05-02 During The Morning

第5部 Professor’s House  

奥多摩から2日目


(2)During The Morning ********************************************************2702文字くらい



顔にハマったままのミニハンマーをころんと転がして、

むくっと起き上がる撩。

頭をかきながら、くすっと笑う。

「……俺も、よく寝れたぜ。香ちゃん。」

小声でぼそっと呟いてみる。

「ボクちゃん、もう一人で寝れないかもぉ〜。」

思わず零れ出た独り言に、

照れ隠しを含めて一人枕を抱きしめながらおちゃらけてみた。



香と一緒にベッドに寝るようになってまだ2回目の朝、

こんな心地の良い休息は過去に記憶がない。

寝るのがもったいないくらいに高ぶりつつ、

もっこりしたくなる衝動を抑えつつ、

なのに、安らかで穏やかな

真綿の布団に包まれているような感覚を同時に感じる。



(抱き込んで寝ているのは俺の方なのに、

逆に包まれながら安息を感じる睡眠なんて、いったいどういう訳なんだか。)



ベッドの端に座り足をおろす撩。

(ただ、さっきの香の涙は、正直驚いた。

人の寝顔見ながら涙を零すたぁ、一体何を考えていたんだか。)



足を軽く開き、右腕を右膝に預け、

猫背気味のままで、左手で髪をかきあげる。

心当たりは多過ぎる。

まだ曖昧だった関係にケリをつけてやっと2日目。

変化に心が追いついていないのは、よく分かる。



撩は、これまでのことと、

昨日の節目をゆっくりと反芻する。

(まぁ、何かと不安が大きくなるのは当然だわな…。)

これから多くのことが、

自分と香にとって初めてとなることが重なっていくだろう。

撩にとっても、ある意味未知の領域。



撩は、しばらくただ無言で空(くう)を見つめていたが、

ふっと一息鼻から吐息を出すと、

窓のほうへ視線を向けた。

さっき香が言った通り、昨日と同じ快晴。

眩しさで目が細まる。



撩は、のそりとベッドから立ち上がり、

さっきの香と同じように、んーと伸びをする。

ぽぽいとスウェットを脱いで、いつもの外着に着替えた。

「今日は海ちゃんとデートか…。」

ふと思い立って変装用の衣類のありかに頭をめぐらす。

同じ場所に何回か足を運ぶとなると、

それなりに用心しなければと、頭の中で仕事モードの計算する。



「りょおぉー!さっさとご飯食べちゃってぇー!」

香が下から呼ぶ声が届く。

(もう仕度ができたのか。)

考えにふけっていた時間が、思いのほか長かったようだ。

「ほいよー。」

こうして、呼ばれることがくすぐったくも嬉しく、

頭をぽりぽり掻きながら、がに股スタイルで階段を降りた。



キッチン方面に向かうと、脱衣所から洗濯籠をもった香が飛び出てきた。

「あ!撩っ、早く食べちゃって!片付かないからっ。」

と言い残して、リビングに駆け込んでいった。

ジーパンにパステルカラーのシャツと、

いつもの動きやすいボーイッシュなスタイルが、

いつもの香を感じさせる。

「ほーい。」

(ふん、元気はよさそうだな。)

撩は、香の体調の回復を確認するも、今日の慌ただしさを考えると、

また夜はぐったりモードかもしれないなと、

お互いのスケージュールを思いめぐらせる。



ダイニングキッチンには、温かい朝食が待っていた。

アミノカルボニル反応でこんがり良い色に焼けたトーストと、

主菜はプレーンオムレツに、サラダとフルーツ、

オレサマ仕様の量に苦笑する。

「さて、食いますかね。」

撩は、香がそばにいないことに少し淋しさを感じながらも、

穏やかな表情で食事を口に運んだ。



「早く干さないと、出発前まで乾かないわ!」

ベランダで、超特急で洗濯物を干す香。

(今日は、とにかく慌ただしいけど、

ゆっくり休めたお陰で、昨日よりも随分調子がいいわ。)

「よし!次は掃除機!」

カラになった洗濯籠を脇にかかえて、パタパタと脱衣所に向かう。

収納庫から掃除機を出し、各所の窓を開けながら、

自分の部屋、廊下、脱衣所、トイレ、リビングと

順にノズルを滑らせていく。



キッチンは後回しにすることを決め、そのまま掃除機を抱えて上の階へ。

階段、廊下、撩の部屋と、形だけでも掃除機をかけていく。

もっと丁寧にしたいところだが、今日は時間にあまりゆとりがない。

「書籍コーナーは、あまり使ってないから、今度でいいわね!」

ここまで辿り着くのに、小一時間。

「まったく、ボロアパートなのに、結構掃除するところだけは多いんだから!」

掃除機を片付けると、出かける準備をする。



「撩、あたし伝言板見てすぐ戻ってくるから。」

食事を終え、リビングで自分でいれたコーヒーを飲んでいる撩に声をかけた。

「あーん?買い物行く時でいいだろ?」

「だって、駅とお店は反対方向でしょ。

今、見に行った方が都合がいいの!また戻ってすることあるから。」

「はぁ…。」

「じゃ、行ってくるから!」

ダッシュに近いフットワークで、玄関を飛び出た。

階段を駆け下りる。

(大丈夫、いつも通り体が動くわ。

元気な姿を見せていれば、撩の心配性も少しは軽くなるかしら?)

軽い駆け足で、駅までの道のりを急ぐ。



撩は、6階のベランダから、香の様子を見送っていた。

「ったく、元気のいいところを

わざとアピールしていることなんてお見通しだっつーの。」

頬杖をついて、ぼそっと呟く撩。

洗濯物が風に揺れ、半日で乾きそうな気配。

11時頃に家を出て、11時半までに買い物、12時前教授宅。

12時半頃昼飯、それから海坊主と下見か。

クロイツの件から新宿周辺の不穏な動きは、

今のところ情報屋からは入っていない。

伝言板を見に行く香の見守りはなくても大丈夫だろう。



「ちと、筋トレでもしておきますかね。」

ミックが不在であることを確認し、

ふと視線を上にあげて、

ベランダの天井にある3つの穴に右手の指を差し込んだ。

「…30、…31、…32、…33。」

空に浮く両脚、くの字に曲がる右腕。

上腕二頭筋が膨らみ、動脈が浮く。



(あいつには、まず護身術の訓練からさせるかな…。)

撩も今までは、ただその日を生きるだけのために、

体力や技術、知識を身につけてきたが、

香と共に生きることを決めて、目的意識が大きく変わった。

こんな些細な筋トレにも、

ただ守るだけではなく、香と共に生きるためだと思えば、

気分が全く違ってくる。

(俺って、どこまでヘタレなんだか…。)

そんなことを考えながら、ぶら下がっている腕を変えた。





「……今日も、なし、か……。」

新宿駅東口伝言板には、XYZの文字はなし。

「まぁ、今は依頼がないほうがほっとするわ。」

美樹の入院中の世話を買って出たのだ。

出来る限りそっちに集中したい。

すぐに踵を返しアパートへ戻る。

「戻ったら、教授の家に持って行くものや、買い物リストを確認しなきゃ。」

まだ時間にゆとりはある。

とにかく、1日でも早く美樹さんがお店に復帰できるように、

出来ることをしなければ。

そんな思いを巡らせながら、香は家路への道のりを急いだ。


******************************************
(3)へつづく。





奥多摩でちゅうしてから、まだ2回目の朝。
ここまでもってくるのに、3ヶ月以上もかかっているとは、
鈍行にも程がありますが、
1991年11月をのんびりお楽しみ頂ければと思います。
(って、21年前のことかよっ。)


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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
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