05-11 The Perfect Global Body

第5部 Professor’s House  

奥多摩から2日目


(11)The Perfect Global body **************************************************** 3247文字くらい




「おっと、俺が開けるよ、カズエ。」

「そぉ?じゃあお願いするわ。落としたら大変だし。」

「まぁね。」

かずえとミックのやりとりに、

今栓を開けられようとしているものが、

リオハより高級であることは、何となく分かった香だったが、

まだピンとこない。



キュポンという2度目の音が鳴る。

「どうぞ。」

それぞれに

先ほどとは違う形の新しいワイングラスが差し出された。

ミックはまず教授に

ソムリエのごとくスタイルを決めて丁寧に注ぐ。

「うむ。ワシも久しぶりじゃ。」

「あー、教授。これ今値段は言わないでおいて下さい。」

撩が頬杖をつきながら横目で訴えた。

ファルコンは、いい加減ラベルが見えないことに剛を煮やして

ついに尋ねた。

「おい撩、この香りは、まさか…。」

「そ、そのまさか。ロマネ・コンティさ。」

「ふん、だからさっき成金趣味だと言ったのか。なるほどな。」

腕組みをして鼻を鳴らす。



注がれる液体を見ながら、

美樹が心配そうに言う。

「教授、いいんですか?私たちが一緒にお相伴して。」

「ほほ、もちろんじゃとも。こういう時にこそ、この酒じゃろ。」

ミックが注ぎ終わり、

席に戻ると一同の間にしばし沈黙が入る。



教授は、

目を閉じグラスを胸の前まで持ち上げた。

「この味と香を作り上げた職人に敬意を表し、

我々の祝いの席に添えたることを許し被りたい。」

撩は呆れて俯いた。

「教授、何堅っ苦しいこと言ってんですか。」

「なに、これくらいのことは言ってもよかろう。」

教授はニヤリと笑みを浮かべて、すっとグラスを持ち上げた。

「では味わうとするか。」

「あれ?乾杯はなし?」

ミックが残念そうに言う。

「さっきしたでしょ。」

かずえが肘で突く。



「こ、これって、かなり高級なワインなの?」

香がびくつきながらグラスを持つ。

「んー、まぁ、安くはないわな。」

隣で撩が涼しい顔をしながら、くんと香りを嗅ぐ。

「香、どんな香りがするか言ってみ?」

「え?」



少し戸惑いながら、グラスを傾けて、

すぅっと鼻腔に空気を流す。

「わぁ、何これ?何て言ったらいいの?

色々な香りがする。フルーツ?ううん、何だろ。

バニラのような、香辛料のような、

とくかくいくつも香りがあって、

それぞれ仲良くしているっていうか…。」

香は、いい日本語がなかなか出てこず、

自分のボキャブラリーのなさに苛立つ。



「ほぉ〜、そこまで嗅ぎ分けられれば大したもんだ。」

撩は、肘をついてニヤっと笑う。



「ほんと、香さんの言う通りだわ。」

美樹もうっとりしながらその香りを楽しんでいる。

最初に口をつけたのは教授。

「ほ、まさにマダム・ルロワの表現通りじゃの。」

ミックが続けた。

「『完全なる球体』のことですね。」

「?」

香は、何のことだろう?と疑問に思いつつも、

そっとグラスを傾けた。



「何?これ?本当にお酒?」

香は、騙されているんじゃないかと一瞬思ったほど、

お酒らしくない口当たりに酷く困惑する。

「香、どんな味がする?」

頬杖をついて、興味津々に聞いてくる撩。



(きっと撩はこのワインの価値をちゃんと知っている。

だけど、あたしはどんなものなのかさっぱり。)

「あ、あのね…、なんだかお酒じゃないみたい。

さらりと口の中を流れるような感覚があって、

なんていうか…、

羽布団のような柔らかいものが撫でていくような、

絹やビロードを思わせるような不思議な液体って感じで…、

これって本当にアルコール入ってるの?」



「もちろんさ!味はどう?」

香の的を得ている感想に感心しながらミックが答えた。

ヘタな先入観がない香の率直な感想は、

余分な情報が頭に入っている自分たちよりも、

より純粋に分析できそうだと

ミックも撩も同じことを考えていた。



「うーん。」

香は悩む。日本語が出てこない。

さっきミックが言っていた『完全なる球体』。

飲み物や食べ物は、大概甘さや、辛さ、苦み、酸味などが、

どれか突出し誇張されているのが常、

しかし、その突出がない。

どの味覚をも刺激しているのに、

際立って存在をアピールしている要素がない。



(これが『完全なる球体』ってこと?)

「さっき、ミックが言った球体っていうのが分かる気がする。」

「へぇ。」

撩が眉を上げた。



「だって、甘みも苦みも、

あと、酸っぱさや辛みも、みんなあるのに、

全部…、何ていうの?ドングリの背比べっていうか、

抜きん出ているものがないっていうか、

あーん、やっぱり何て言ったらいいか分かんない。」



「香君、上等上等!」

教授が拍手を送る。

「それくらい分かってくれれば、

ピノ・ノワールもこの酒になったカイがあるというもんじゃ。」



「ピノ・ノワール?」

香が疑問符を浮かべていると、かずえが答えた。

「ブドウの品種の一つよ。」

「贅沢だわぁ、

こんなワインにここでお目にかかれるなんて。」

美樹が続けた。



「まぁ、希少っちゃあ、希少かもしれんが、俺としては、

ビールもワインもウィスキーも、うまけりゃ何でもいいんだけどな。」

撩は、さも関心がないかのように、くっとグラスを空けた。

「おいおい、リョウ、年間6千本程しか生産されていないんだぜ。

お目にかかるのもそうそうないシロモンに無礼な言い草だな。」

ミックが眉間に皺をよせて撩を睨んだ。



「ほほ、まぁ、

ワシもこんな時でないと出そうと思わなかったんじゃ。

こんな酒は、みんなで楽しんだ方がよかろう。」

満足そうな教授に、一同それぞれの笑みを浮かべた。

教授の『こんな時』というフレーズに、

これ以上、相応しいタイミングはないことを共感していた。

ただし、香以外であるが。



それぞれのペースでワインをたしなんでいると、

かずえが思い出したように香に話しかけた。

「香さん、

明日は夕方からお願いしていいかしら。

私、朝から昼はここで動けるけど、

4時頃にどうしても病院に戻らなきゃならなくて。」

「ええ、分かったわ。

じゃあ、夕食の準備ができる時間くらいに

またここにくればいいかしら。」

2種類のワインを空けた香は、

ややほろ酔いで微笑みながら答える。

撩は横目で、そんな香をちらりと見る。

濡れた唇に、

ほんのり染まった頬や耳がどうもエロく見えてしまい、

慌てて視線をそらす。



「お願いするわ。明日はミックも私も夜はいないから、

教授と、美樹さんとファルコンに、

あなたち2人でお食事をしてもらうことになるかしら?」

「あ、いや、

俺たちは明日準備があるから、夕食は外で食うよ。」

「撩?」

香はちょっと驚いた顔をする。



「ああ、おまぁの送迎はちゃんと出来るから心配するな。

ミック、お前明日には仕事ケリがつくんだろ。

あとで詳しく話すが、

南ガルシアについて予習しておいてくれ。」

「南ガルシア?」

香とミックがピクッと反応する。



「撩よ、お前さん、また何か企んでおるようじゃのう。」

教授も楽しそうに反応する。

「さぁねぇ〜。」

腕を後ろ手に組んで、椅子で伸びをしながら、撩は続けた。

「飯も食ったし、酒も飲んだし、そろそろお開きにすんべ!」

「ああ、そうね。もうこんな時間だわ、香さんごちそうさま。

教授も素敵なお酒ありがとうございました。」

美樹が立ち上がりながら声をかけた。



片付けようと、

グラスを集める香をかずえが制する。

「香さん、後片付けはいいわ。今日はもう家でゆっくり休んで。」

「え?でも……。」

「いいから、いいから。また明日お願いね。」

香は、大量のグラスをそのままにしていくのは心苦しかったが、

少しアルコールが回っていたので、

かずえの言葉に甘えることにした。



「わかったわ。かずえさんも無理しないでね。」

「もちろん。」

「教授、じゃあまた明日来ます。」

香は教授にぺこりと頭を下げた。



「おお、よろしく頼むよ。」

「じゃあ行くか。海坊主、明日また詳しく話してくれ。」

「ああ、分かった。」

美樹を部屋までエスコートしようとしていたファルコンに

後ろから声をかけた撩は、

その二人の姿を、目を細めて見送った。



「あ、撩、先に車で待てって。あたし、バッグ取って来る。」

「ほいよー。」

食堂からそれぞれの行き先へ移動し、

奥多摩から2日目の夕食はこうしてお開きとなった。



*******************************************
(12)へつづく。





一般庶民のいんちき主婦が
飲んだことある訳ないっしょ〜。
てな訳で、
これも「美味しんぼ」とネットの受け売りでございます〜。
こいつらに、これを飲ませたらどんなやりとりがあるか、
楽しく妄想させて頂きました。
教授んちなら、こんなお酒があってもおかしくなかろうて〜。
さて、ほろ酔いカオリン、今日のお仕事お疲れさんでした〜。
これから帰路です。


【脱字誤字発見感謝!】
「何硬っ苦しいこと言ってんですか」⇒「何堅っ苦しいこと言ってんですか」
「騙されているじゃないかと」⇒「騙されているんじゃないかと」
「ん」が抜けてましたー(><)。
mさん、ご連絡ありがとうございました!
2016.02.07.03:06

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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