05-05 Miki & Kaori

第5部 Professor’s House  

奥多摩から2日目


(5)Miki & Kaori *****************************************************************3790文字くらい



香は、昼食に使った大量の食器と鍋類を洗い、

野菜と鶏肉を切って、

1升分のお米を研ぎ、夕食の下ごしらえを済ませた。

これだけでも、結構な時間がかかる。

人様の家の台所というのは、

勝手がよく分からないもので、

なかなか普段通りにはいかないところもあるが、

それを酌まなくても、大変な作業だ。



「ふぅー、夜はミックとかずえさんも一緒だから、お米足りないかも。」

うまく出来るかは分からないが、

圧力鍋か何かでもう少し炊きあがるご飯の量を増やそうと、

食器棚の周辺を探った。

「あ、あった、あった。これならあと5合は炊けそうね。

あとは、夕方からの作業で十分かな。」



エプロンで手を拭きながら、

かずえの残したメモの内容を確認する。

掃除と洗濯物と美樹の検温、薬の服用のチェック。

洗髪のサポート、そして夕食のメニューのアドバイス。

分かりやすい指示に、香もやる気モードが高まる。



先に、洗面所に行き洗濯機を使う。

旧式だが、

ちゃんと説明が書いてあるので作業に支障はなし。

ベッドのシーツやタオル、美樹の着替えに、教授の衣類などを

2回に分けて洗うことに。

洗濯槽が回っている間、掃除と干す作業を交互にこなす。

その合間をぬって、美樹の部屋に行くことにした。






「美樹さん、今いいかしら?」

美樹の休む部屋に行って、

ノックのあとにひょこっと顔をのぞかせる香。

「もちろん、どうぞー。」

書籍を手にしていたのをベッド脇に置いて、笑顔で答える美樹。

「あのね、かずえさんからの伝言で、検温することになってるみたい。

体温計はここにあるかしら?」

メモを持ちながら、

懸命に仕事をこなそうとする香がいじらしく思い、

美樹はくすりと笑った。

「ええ、ここにあるわ。記録用紙も一緒よ。」

と、体温計を脇に挟んだ。

「お薬は?」

先ほど、かずえに声をかけられていたことを思い出す。

「大丈夫、ちゃんと飲んだわ。」

「じゃあ、測っている間に、この辺りの掃除しちゃうわね。」

と廊下から掃除機を持ち込み、窓を開けた。

いい風がさわっと入ってくる。

ざっと掃除機を掛け終わると、

ちょうど体温計がピピピと電子音を鳴らした。



「36度2分、ちゃんと平熱ね。」

さらりと記録用紙に書き込み、

もとのベッドサイドの引き出しへ戻した。

「香さん、あんまり頑張り過ぎないでね。」

美樹がそう言ったのを聞くと、掃除機のコードをしまいながら、

香は柔らかく微笑んだ。

「ううん。させてもらってむしろ有り難いわ。

家で悶々と心配するより、

美樹さんの元気な顔を見ながら傍にいれるほうが、

私にとって大きなプラスよ。」

窓を閉めて振り返る。

「そう言ってくれると嬉しいわ。……ねぇ、ところで香さん。」

掃除機を抱えて廊下に出ようとた香は足を止めた。

「え?」

「冴羽さんに、何て言われたの?」



唐突の質問に、香はドキンとする。

「え?え?…っな、な、何って何のこと、かし、らぁ?」

どもり噛みまくる。

おそらく湖畔での出来事のことを指していることは、

鈍感な香でも何となく理解できた。

しかし、

すぐに上手な反応ができる程のスキルもなく、

しどろもどろが続く。

美樹は興味深そうな顔で香の表情を見つめる。



「教会でね、私、冴羽さんに、けじめつけられた?って聞いたの。

そしたら、ちぁゃ〜んと『あぁ』って肯定の返事をしてくれたんだけどぉ…。」

「あ、は、は、…み、美樹さんっ…。」

(美樹さんがそんなことを撩に聞いていたなんて、

しかもちゃんと撩が答えていたなんて、

こんな恥ずかしい状況を、

この後どうやって乗り越えたらいいのぉぉぉ。)

香は、『あのシーン』が鮮明に思い出され、

プシューっと真っ赤になる。



「っ、…あ、あの、…そ、そ、その…。」

俯いて掃除機を持ったまま、完全フリーズの香。

体温が40度は越えてそうな肌色に、

美樹は気の毒になってきた。

「ああ、ごめんなさい。野暮な質問だったわ。今のはナシにしてあげるっ。」

美樹の声を聞いて、香がふと顔を上げる。

「……ファルコンもね、簡単には想いを言ってくれなかったわ。」

美樹は窓辺に視線を流した。



「美樹さん……。」

「でも、あのウェディングドレスがファルコンの最後の一歩を後押ししてくれたの。」

目を閉じて回想する美樹を見つめる香。

「ドレスの刺繍を触っているファルコンの指が少し震えているのを見て、

私の方がドキドキしちゃった。」



香も美樹の手作りのドレスを思い浮かべる。

「きっとファルコンも冴羽さんも心を決めるのに、

相当な決断が必要だったと思うわ。たぶん、ミックもね。」



香もそれは分かっていた。

ただ、撩だけでなく、ファルコンやミックも、同様であることは、

美樹の話しから改めて感じた。

ミックも引退してジャーナリストになったとは言え、

完全に裏の世界から足を洗えた訳ではない。

大切な物をそばに置いておくには危険過ぎる条件は、

撩もファルコンもミックも変わらないのだ。



ただ違うのは、

自分は美樹のように強くないこと。

かずえは、表の世界で自分の仕事をきちんと持っているが、

自分とは撩と同じ立ち位置にいるはずなのに、

技術的には素人同然。

これでは、一緒に生きて行くことがより困難な道のりであることは、

問われるまでもない。

香は、また自分の存在が

撩の負担になっているという思考のループにハマってしまった。



「……Together forever……。」



美樹が英語でぼそっと呟いた。

「え?」

「ふふっ、ファルコンがね、私が結婚式を挙げたいと言って、

これからも共に生きて行こうねって腕を絡めたら、

彼、顔を真っ赤にして、しばらく黙り込んで、

やっと小声でこう言ってくれたの。」

ベッドの上で、三角巾に吊るされた右腕はそのままに、

上半身を起こして左手は膝の上に添え静かに目を閉じていた。



かつて『goodbay forever』と書かれた手紙を渡された時の想いを

振り返りながら、ファルコンを追い求めて、探し続けて、

撩と香のおかげで、

パートナーになったことが昨日のように思い出される。



「トゥゲザー・フォーエバー、……ずっと一緒だって、英語でね。」



香の心臓がドクンと跳ねる。

持っていた掃除機は支えをなくしてガシャンと音を立てた。

「えっ!香さん!大丈夫?」

慌てて香の様子を確認する香。

すると、大きな瞳からぽろぽろと大粒の涙がこぼれ出ている。



「ちょ、ちょっと!か、香さん、どうしたの?大丈夫?」

美樹は、なぜ香がそんな状態なのか頭の中はクエスチョンマークだらけ。

ベッドから身を乗り出そうとした美樹に気付いた香は、

慌ててかけよって制止した。

「ううん、大丈夫。……あ、あのね…。」



ベッドの端に座っている美樹と

そばの椅子に座った香はやわらかくお互い向き合った。

少し深呼吸して、気持ちを整えると、

姉とも言える美樹にちゃんと言っておかなければと思い、

次の言葉を紡いだ。



「美樹さん、あ、あのね、……撩もね、……同じことを言ってくれたの。」



「!!、え…、ええええーっ!?」

「こっちは、……日本語だけどね。」

香は鼻をすんと吸った。

「……まさか、海坊主さんも同じセリフを使っていたなんてね。」

「ほんとね、なんだかんだ言いながら似た者同士かもね。あの二人は。」



クスクスと笑い合う香と美樹。

ここで、ランクルに乗っている男二人が盛大なくしゃみをしたことは、

彼女たちにとって知るよしもなし。



「美樹さん、ありがとう。」

「え?何が?」

「……たぶんだけど、美樹さんと海坊主さんの結婚式が、

……もしなかったら、……きっと撩も、

この一歩を、……踏み出せないままだったかもしれないわ。」

「香さん。」

「美樹さんたちの、おかげよ。きっと…。」



香は、美樹の左手にそっと自分の右手を添え、

彼女の左肩に自分の額を触れさせた。

美樹は涙で濡れる香をゆっくりと左手で抱き寄せた。

香も傷に負担がかからないように腕をまわした。

こうして、美樹とお互い体を寄せ合うのは、

あの墓地での決闘以来。



美樹は、

香からかすかに香る硝煙とタバコの香りを嗅ぎ取った。

それが意味することに、とても嬉しくなり、

おのずと呟いた。

「……香さん、あなたから冴羽さんの匂いがするわ。」

「え″っ!!」

思わずがばっと離れてしまった。顔は真っ赤だ。

くすくす笑う美樹は、そんな香が可愛くて、

これじゃ冴羽さんも手放せなくなるわよねと、

一人得心した。



「硝煙とタバコの香りがほんのかすかに香さんに残っているわ。」

具体的に分析された香は、もう茹で蛸を通り越している。

「昨日、ファルコンも、

冴羽さんについていたあなたの香りを感じていたから、

今頃からかわれているかもね。」

香は、あぅあぅと言葉にならない声で動揺を隠せないでいた。



「あの照れ屋さん二人の告白は、私たちの秘密にしておきましょ!ねっ。」

美樹はにっこりと笑った。

「そ、そうね!でも、ホ、ホントびっくりしたわ…。」

「私も。」

「じゃ、じゃあ、そろそろ洗濯物が乾いていると思うから、回収してくるわ。

また夕食出来たら呼びに来るから。」

「ええ、楽しみに待ってるわ。」

恥ずかしながらも、明るい会話を交わしながら、香は美樹の部屋をあとにした。



美樹との対話の余韻を心に残しながら、

洗濯物に取りかかる香。

お天気も良く、

爽やかな風がそよいでいる上、

薄物が多いので乾くのが早く好都合。

日本庭園の一角に干されたものを素早く取り込み、

たたんでこちらも一区切り。

それでも時刻はあっという間に夕方になり、

もう夕飯の仕度をする時間となった。



「さて、大鍋にたっぷりのカレーを作らなきゃ。」

香はくすぐったい思いを胸に、

いそいそと台所に戻って行った。


********************************************
(6)につづく。





海ちゃん、一度「Good by forever」と告げてしまっている訳ですから、
それからまた、共に生きること決めるというのも、
相当な覚悟と決心が必要だったと思います。
色んな意味で、
美樹が想いを込めて縫い上げたウェディングドレスと手作りのブーケが、
ファルコンにも撩にも香にも
いい起爆剤となりポジティブな波紋を広げていったのではと。
恐らく、年齢がさほど離れていない裏の世界の住人、
しかも親しさでは群を抜くファルコンがちゃんと式を挙げるというのも、
撩にとっては、実はか〜なりの衝撃だったかもしれません。
のちのち、このあたりも本編に組み込んでいこうと思います。
(奥多摩から1週間後くらいかな??)


【ご指摘感謝です!】
匿名様、英単語のつづりミス発見報告ありがとうございます!
本当に助かります!
遅れましたが、修正致しました。
わざわざお手間をとって頂きありがとうございます。
皆様からの赤ペンチェックは大歓迎でございますので、
また何かございましたらお気軽にご一報頂ければと存じます。
(コメント返信欄にも同内容を打たせて頂きます)
2013.08.24.15:22


【誤植修正ご連絡感謝!】
「ファルもン」⇒「ファルコン」に修正致しました!
発見&ご報告大感謝です!
K様ありがとうございました!
くまもんの仲間かよっ←自分でツッコむ
2015.11.01.20:27


スポンサーサイト
プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


9万hit記念に
とりあえず作ってみた
CH専用Twitter
 


拍手1000パチ記念につけちゃいました。



かなり便利なサーチツール

登録サイト最新情報はこちらをチェック!


試運転中…

カテゴリ
最新記事
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR
現在の閲覧者数: