04-10 Go To The Ryo's Room

第4部 Report

奥多摩翌日の夕方から夜


(10)Go To The Ryo’s Room *****************************************************3400文字くらい



脱衣所に入る前に、

墓地に持って行ったミニバケツが視界に入る。

「ああ、これも中身を分けなきゃ。」

両手に持っていた布の塊を洗濯機の上に仮り置きし、バケツを回収。

雑巾やペットボトル、柄付きたわしをそれぞれ軽く洗い、

しかるべきところへ収納。

撩が畳んだタオル類を指定席に入れた香は、

昼に一度頭は洗っているので、

体だけ流しておしまいにしようと思っていた。



しかし、

洗濯物に残り湯を使うことを思い出し、

入浴を後回しにして、洗濯機を回し始める。

残り湯は自動ポンプで吸い上げるので

やや時間がかかるが、

節水には違いないので、愛用しているグッズのひとつ。

ただ、今回は水温が残り湯の温かさがなく、

常温で低い温度なので、

汚れが落ちにくいかもしれないと、

仕上がりが悪くなりそうな感じがした。

大物シーツも入っているので、

柔軟剤でごまかせるかしら、と心配する。

明日の朝、少しでも陽に当てられるように、

香は周辺を軽く整頓しながら、

起床時間やら家事の順番やらを思い描いていた。



浴槽がカラになったところで、

やっとシャワーを浴びる。

体を一通り洗って、ざっと流し終えた。

と、ここでふと撩の言葉を思い出す。



— 撩ちゃん、お部屋で待ってるから〜  —



実に楽しそうで陽気な口調。

香はすぐに意味が分からなかった。

つまりは、

自分から撩の部屋にいかなければならないのかと、

ここを出てからの動きに

どうしようかと強烈な照れが舞い降りる。



「で、できたら今日は、素直に寝かせてもらいたい、な…。

だって明日は、けっこう過密スケジュールだし。

今日のように動けなくなったら、

それこそ教授宅で休むことになりかねないし…。」

それに、まだ若干ではあるが、痛みと違和感が残っている。

でも、もしこれで自分がいやだといったら、

撩はこれっきり自分に触れようとしないかもしれない。

それだけは避けたいけど、どうしたらいいのか。

己の口からどうしてほしいと素直に言えればいいのだが、

極度の奥手な香は、

それさえもどう表現していいのか分からない。



「あーん、どうしようぅぅ。」

香は、全身を赤くしながら、困惑していた。

「と、とにかく出ないといけないわね…。」

足取り重く、浴室をあとにした。



脱衣で、洗濯機が正常に動いていることを確認しつつ、

体を拭いてインナーを着込んでいく。

歯磨きをして、

さきほどリビングで掻き集めた自分の衣類を抱え、

とりあえず自分の部屋に行く。

タンスの引き出しに、それぞれをしまって、

夜寝る前の乳液やら化粧水やらを施し、

いつもの錠剤を慣れた手つきで服用する。

あとは戸締まりを確認して寝るだけという体勢まで持ってきた。



「ど、どうしよう…。」




ここで寝たいとも思うのだが、撩を裏切るような気がして、

それはできないと考える。

しかし、自分から寝るために撩の部屋に行くなんて、

依頼人やお客が来たときや、セスナが突っ込んだ時と、

特殊な事案の時しかしたことがない。

しかも、

すでに1回体温を分け合った仲となってしまった今、

まるでそーゆーことを期待して撩の部屋に行くようなシチュエーションに

心臓が耐えられない気分だ。



「あうぅー。」



いつまでも、悩んでいても仕方ないので、

自分のベッドをちらりと見て、

枕を抱えて部屋を出ることにした。

スリッパの音がパタリパタリと自分の耳に響く。

とりあえず、

形だけリビングの窓や玄関などの戸締まりを確認する。

ついでにトイレもすませておく。

あとは、撩の部屋に続く7階への階段を上がるだけ。



「……。」



足音をなるべく立てないようにそっとゆっくり段を進む。

ゴールが来て欲しくないなーと変な心境のまま、

ついに撩の部屋の前に到着。



(ど、ど、どうしたらいいのよぉ〜。)



扉の前で、枕を抱えたまま、立ち尽くす香。

ノックすべきか、先に声を出すべきか、

ドア越しに一言声かけしてやっぱり一人で下で寝ると言うべきか、

だまってそっと戸を開けた方がいいか、

沸騰している頭の中でぐるぐると選択肢が駆け巡る。



撩は、ベッドサイドのランプだけ点灯させ、

普段は香の前では読まないまじめ系の書籍に目を通しながら、

姫君の到着を待っていた。

いやに遅いなぁ、と気にはなっていたが、

かすかに聞こえる洗濯機のモーターと水音で、

時間がかかっている理由を察知。

戸締まりやら、トイレやらの動きもなんとなく伝わり、

階下の戸が開く時から、はっきりと香の気配を読んでいた。

そっと音を立てないように慎重に歩く様子も、

扉の外で困っている様子も全てキャッチ済み。



中に入ろうにも

どうしたらいいのか分からない香の姿が

まるで扉の向こうに透けて見えるくらい、その気配は明瞭で、

いつまで頑張っているのか様子をみることにした。

しかし、5分過ぎても10分過ぎても、まだ動く様子がない。



「ったく、しょぉーがねぇーなぁー。」



根負けしたのは撩。

持っていた書籍をベッドサイドに戻し、のっそりと立ち上がって

出入り口に進み、ドアノブに手をかけた。

カチャリと開けると、

ドキッと肩がびくつき、枕を抱えて顔を真っ赤にし、

目だけ枕の縁から見えている香がいた。

(ああ、もうこれだけで本当に萌え死にそうだ…。)

「香ちゃん、なぁにやってんの?」

「ぁ、あの、……その、……えっと、ね。…あ。」

口に麻痺がきたかと思う程、もごもごとした口の動き。

「はいんねぇの?」

体をずらして中へ促したが、香は枕を抱いてフリーズしたまま。

「んと、しょうがねぇなぁ〜。」

苦笑しながら、香を枕と一緒にひょいと抱き上げる。

「ひゃあ!!」

「すっかり体が冷えてんじゃねーか。風邪引きてぇーのか、おまぁは!」

抱き上げたついでに、スリッパを落とさせる。

「あ、あ、あのね、…りょ、ちょ、ちょっと待っ…。」

香の言葉が全部言い終わらないうちに、

ベッドに降ろし、そのまま掛け布団をふわりとかぶせ、

枕も取り上げ2つに並べ、

腕の中にすっぽりとしまい込んで、横抱きにした。

ここまでほんの数秒。

香の冷えていた体は、あっという間に高熱が出たかの様にカッカと火照った。

同時に撩の体温を与えられ、指先まで熱くなる。



撩は、香の心配事は全て承知済み。

「……今日は、なんにもしねぇーから、明日に備えてちゃんと寝な。」

「え?」

「……おまぁ、まだ痛み残ってんだろ。」

腕の中で緊張が解けていくのがよく分かる。

「……ぁ。」

「……さっきのバイト料だけ、もらっとこうかな。」

「え?」

左手を滑らせ、その柔らかい頬に触れれば、

大きな眼が見開いて、赤い顔のまま撩を見つめる。

形のいい顎のラインに指をひっかけ、少し上を向かせれば、

紅唇が微かに震えている。

ちらっと隙間から見える舌が、

まるで自分を誘っているようだと都合のいい解釈をもしたくなる。



照準を合わせ、ゆっくりと目標に接近した。

触れ合う直前、香はきゅっと目を閉じた。

(そうそう、キスの時は目を閉じるってちゃんと覚えてんじゃん。)

最初はプレッシャーキスで、徐々に角度を変えてバードキスに。

本当は、もっとウェットな触れ合いをしたいところだけど、

セーブが効かなくなること必至なので、

ライト級で止めておく。



それでも、香は息が荒くなり、甘い声を漏らした。

(か、香ちゃん、たのむ。

それ以上撩ちゃんを煽らないでちょーだい。)



もっと触れたいのを抑えに抑えて、

また、ちゅうの区切りの合図をして、心残り一杯で離れた。

「……おやすみ。」

ほてり顔になっている香は、

かなり恥ずかしそうに撩を見つめている。

「…りょ、……ぁりがと、ね。…ぉやすみ、なさぃ。」

撩は、ふっと微笑み、髪の毛に指を埋め、そのまま胸に抱き寄せた。

何に対してのありがとうかは、大体想像がつく。



(まだ二晩目、焦らずのんびり行こうや。おまぁの心配や緊張は分かってるから。)



その小さな背中をポンポンと軽く叩きながら、

ハンドボールサイズとも言いたくなる小さな頭をくしゃりと撫でる。

風呂上がりの石けんの残り香にくらくらとしつつ、

その細く柔らかい体をさらに深く抱き込んだ。



(温かい。)



もうすーすーと寝息が聞こえる。

願わくば一時たりとも離れたくない気分に苦笑する。

「……香。」

香の髪に鼻から下を埋めてみる。

胸の中に、幸福感と罪悪感が同居する。

ただ、この居心地の良さはもう手放すことが出来ない。

今はこうして、ただ感じる温もりに素直に浸っていたい。

撩は、香の前髪を掻き揚げ、

そこに初めて触れた時のことを思い出しながら、

そっと額に唇を寄せた。


**********************************************
第5部(1)へつづく。





やっと奥多摩の翌日終了でございます〜。
第5部は、教授宅での1日です。
折々に訪問者リストへの足跡を残して下さっている方、
拍手ボタンを押して下さっている方、
本当にありがとうございます。
CHサイトを運営していらっしゃる方には、
お礼のご挨拶に伺いたいのですが、
当方、夏に受注するイベントが多く、
危うくこっちの更新もしそこないそうなバタバタモードで、
先送りばかりしております故、
どうぞ気長にお待ち頂ければと存じます〜。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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