05-03 Before Departure

第5部 Professor’s House  

奥多摩から2日目


(3)Before Departure ***********************************************************4153文字くらい



駅から戻り、

撩をかたどったマスコット人形付きの鍵で入り口を開けた香は、

ついでにトラップのチェックもすることに。

いつどんな侵入者がやってくるか分からない家業故、

ファルコンから教わった技術で、

必要最低限の装置を敵に分からないように施すことは、

もはや自分の中では日常。



「出来たら監視カメラも欲しいわよね…。」

1階駐車場を一通りチェックして異常なしを確認。

(小林みゆきちゃんと一緒に、

南ガルシアの諜報員を相手にした時は、

侵入者を感知する装置が役立ったけど、

誰だか分からないのが難点なのよね。

でも、予算が厳しいなぁ。)



そんなことを考えながら、階段を上り、

懐かしいやりとりを思い出す。

「ただいまー!」

そのまま、キッチンへ向かい、

教授宅へ持って行く調理器具や食材を取り分け、

買い物メモを作っていく。



「慌ただしいなー。」

撩がキッチンに入ってくる。

「あ、撩。11時頃出ようと思うんだけど、いい?」

「おまぁ、それで間に合うか?」

「大丈夫、買い物しても12時頃には教授の家に着くと思うから。」

「了解。」

撩は、自分が思い描いていたタイムテーブルとほぼ同じだったことに、

内心、いいコンビネーションだと一人気分を良くした。



「夕食も向こうで作って食べる予定だから。」

「ほーい。」

(じゃあ、海ちゃんとの下見の後はまた教授宅で一緒に飯って事だな。)

出発まであと2時間強。

「あー、俺地下にいるわ。」

「うん、分かった。」

その間に武器庫でもチェックしておくか、と

撩は玄関に向かった。



香は、教授宅でする作業を簡略化するために、

家での調理を出来るだけ進めることにした。

手早く食材を切り分け、メニューを次々と用意していく。




(大食らいが2人、美樹さん、教授、私と昼は4人分。

夜は、かずえさんが戻ってくるから5人分。

献立は夕べからある程度イメージしていたから、

あとは、この後の買い出しでいくらでも調整ができるわね。

教授からお願いされた買い物もあるから、

荷物が多くなりそうだわ。)



ここまで勢いで思考を巡らせていたら、

ふと夕べの教授との会話を思い出した。



美樹の部屋を出て、

花を生けるために花瓶を持って洗面所に行った時、

一緒に教授もついてきたのだ。



一瞬、ハンマーでも用意しなければならないかと、やや警戒したが、

その場でさらさらと書かれた買い物メモと、

クレジットカードを渡された。

食費はここから使い、カードが使えないところでは

領収書を貰ってきなさいと、指示を受けたのだ。

そして、その後の会話に香は花瓶を落としそうになった。



「赤子を生むときはワシのところに来なさい。」

「はぁああ??」

「ほほ、そんなに驚かんでもいいじゃろ。」

突然切り出された話題に、目を白黒させる。

「同じことを、かずえ君や美樹君にも言っておる。」

教授は手を後ろ手に組んで、絶句している香を横目でちらっと見た。



「……お前さんたちのパートナーは、

お前さんたちから普通の女性が得られる幸せを奪ってしまったと、

深く思い悩んでおる。」

「……そ、そんな…。」

3人の男たちの顔が浮かぶ、

「恐らく、お前さんは、子を産むことは諦めておるじゃろ?」

ギクッとした。

教授にそこまで読まれていることに、

撩とけじめをつけたことは隠し様がないと知る。

「男はのう、守る物が増えればそれだけ強くなれるもんじゃ。」

「……教授。」

「新しい命を授かったら、遠慮なくワシのところに来なさい。」

「……で、でもっ!」

教授は、優しく微笑む。

「何も心配せんでもよい。時が来たらゆくっり話し合うとよかろう。」

香は、返事ができない。

「ワシの古い知り合いのばぁさんに凄腕の助産師もおる。」

「………。」

香はしばしの沈黙のあと小さく呟いた。

「……美樹さんやかずえさんは、……何て、言っていましたか?」

教授は、にやりとした視線をよこした。

「それは、女性軍同士で話してみることじゃな。まぁ、望む未来を諦める必要はなかろうて。」

「教授……。」

「ふぉほっほっ、ワシとしては先に結婚式を見てみたいもんじゃがのぉ。」

香は、ぼぼっと赤くなった。

「ま、あヤツは無計画に孕ませたりすることはないじゃろうて。

さて、美樹君のところに戻るかのう。」

さらりと言われた爆弾発言とも言える衝撃的なセリフ。

あまりにも、何もかも見透かしている会話に呼吸が出来なくなる。

「!!!、ぁ、………、は、はぃ。」

という会話があって、赤面したまま花瓶を抱えて美樹の病室に戻ったのだ。



キッチンのダイニングテーブルの上に、

持って行く予定の食材が大体そろった。

香の思考は、まだ教授との会話の余韻が残る。

まだ、今現在では、

とてもじゃないが、私たちが子どもを作るなんて、

前向きに考えることはできない。

ただでさえも足手纏いな自分がいるのに、さらに守るべき命が増えたら、

撩はきっともっと傷つき、もっと命の危険に晒(さら)される。

それは、撩だけでなく、パートナーの自分も、そして自分たちの子どもも同じ。

撩自身も、神宮寺氏の依頼の時に言っていた。

家族が増えたら守りきれないと。



自分が母親になる未来はない。

小さな憧れはあっても、

撩のパートナーとして生きて行くことを決めた時、

もうとっくの昔に心の整理をつけていたこと。

それが、教授とのやりとりで奥底に閉まっておいたものが引っ張り出された。

いずれにしても、間違っても避妊を失敗するわけにはいかないと、

自己管理を徹底することに思いを巡らせた。



「おーい、そろそろ洗濯物しまうか?」

いきなり撩の声が耳に入ってきて、ビクンと肩が上がる。

「え?!うそっ!もうこんな時間?」

考え事をしながらの作業。

撩の気配に全く気付かなかった。

「あー、えーと、撩!ごめん!洗濯物は私が取り込むから、

撩はこのテーブルの上のものを車に積んでもらえる?」

「げっ!なんだよ!この量はっ!」

テーブルの上には、一往復では移動が難しそうな食材の山。

複数のタッパーに、いくつあるか分からないくらいのおにぎりに、

大鍋に、その他調理器具。

「人数は4、5人だけど、

量としては海坊主さんとあんたがいるから約10人前なのよね。」

「はぁ。」

「私も終わったらすぐ下に降りるから!あ、そこのバスケット使って!」

そう言い残して、香はリビングに小走りで向かった。



「はぁー、よくもまぁここまで用意するもんだ。」

撩は、タッパー類をバスケットに詰め込んで、

曲芸師のように、テーブルの上のものを片手で持ち、

そのまま、トントンと階段を降りていった。



先ほどまで地下射撃場にいた撩は、

腕ならしでワンホールショットを軽く決め、

武器庫のチェックをし、

さらに武器庫の奥にあるトレーニングルームで

ちょっとした筋トレをしていた。

考えることが同じなのか、地下から6階に上がる時も、

香が設置したトラップや侵入者感知センサーなどのチェックも怠らない。

(海ちゃんにどこまで習ったんだか。)

ほぼプロ級と言ってもいいその仕掛けに、

いつのまにやら熟練した腕を持つようになった香に、

複雑な気分を味わいながらも苦笑する。



6階フロアに戻り、キッチンをそっと覗いてみたら、

何やら深刻な表情で考え事をしながら

ラップを使っている香が目に入る。

(まぁーた、ネガティブなことを考えてんな、こいつ。)

