04-07 Dinner (side Ryo)

第4部 Report

奥多摩翌日の夕方から夜


(7)Dinner (side Ryo)*************************************************************2711文字くらい



扉を開けると、ダイニングテーブルにはすでに配膳がされていた。

「お、今日は魚か。」

そういえば、昼飯の後、アジが冷凍庫から出されていたな。

大皿盛りで、マアジのマリネがたっぷり用意され、

マカロニサラダに、豆腐と油揚げの味噌汁。

青物のお浸し、デザートにキウイフルーツ。

そこに、どんぶり山盛り一杯の俺の飯がよそわれ、手渡される。

「はい、どーぞ。」

「ぉ、おう。」

いつの頃からか、こうして香の作る手料理を味わうことが

『普通』になってしまった。

成長期にジャングルで食べてきたものを思い返すと、

考えられないような食生活と食環境。

これが今、当たり前になっている。



「じゃ、食べよう。頂きまーす。」

香は、エプロンを取り、俺と対面に座り、箸を持ったまま手を合わせた。

「用意が遅くなってごめんね。」

「いんや。」

箸を主菜に伸ばし、はぐはぐと口に運ぶ。

調味液に浸ったしっとりした部分と、

揚げたサクサクする異なった食感が酢の酸味で包まれ、野菜と魚の旨味もある。

「うまい。」



ガシャ!

香は、左手に持っていた茶碗をテーブルに落とした。

右手は箸を持ったまま、目を点にしてフリーズしている。

「おいおい、どうした?大丈夫か?」

思わず立ち上がって、斜めに転がっている茶碗を起こしてやった。

焦点を失っている香の目の前に、

手の平をひらひら振って、再度呼んでみる。

「か、香?」

はっと、我に帰った香は、瞬時に赤くなった。

な、なんだぁ?



「……ぁ、っと、…ご、ごめん。……驚いちゃって。」

は?ナニを?

困惑している俺の前で、香は目が潤んでいる。

だぁ!なんで涙腺緩んでんだよ!俺なんかしたっけか?

