05-08 Curry and Rice

第5部 Professor’s House  

奥多摩から2日目


(8)Curry and Rice ****************************************************************3768文字くらい



「ほほ、みんな揃いおったの。」

おのおのが席に座る。

教授は、お誕生日席のごとく短辺サイドに。

ファルコンはその対面、

長辺サイドには美樹、かずえ、ミック、向かい合って撩、香と並んだ。



目の前には、またずらりと並ぶ洋食系の彩り。

「みんな、お疲れ様。味の保証はできないけど、どうぞ召し上がって。」

「それじゃ、イタダキマスっ!」

ミックがさっそくスプーンを口に運ぶ。

「Oh!Very delicious!カオリ!うまいよ!実にいい味と香りだ!」

「ミック、褒めすぎよ。ただ料理本見て作っただけなんだから…。」

過剰な褒め言葉に照れながら困る香を見て、やや機嫌が悪くなる撩。



「いや、香、これは店でも出せる味だ。」

ファルコンも賛同してきた。

「だ、だ、だめよ!あ、あたしなんかがお客さんに出したら、食中毒出しちゃうかもよ!」

「もう、香さん謙遜し過ぎなんだから。」

美樹も口にカレーを運びながらクスッと笑った。



「みんなが、いちいち褒め過ぎなのよぉ。そんなことないって言ってるのにぃ。」

香は、褒められることに至極慣れていない上に

自己評価が低過ぎるので、

どう切り返したらいいか分からないのだ。



「……一番褒め言葉を言わねばならん奴は、何にも言わんようじゃな。」

教授が撩のほうに目配せする。

「ゴホッ。」

チキンが喉に詰まる撩。

教授はスプーンを口に運びながら続けた。

「まぁ、どうせおまえさんのことじゃ。恥ずかしくて言葉にできん代わりに、

いつも残さず平らげることが、うまいと言う代わりのつもりなんじゃろ?」

「ぶっ!」

スープを吹き出す撩。

目を見開いて、顔を赤くする香。



「ほほっ、本当はこの香君の手料理を、

誰にも味合せたくないというのがよく顔に出ておる。」

「っきょ、教授っ!」

口を袖で拭いながら、かなり困惑した表情で教授をにらむ撩に、

ミックもかずえも美樹も、みなクスクスと笑い出した。

「さすが教授ですね。

ここまで冴羽さんをしどろもどろにさせることができるなんて。」

美樹が言った。



「長い付き合いじゃからのう。」

「ホント、冴羽さんって素直じゃないから、香さんも大変ねぇ。」

かずえが二人を交互に見ながら一言呟いた。

「ハニー、心配することないよ。」

ミックがニヤニヤしながらチキンカレーを掻き込む。

「これから、徐々に素直になっていくさ、な?リョウ。」

「……ふん。」

何を言い返しても体勢が不利と思い、撩は無視を決め込んだ。



ミックの意味深な言葉を酌んで、かずえは続けた。

「そうね。今日は、美樹さん、海坊主さん、そして冴羽さんと香さんのお祝い会ね。」

「は?」

「え?」

撩も香もスプーンを持ったまま固まる。



「ほほ、そうじゃのう。

一昨日は式の後、キャッツで二次会を予定しておったが、

この面子が集まれば、今日を二次会にしてもよいじゃろう。」

何の疑問もなく話しを進める教授に、にわかに焦る撩。

「きょ、教授!祝うのは美樹ちゃんとタコだけでしょ。

なんで俺らも一緒なんすかっ!」

ご飯粒が口から飛ぶ。



「ふふ、冴羽さぁ〜ん、今日は根掘り葉掘り聞くのは勘弁しといたげるぅ〜。」

美樹が楽しそうに視線を二人によこす。



「な、なぁ〜んのことかなぁ?美樹ちゅわん。」

ちょっとひきつっている撩は、この場から立ち去りたい気分になった。

何もこちらから言わなくても、色々バレてしまうのは想定内だが、

よりによって『あの』翌日、

ちらっと顔出しで終わるはずの訪問から通いの話しになり、

馴染みの連中と顔を合せる時間が増える流れになるとは、

思ってもみなかった撩。

からかわれ、突っ込まれること間違いないし。

早めに食事を終わらせることに集中する。



「たぶん、お前らが教会に戻ってきてから、みんなすぐに気付いただろうな。」

ミックは、あの時瞬時に感じた違和感を思い出しながら

ククッと笑った。

香はもう茹で蛸状態。

すくったカレーがスプーンからぼたりと落ちる。



「かずえ君、あとで例の酒を用意してくれんかの。」

「あ、『あれ』ですね。わかりました。」

かずえと教授だけが知っている内容のやりとりに、

食後にどうやらアルコールが出るらしいと皆が感じる。



「今日は、お前さんたちの帰り道に、検問が入る情報はない。

多少飲んでも、運転には差し障りはなかろう。ほほっ。」

「教授が進んで飲酒運転をさせちゃだめでしょ。」

美樹が苦笑する。

「なに、これしきことで運転を誤るような男はここにおるまい。」

「ふっ、同感です。教授。」

ミックが賛同した。



「香さん、冷めちゃうわよ。」

美樹の声にはっと我に返る香は、まだ全身を赤くしている。

かずえの『お祝い会』という言葉をきっかけに、

今まで慌ただしく、あまり意識をしていなかったものが、

急に込み上がって来ていた。



隣に座る撩の息づかいや、手の動き、

いつもの言葉が吐き出されるその口の動きまでもが、

『あの時』のことを思い出させ、

どうしようもなく恥ずかしい気分に陥ってしまう。



そしてなぜ、みんなが教会ですでに色々と分かってしまっていたのか、

香はまだイマイチ納得がいかなかった。

それよりも早く頭を切り替えなきゃ、ここで思い出しちゃダメ、

と必死に脳内の記憶を制御をしようと悪あがきをする。

しかし、あがく程に撩との甘い時間がよりリアルに記憶に甦り、

香はきゅっと目をつぶったまま、カレースプーンを落としてしまった。



かしゃん!



と、音に気付いた撩は、ああ思った通りの展開になりそうだと、

香に声をかけた。



「おい、大丈夫か?」

「ひゃああっ!」

肩に手を乗せると、大袈裟にビクンと飛び上がった。

声とリアクションの大きさに、撩の方が驚いて右手の指が全部開いてしまう。



香は、撩に触れられただけで心臓が跳ね上がり、

思わず胸を押さえた。

「あ、あ、あの、ご、ごめん。…ちょ、ちょっと、びっくりしちゃって。」

自分の上げた声にも驚きつつ、撩に謝ったが、

その時、撩と目が合って更にかぁーっと赤くなってしまった。



撩は、眉間に指を当てて俯いた。

(こりゃ、顔に出過ぎだろうがぁ。ったく、まいったね。)

一同は、香の態度で、どこまで関係が進展したか確信を持って読み取ってしまった。

ファルコンまで赤くなっている。



「ふーん。…撩、お前調子に乗って香が壊れるような真似すんなよなっ!」

ミックは最後の一口をかき込みながら、悔しさを交えて吐き捨てるように言った。

そんなミックの額の真ん中にごりっと鉄の冷たさが押し付けられる。

「くだらんおしゃべりは、やめろ…。」

やや身を乗り出し、対面しているミックに腕の伸ばす撩。

余裕を演出するために、左手はそのままカレースプーンを口に運ぶ。

だが、殺気に冗談は混じっていない。

「……オッケー。分かったから、…コレ仕舞え。」

ミックは人差し指でちょいちょいと銃口をずらした。



「ほほ、若さじゃのう。うらやましい限りじゃ。」

教授は涼しい顔をして食事を続ける。

「あら?年は関係ありませんわ。教授。

ファルコンとは年をとっても熱〜く過ごしていくのよね。あ、な、た。」

美樹がファルコンに色を纏った流し目でそう言うと、

ボンッという音が2カ所から聞こえた。

音源の一つは、言わずもがな海坊主。

もう一つはなぜか香が沸騰していた。

もはや、食事どころではなさそうだ。



「ごちそうさまでした。香さん、とっても美味しかったわ。

私、教授お勧めのワインを用意してくるから。」

と、かずえは自分の食器を持って先に席を立った。



「あ、あ、あたしもすぐ行くわ!」

この場からとりあえず離れた方がいいと、香は大急ぎでチキンカレーを掻き込んで、

途中、むせながらも食器を空にした。

「ご、ごちそうさまっ!」

風のように、かずえの後を追って台所に向かう香。



その姿を見てミックは苦笑した。

「カオリは隠し事ができないから、ホント分かりやすいよなぁ。

あの時、何があったのか聞いてみよっかなー。」

「おい、余計なことすんじゃねぇ。」

撩はかなり不機嫌な口調で言う。

「ふふん、お前がそばにいるときは聞かねぇーよ。」

「おい…。」

また懐に手が伸びる。



「冴羽さん、からかわれるのが嫌だったら、

私たちのようにさっさと夫婦になっちゃえばいいのに。」

さらりと言う美樹に、さらにファルコンが赤くなる。

「んなっ!な、なにを言っているのっ、美樹ちゃんっ!」

撩も、美樹のストレートな発言に、本気で慌てた。



「香さんにウェディングドレス試着してもらった時、

本当に綺麗だったわ…。」

短い時間ではあったが、白いベールを纏った香を思い出し、

しみじみとあの控え室でのやりとりを思い出す美樹。

「本番でまた見てみたいわぁ。

きっとお兄さんも見たかったんじゃないかしら。」



その言葉に、撩は槇村が逝ってしまった夜に思考が一気に引っ張られる。

「………。」

いつもなら、ふざけた物言いしかよこさない撩が、

しばし言葉を飲み込んでいた。




「美樹。」

ファルコンは低い声で咎める口調の言葉を発した。

「あっ、ごめんなさい。」

美樹は、あわてて口を押さえた。



「……いや、……美樹ちゃんの言う通りさ…。

槇村のシスコンの度合いは、尋常じゃなかったからなぁ。」

ふっと柔らかい表情になって撩は答えた。



「ほほ、覚悟を決めた男共は良い顔しておるのう。」

教授が口を挟む。

「ミックもファルコンも撩も、

抱えている悩みは恐らく重なる部分が多いじゃろうが、

お前さんたちのことじゃ。

連れ添う相手がいれば、何があっても乗り越えられるじゃろう。」

「教授…。」

美樹が教授と撩を交互に見る。



撩は教授の言わんとすることを深いところまで感じとり、動きが止まった。

「撩よ、さっさと食わんと食後の酒がこんぞ。」

他のみんなは、すでに食べ終わりかけ。

「あ、はい。」

一瞬トリップしかけた思考を引き戻し、撩はガツガツと残りを平らげた。


**********************************
(9)につづく。






カオリン、一回思い出しちゃうと、切り替えがかーなり大変そうです。
恥ずかしがっている香は、かわい過ぎるので、
このウブさは、出来上がっちゃった後でも、
当分は続いて欲しいもんです。
美樹とかずえとミックを並んで座らせるにはちょいと狭かったかしらん。
しかし、この設定ですと、当方の好物な、
「思いもかけないところで、二人の進展を知ってしまう仲間たち」の
シチュが取り込めないんですよね〜。
うう、だったら原作程度設定で
「進展を確信したら勘違いだったバージョン」の
SSをどっかに入れたくなっちゃいます。
さてさて、教授はどんなお酒を出すんでしょうか?


スポンサーサイト
プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


9万hit記念に
とりあえず作ってみた
CH専用Twitter
 


拍手1000パチ記念につけちゃいました。



かなり便利なサーチツール

登録サイト最新情報はこちらをチェック!


試運転中…

カテゴリ
最新記事
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR
現在の閲覧者数: