05-06 Ryo & Falcon

第5部 Professor’s House  

奥多摩から2日目


(6)Ryo & Falcon **************************************************************** 3939文字くらい



撩とファルコンは、ランクルに乗って、

先にCAT’Sに立ち寄った。

「美樹に頼まれた物を取ってくる。」

ファルコンは、

昨日のうちに美樹の着替えや衛生用品を教授宅に運んでいたが、

他に欲しいものがあると、言いつかっていたのだ。



「またせたな。」

大きな体を運転席に滑り込ませる。

「運転まかせてもいいのかぁ?」

「信用しろ。」

アクセルを踏んで車道へ合流する。

「って言われてもねぇ。」

撩は苦笑する。

(まぁ、いざとなったらいつでも代われるからな。)



「……香には、負担をかけてすまん。」

ファルコンは正面を向いたまま、

謝罪の言葉を零(こぼ)した。

「いんや〜、元々世話好きだしぃ、

その方が本人も気が紛れるんじゃねぇの?」

(まぁ、これは間違ってないわな。)

「それに、今回の騒ぎは俺らが原因だしな。」

「それは言わなくていい。美樹も言っていただろ。」

撩は間髪入れず答えたファルコンを見て、ふっと笑った。



「でもさぁ、んと美女と野獣だったよなぁ。一昨日は。」

両手を後ろ手に組んで、シートに寄りかかる。

「野獣は余計だ。」

「いいじゃねぇか、

美女と野獣の物語はハッピーエンドなんだろ?」

「むっ…。」

ちょっと赤くなるファルコン。



「……ウェディングドレス、か…。」



意識があの教会のシーンに飛ぶ。

「撩?」

足を組み直す撩。

「タコには見えなかっただろうが、美樹ちゃん、

これ以上ないって程の幸せそうな笑顔だったぜ。」

「………。」

しばし沈黙するファルコン。



「もし、目が見えていて、

あのドレスが赤くなったところをまともに目にしていたら、

俺は奴らを一人残らず殺していた。」

撩は、ちょっと目を見開いた。

車窓は南へ向かって風景を変えて行く。

「おまえ、よくセーブできたな。

一応冴子情報では死人なしだってよ。」

「フンッ!」

ファルコンはアクセルを踏み込んでスピードをあげた。



「……撩、お、お前は、

……か、香に、ぅ、ぅ、ウエディング、ど、どドレスを、

……着せるつもりは、な、ないのか?」

「………。」

いつもだったらふざけた返事しかよこさない撩が、

真剣な眼差しで正面を見据え沈黙している。



「……覚悟を決めたんだろ?」

ファルコンが続けて尋ねる。

「……ああ。」

低いバリトンの声は、

偽りのない空気を醸し出す。

「……撩、あの時、

……撃たれた美樹と香が、かぶったんじゃないのか?」

驚いて、後ろ手に組んでいた指がほどけた。

ちらっとファルコンの方を見る。

ファルコンはまっすぐ正面を向いたままハンドルを握っている。

(長い付き合いだけあって、

よくズバズバと言ってくれるもんだ。)



確かにその通りだった。

ドレスの刺繍を触った時のことを語ったファルコンを前に、

覚悟を決めた男をうらやましくも思い、

白いベールに包まれて、

満面な笑みを浮かべ指輪を受け取った美樹に、

香にもこの微笑みを纏わせることができるだろうか、

と少なからず感じていた。

しかし、

狙撃の瞬間崩れ落ちる美樹の姿が、

一瞬香になったのだ。

決してゼロではないその可能性に、

香を失う恐怖が背骨を駆け上った。



「ふん、黙っているところをみると、図星のようだな。」

ファルコンがにやりと口角を上げた。

「撩、お前が考えているよりも、香はずっと強い。」

「……だな。

……むしろ臆病者になっているのは俺の方だろうな。」

撩は腕を組み直して、また後ろ頭をそれで支えた。

ふーっと長い溜め息を吐き出す。

ファルコンは続けた。

「いや、俺も臆病になっている。」

「へ?」

「……美樹が大事だったからこそ、

だまし討ちのようにして、傭兵を辞めさせ、

永遠に別れることを決めて、

あいつを空港に一人残してきたのに。」

ふっと笑うファルコンの横顔は

守る者を得てさらに強くなった男の顔だった。

「まさか、俺を探し当てて、結婚を迫るとは思いもしなかった。」

「海坊主…。」

あまり自身のことを語らないファルコンが、

ぽろりと胸の内を吐露していることに、

何を企んでいるのか、撩は言葉を慎重に拾った。



「守る者が出来たら臆病になるのは当然だ。

何をするにも死ぬ訳にはいかねぇから、

慎重にもなり臆病にもなり、生き抜こうとする。」

「……だな。」

「俺も、ミックも、お前も、

女神たちに命を拾ってもらったようなもんだ。」

「ふん、アテナに、アルテミスに、アフロディテってか。」

「強剛揃いだ。

3人まとめてかかってきたら俺らでも勝ち目はない。」

半分冗談、半分本気の口調だ。



「野上姉妹といい、

俺らの周りはどうしてこうも鋼(はがね)の女が多いのかねぇ。」

「……縁だな。」

ファルコンが言う。

撩は大きく息を吐いた。

「……だな。」



何の引力かは知らないが、周りの仲間も、

そして先に旅立ってしまった亡き友人も含めて、

全ては出会いの巡り合わせ。

悲しみも、苦しみも、ためらいも、喜びも、幸せも、全部ひっくるめて、

受け止めるしかない。



「あーあ、絵梨子さんにバレたら、絶対黙っちゃいねーだろうなぁ。」

撩は、うーんと伸びをしながら言った。

「あのファッションデザイナーか。」

「そっ!」

アパートに押しかけてきて、

機関銃トークが始まるのが目に見える。

「くそっ、柄じゃねぇーってんだよな。」

ガシガシと頭を掻く。

絵梨子に言い含められて、ウェディング衣装が、

彼女のプロデュースで

好き放題着させられる未来も鮮明に浮かんだ。



ファルコンはにやけながら続ける。

「まぁ、香と相談することだな。

香が本当にそういうことを望んでいるのか確認すべきだろう?」

「ふーんだ。面倒臭せぇ。」

腕を組んで、車窓にむかってそっぽを向く撩。

ファルコンは気配で、

撩が赤面していることを感じていた。

「不器用なヤツ。」

「るせぇ。」





そんな会話をやりとりしながら、

車は大井埠頭に到着。

車内から周りの様子を確認する。

「ここが現場だ。」

コンテナが高く山積みされている港の際。



「ここに明後日、

ブツが届き南ガルシア行きの貨物船に乗せられる。」

「やっぱ、ガルシアがらみか。」

「ん?知っていたのか?」

少し驚いて撩の方に顔を向けるファルコン。

「冴子情報だけどな。

当日までサツが目立つ動きをしないように言っておいた。

お前のことは言ってねぇーよ。」

「相変わらず動きが素早いな。」

ふっと笑うファルコンは続けた。

「お前には話しておこう。

今回の依頼主は、

南ガルシア政府に家族を殺された俺の傭兵仲間だ。

本人も重傷を負い、傭兵への復帰は困難だ。」



「……そっか。」

撩は表情を変えずに外を眺め続けた。

「大量の武器が動くことを知り、その阻止のために俺が声をかけられた。」

本当は一人でするはずの仕事だったが、

簡単な内容でないことを

あのやりとりの中で察知した撩の動きには、

さすがとしか言い様がない、

ファルコンはそう思いながら説明を続ける。



「阻止、だけでいいのか?」

「?」

「俺だったら、

根っこごと掘っちまって後から生えないようにするがな。」

「………。」

「コンテナの1つや2つ沈めたくらいじゃ、ダメージは小さい。」

「何をする気だ?」

少し怪訝そうな表情のファルコンににやりと答える撩。

「ミックに動いてもらうかな。」

「……情報戦か。」



(たぶん、撩の頭の中では、

猛烈なスピードで今回の動きの計算がされているんだろう。

涼しい顔をして、特に寄り目の時には、

ワンマンアーミーそのもののオーラを出す奴のこと。

今も、その表情に違いない。)

ファルコンは気配で撩の表情が明確に伝わってきた。



「いつ、どっちが、コンテナ捨てる?」

黙っていたファルコンに撩が尋ねた。

ファルコンが、外の重機を指差しながら聞き返す。

「お前は、リーチスタッカーか、コンテナキャリアーは使えるな。」

「ボクちゃんに、使えない道具はありましぇーん。」

「……好きな方を使え…。」



まだ周りは明るい。

埠頭の様子はよく分かる。

「当日、見張り役の輩がうじゃうじゃ出揃うらしい。」

軽くため息をつく撩は、窓に腕をかけて呟く。

「雑魚ばっかり数揃えてもしょーがねぇーのにな。」

「明日は、俺らも武器の準備だ。

ここで最終確認をするが、用心のため車は別のを出す。」

「ほーい。まぁ、そんときゃ、

また新しい情報も入るかもしれんな。」



撩は、

現場の環境を細部まで頭に記憶し、

表の作業はさっさと終わらせて、

裏の作業はミックに任せることにした。

「あー、この仕事の件、香に話してもいいかぁ?」

「ああ、かまわん。情報が漏れる心配はないだろ。

じゃあ、帰るぞ。長居は無用だ。」



ランクルは、北北西に進路を向けた。

「手強い女神たちが待っている屋敷へ戻りますかね…っへ、へ、へっくしょい!」

「は、は、は、…はっぐしょんっ!」

同時にハデなくしゃみをしでかす男二人。

「な、なんだ?」

撩は、

指で鼻を刷りながらこのタイミングの良さにクエスチョンマーク。



「どうせ美樹と香が俺らのことをネタにくっちゃべってんだろ。」

ファルコンの一言に、妙に納得した撩は、

ふっと笑って、

どんなことを話していたのか、後で聞き出してやろうかなーと

悪戯モードに切り替わる。



「撩、余計な詮索はしない方が身のためだぞ。」

ごりっと銃口がこめかみにあたる。

弾が入っていないのはお互い認識済み。

「あ、あは、は、は、なーんのことかなぁ?」

引きつった笑顔で、

指でちょいちょいと銃口の向きを変えながら、

「まぁまぁ、こんなものはしまって、早く教授のところへ戻ろうぜ。」

と運転に集中するよう促した。



(こんな冗談が言い合える仲になろうとはな…。)

血腥い戦場で出会った時のことを思い起こせば

にわかには信じ難いこの関係。

この夫婦とも、生きてさえいれば、

これからも長い付き合いになりそうだ、と

また、腕を後ろ頭に組み直し、

リラックススタイルで、助手席に座り直した。



「今夜はカレーパーティってか。」

首都高1号線から新宿に向かう車の中で、

男二人、それぞれの女神の姿を想うのであった。



**********************************
(7)へつづく。





この二人にこんな会話をさせるのは、
ちと早過ぎるかと思いましたが、
1度アジトで、
美樹の傭兵時代のことを語ったファルコンを思い返せば、
結婚式直後、他に聞かれる心配がない状況で、
1対1で対話する時間ができれば、
こーゆー流れもあり、かな?と。
コンテナを運ぶ重機は、息子の協力を得ました〜。
「働く車」が大好物の小3ですが、
コンテナを動かす車ってどんなの?と聞いたら、
速攻で図鑑を持ってきて見せてくれました。
あーあ、アニメの模擬結婚式、
原作中で見たかったなぁ〜。
欲求不満は、二次創作サイト様で解消させて頂きますっ。



【誤植発見感謝!&若干改稿しました】
「いざとなったらいつでも変われるけどな」⇒「いざとなったらいつでも代われるからな」
に修正致しました〜。
mさん、ご連絡ありがとうございました!
2016.02.07.02:58


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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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