いや、今までのことを考えれば心当たりはありすぎるんだが…。



「……は、初めて、…聞いた、から…。」

白く細い指で目尻にたまった涙の滴を払う香の言葉は、

すぐには理解できなかった。

なぜなら、香が初めて聞いたという俺のさっきの言葉は、

俺自身、無意識にポロッと出てしまった単語だったからだ。



「……撩が、……あたしが作った食事に、

……うまいなんて、今まで聞いたこと、なかったから……。」

香は鼻をすすりながら、そう答えた。

今までは、美味しくても素直に言えずに、

捻くれて憎まれ口ばかり叩いていたのだ。

たった一言で、香が嬉し泣きするくらいだったら、

なんで今まで言ってやれなかったんだと、もう一人の俺が訴える。

照れくさくて言えっかよと、またもう一人の俺が答える。



「ばぁか、ほれ冷めちまうぞ。食おうぜ。」

俺は片手をテーブルについて、もう片方で香の頭をくしゃりと撫でた。

表の世界に帰すこと意識して、

ここに引きとどまらせるようなことをしないために、

あえて、その容姿も料理も性格をも、

表立って褒めることができなかった。

むしろ口から出ていたのはその逆のことばかり。

今、そのいい訳をくどくど言うよりも、まずは食うこと促した。

「う、うん。……あ、よかった。ご飯がこぼれなくて。」

茶碗を取り直して、クスッとほころんだ。



端からみたら、夫婦か恋人同士が

一緒に食事している光景にしか見えないだろうその空間は、

形だけは、もう何年も繰り返されてきた風景。

しかし、当の本人たちは、

兄妹でもなく、恋人でもなく、夫婦でもなく、

ただの仕事のパートナーという肩書きのもと、

繰り広げられて来た日常。

まゆ子ちゃんの言葉が蘇る。



— 長年連れ添った夫婦でもできないこと —

— 二人はそれ以上の関係なの? —



一体そういう関係を、日本語ではどう表現するのか。

否、存在しない。

夫婦以上。

なのに、男と女としての関係は綱渡りのような不安定さの中にあった。

やっとお互いその綱から降りることができて、

土の上に足を着けられたというところか。



食べながら、そんなことを思いめぐらせていた俺は、

香もいつもの食欲が完全に戻っていることに安心した。

夕べは本当に食うのも辛そうだったからなぁ。



「はぁー、食った食った!ごっそさん。」

「あ、今、コーヒーいれるわ。」

食事中、弱火で加熱中だったヤカンには、すでに沸騰直前のお湯が待機している。

香も食事を終え、立ち上がってガスを強火にし、

コーヒーの準備を始めた。

同時に、食器も下げていく手際のよさは、

もう十分な『主婦歴』によるものか。

俺は、今朝読み損なった新聞に軽く目を通す。

特に目立った事案はなし、と。



「あのさ、俺、明日午後は海坊主と出かけてくるわ。」

「え?あっ!海坊主さんのお仕事手伝うの?」

ミルを轢きながら香が声を高くする。

「ああ、早く終わらせて美樹ちゃんとこに戻ってもらわねぇーと。」

「そっか。」

ふふ、と微笑む香。

「な、なんだよ。」

「ううん、なんか、海坊主さんも撩も、お互い友達想いなんだなぁと思って。」

「ばっ、ばぁか!あいつのためじゃねえよ!美樹ちゃんのためっ!」

その延長線上には、香のため、自分のためというエゴもあるが、

なぜだか照れくさくなり新聞をバサリと持ち直し、顔を隠した。



「…3、4日かかるかもしれん。」

「うん、わかった。……気をつけてね。」

香はコーヒーを差し出しながら、

僅かに顔を曇らせたが、すぐにいつもの振る舞いになる。



ダイニングキッチンに、食後のコーヒーの香りが漂う。

香は、自分の分はいれずに、食器洗いと明日の下ごしらえを始めた。

なんだよ、一緒に飲まねえのかよ。

当然、二人でコーヒータイムを楽しめると思っていたので、

やや淋しさと苛立ちを感じる。

こんなことで、ヘソをまげる自分が、情けないやら、むずがゆいやら。



「明日は、早起きしなきゃ。

午前中に伝言板見て、洗濯して、掃除して、買い物行って、

昼前に教授の家に着いたら、お昼ご飯作って、

きっとあっちも洗濯物あると思うから、このまま晴れが続いてくれればいいけど。」

香は、翌日の予定をイメージしながら、ぺらぺらと喋る。



「だから撩、寝坊しないでよ!」

「…あーい。」

ああ、だから朝飯の準備も今やってんのか。

ったく、ホント世話好きなんだよな。

自分のことは後回しでなぁ。

俺は、飲み終わったコーヒーをシンクに運んだ。

「ごっそさん。」

「あ、そこに置いておいて。」



今まではこの時間、香から逃げるように、

情報収集という言い訳で

夜な夜な新宿の歓楽街を彷徨っていたが、

もう逃亡の必要はない。

接近したとたん、食器を洗う香を掻き抱きたくなったが、

まぁ、作業の邪魔をしちゃなんだからな。

「おまぁも無理すんなよ。」

茶色のくせ毛をまたくしゃりと撫で、そばを離れた。

きょとんとした顔で、ほんのり朱にそまる香は、一瞬あれ?という顔をする。

「りょ…、今日は出かけないの?」

「あぁ、ちょっと地図見て、明日の予習してくるわ。」

片手を上げながら、キッチンを後にした。


***********************************************
(8)につづく。





迷いましたが、「うまい」と言わせてしまいました。
「愛している」は言えなくても、
これくらいは、ちゃんとカオリンにナマで言ってもらわんと。
いつも美味しい食事を作ってもらってんだから、
一度くらいはぽろっと言わせちゃろうかと思った次第です。
当サイトは、カオリンを喜ばせるために作ったようなもんなので、
今後、糖分高めの撩の言動が出てくるかもしれませんが、
イメージから脱線しちゃたらごめんなさーい。

【追記】
本日、なんと10000Hitを越えました。
サイトオープンから3ヶ月を迎える前に、
5ケタの数字を頂けるとは、本当に驚いております。
改めて感謝申し上げます。
他のサイト様では、キリ番リクのサービス等もありますが、
当方、とりあえず記念SSを作ってみました。
よろしければご覧下さいませ〜。
2012.06.27.21:13

【今更訂正】
煎れる⇒いれるに修正!
Sさんご連絡感謝!
2014.02.11:23:50

スポンサーサイト
プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


9万hit記念に
とりあえず作ってみた
CH専用Twitter
 


拍手1000パチ記念につけちゃいました。



かなり便利なサーチツール

登録サイト最新情報はこちらをチェック!


試運転中…

カテゴリ
最新記事
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR
現在の閲覧者数: