふっと、笑みがこぼれたのが自分でも分かった。

新しいシーツとピローケースに目をやると、

ぼんやりと肩を露(あらわ)にした香が横になっている姿が浮かび上がる。

水を飲みに下へ降りる前に見た網膜の記憶。

手を伸ばして、指が触れた場所は枕だった。

「あー、いかん。」

なんだか色々と相当ヤバい気がする。

ぷるぷると頭を振る。



「さて、着替えはっと。」

気分を切り替え、よっと立ち上がり、

インナーセットを手に持ち、浴室へ向かった。



シャワーを浴びながら、海坊主の言っていた情報を思い返してみる。

大井埠頭は最近、怪しい動きが多く、サツも警戒していると聞いた。

コンテナを動かすということは、

リーチスタッカーか、コンテナキャリアーを動かさなければならない。

どっちかが操作して、どっちかが援護か。

相手によっては銃撃戦もなきにしもあらずか…。

3日後、ということは、

明日下見、明後日下準備、当日実行、だな。

まぁ、さっさと終わらせて、

タコ坊主を美樹ちゃんの元へ返してやらんとな。

結局は、香が教授宅に通う期間を少しでも短くしたいという、

自分の我のためでもあるがな…。



頭と体をさっさと洗って、熱いシャワーでざっと流し、浴室を出た。

カオリンと一緒に風呂入れるのは、一体いつになるかねぇ〜。

仕事モードの思考から、愛しきパートナーへ想いが切り替わると、

3分しかもたないまじめ顔から、ゆるんだスケベ顔へ変身。

「さて、飯は出来たかなー。」

スウエット上下をまとい、キッチンに向かった。


**************************************
(7)へつづく。





すいません、大井埠頭行ったことないです。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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