とりあえず気付かないふりして、今戻ったかのように話しかけた。



で、荷物を頼まれ今にいたる。

クーパーの荷台を開け、食材を詰め込む。

「買い出しは、後部座席に突っ込むか。」

香を待つ間、とりあえず一服することに。



少ししわの寄ったタバコの箱から、

ポンと1本取り出して銜えたとたん、

唐突に昨日のベッドシーンが脳裏に甦る。

口に触れたタバコの直径と香の乳首が

ほぼ同じサイズであることに気付いてしまった。

「は…、そうか、俺『あれ』からタバコ吸ってなかったっけか。」

まじまじとタバコの吸い口を見つめ、

ぼやぁと重なってくる香の乳房に、思わずブンブンブンと頭を振る。



心理学で口唇期と呼ばれる幼少時代の区切りがあり、

その時期に十分な唇への接触がなかった場合、

二次性徴後も、その欲求が残り、

タバコなどへの依存度が高くなると聞いたことがある。

意識して開発されたかどうかは知らないが、

タバコの吸い口の直径と女性の平均的な乳首の直径がほぼ同じということも、

タバコが欲求不満のおしゃぶり代わりとも言われる所以か。

自身を振り返れば、心当たりがなきにしもあらずだが、

まさか、タバコを銜えただけで、

こんな残像が見えるようになるとは。



(…こりゃ困ったもんだ。)



クーバーのボンネットに腰を預け、

しばし、指にタバコを挟んだままの撩。

そこに、香が降りてきた。

「撩、お待たせ。って何やってるの?」

(まぁ、確かに火もつけずにタバコ持ってぼーとしてたら気になるわな。)

タバコをよれた箱に戻して、香を手招きでちょいちょいと呼んだ。



「んー、タバコよりもこっちがいいか。」

(こんな所でおっぱいちゅうなんてしちまったら、

ハンマーどころか、家出されかねないな。)

無防備に近付いてきた香を、ごく自然に抱き寄せて、

上唇をぱくっと挟んでみた。

(あぁ、これなら禁煙できっかも。)

調子に乗って下唇も舌も吸い付いてみた。

「んんんんっ!っちょっ、ちょっと!なんなのよ!」

腕の中で、顔を真っ赤にし、納得の行かない表情の香。

「タバコよりもこっちって、どーゆーことよっ?」

(俺の腕の中で小さな抗議をする姿も可愛いったらありゃしない。)

「撩ちゃん、お口が淋しかったから、

ちゅうで慰めてもらおうかと思ってぇ〜、っぐは!。」

スコーンとミニハンマーが飛んできた。

頭がのけぞる。

「も、もう!時間がないわ!早く出ましょ!」

耳からぷすぷすと湯気を出しながら、助手席に乗り込む。

「まったく何考えてんだかっ。」

ブツブツ言っている香を横目に、顎を抑えながら、運転席に入り込んだ。

まだヨコシマな考えがくすぶっている撩。

「香ちゃん、場合によっては、家計の節約にもなりまっせ。」

と振ってみる。

「はぁ?」

「むふ♡、かおりん次第で、俺禁煙できるかもよん。」

「な、なによ、それ…。」

香はいやーな予感がすると顔に書いてあるような表情。

「んじゃ、買い物にレッツゴー♪。」

ちょっとご機嫌な撩に、一体ここにいる間にナニがあったのか、

香は不思議でならなかった。

そんな二人が乗ったクーパーは、スーパーマーケット経由で教授宅へ向かった。


********************************************
(4)につづく。






野上唯香ちゃんの時に、香がちぎり落としたあのキーホルダーを
後日、撩ちゃんはどうやってカオリンに返したのかな〜と、
穴埋め妄想が湧いてきます。
脱線ネタですが、今ウチの娘、
ちょうど西九条沙羅ちゃんと
同じ学年で季節も夏ということで、
思わず原作見返して娘と比較しちゃいました。
娘147センチ。ワタクシ156センチ。
でかくなったもんだ。
で、沙羅ちゃんの身長設定がなんとなく小学校中学年ぽく感じましたが、
今でも沙羅ちゃんくらいの背丈の6年生はいるよと、
娘が教えてくれました。
当時11才小学校6年生の子は、
今は35才。
お年が同じ方いらっしゃいます??


【追記御礼】
わー!7/9だけで82パチパチも頂きましたっ!
本サイト最高記録っ!
ありがとうございますっ!
そして累計2000パチパチ〜。
感涙ですっ!
2012.07.10.00:36

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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