05-12 Price Of Liquor

第5部 Professor’s House  

奥多摩から2日目


(12)Price Of Liquor **************************************************************2428文字くらい



「お待たせ!」

先に外に出ていた撩は、クーパーの中で香を待っていた。

「じゃあ、出るぞ。」

エンジンをかけ、教授宅から出発した。



「はぁー、長い1日だったわ。」

助手席に深く座って目を閉じ、

上を仰ぐ香を横目でみながら、くすりと笑う撩。

「お疲れさん。」

「うんん、疲れている訳じゃないんだけど、さっきのワインのせいかな。」

まだほんのり赤味を残す頬に、酔いが残っている自覚もある。

「まぁ、アルコール15%はあるからなぁ。」

思い出したように聞く香。

「ねぇ、ロマネ・コンティってそんなに希少なの?」



ちょっと間を置いて、ちらっと香を見ると、

「うまかったか?」

逆に質問する撩。

「……不思議な味だった。食感も風味も。」

「まぁ、ワイン通でもなかなか味わえないもんだしな。

一生に一度お目にかかれればラッキーとも言われるが。」

「何だかめちゃくちゃ高そうね。」

「作られた年によって違うが…、1本100万から200万はするな。」



「!!っっ………。」



香は目を見開く。

「口にする前に、値段聞いていたら、味わえる気分じゃなかったと思うぜ。」

「………。」

正面を向いたまま、まだフリーズしている香。

「あの瓶750mlサイズだったから、7人で分けて約120mlだろ。

一人グラス1杯15万から20万ってところか。」

倹約が常となっている香にとって、

もはや食品の値段として認知できないレベルに、

何の言葉も出てこない。



「だから、教授もあの席で出したんだろ。」

「え?」

「教授からのささやかな祝福さ。」

「……全然、『ささやか』じゃないわ…。」

ふぅーと息を吐く香に、撩は苦笑する。



「明日は、夕食だけ別行動だ。」

「明日?」

「そ!ちょうど飯の時間に、

俺と海ちゃんは、明後日の下準備をする予定だ。」

「さっき、ミックに南ガルシアって行ってたけど。」

「覚えてるか?」

「うん、みゆきさんと一緒だった時のこと、さっき思い出してた。」

「たぶん、言わなくても教授も手を出して来るだろうな。」

撩は、右肘を窓にかけ、片手でハンドルを握り、

口角を上げ、寄り目で説明を続ける。



「教授も?」

「たぶん、俺らの会話聞いて、

もう書斎でパソコンいじってるかもしんねぇ。」

「それって…。」

「んー、ミックには裏方で情報戦を手伝ってもらおうかと思ってな。

俺とタコは、現場でコンテナをいくつか処分するだけ。」



「……私に何か出来ることは、ない?」

やや暗い口調で紡ぎ出された言葉に、撩はふっと笑う。

「おまぁは、海坊主が美樹ちゃんのことを心配しなくてもいいように、

教授んちで一緒に過ごすのが重要な任務。」

はっと顔を上げる香。



「美樹ちゃんも、

着いて行きたくてしょうがないと思っているかもしれないが、

ケガが完治するまでは、タコも許さないだろう。」

あの2人の心理をちゃんと読み取っている撩に、ドキリとする。

「だから、美樹ちゃんと一緒に、待っていてくれ。」

「……うん、分かった。」



ちょっと逡巡してから香がおずおずと尋ねた。

「現場は…。」

「大井埠頭。」

速答する撩。

香は、かなり驚いた。

秘密主義の撩が、ファルコンとの仕事の内容をここまで、

自分に教えてくれた上に、銃撃戦にもなるかもしれない場所の地名までを

自分に伝えてくることなんて、今までのことを考えると、あり得ないやりとり。



「あー、海坊主がおまぁにも話していいって言っていたからな。」

香の困惑を感じて、撩は一言添えた。

「まぁ、知らないより、知っているほうが、その、なんだ、気分が違うだろ?」

ちょっとだけ、じわっと目尻が緩くなったのを感じた香は、

慌てて鼻を掻く真似をして、目頭を押さえた。

「…うん、安心感が全然違うな…。」



そう、今までは、夜出かけて行く撩がどこで何をしているのか、

殆ど教えられたことはなかった。

ましてや、裏の仕事となると、絶対的な秘密のベールの中。

香は、撩が新宿の歓楽街に遊びにいくフリをして、

言えない仕事をしていることを、何となく確信を持って感じていた。



自分の誕生日に帰ってこなかった兄のことがよぎりながらも、

どこにいるか分からない撩を待ち続ける夜が、

どうにも苦しく、不安に押しつぶされそうになったこと数知れず。

それが、さっきの撩のたった一言で、

確かに気分が全く違ってくる大きな差異を驚きながら感じていた。



一方撩は、小さく呟いた香の言葉に、ぐっと罪悪感が心に染み出る。

今まで一体どれだけ不安な思いをさせていたことか。

その一言で、自分がいなかった夜に味合せた苦しみが、

より明確になって撩の腑に落ちて来た。



「……すなまかったな。」

低い声が車内に通る。

「え?な、何が?」

撩の方を振り返ると、苦笑いをしている。

「あー、いや、今まで随分と不安な思いをさせちまっていたから、さ。」



まるで、心を読まれて、それに対しての返答かのようなやりとりに、

香はさらに驚く。

自分が不安でいることは、この男の心の負担になる、

直球的な思考でそう感じた香は、表情を明るくしこう言った。

「撩、大丈夫よ。そりゃ、ちょっとは心配だけど…、信じてるから。

何があっても信じてる。ちゃんと生きて帰ってくるって。」



撩は、目を見開いて香を見つめた。

「撩!脇見運転!」

「ああ、すまん。」

頭の中で、昨日の朝、聞いた同じ言葉がリフレインする。

身を繋げる直前に目を潤ませて香が言った言葉、



— 信じているから… —



(こんな男に、どんな思いで全幅の信頼を傾けているのか……。)

どうしようもなく、愛おしい思いが込み上がって来る。

運転中、抱きしめる訳にもいかず、妥協案で、撩は左腕をすっと伸ばした。

「え?」

「着くまでこうしてろ。」

いきなり、運転中の撩の左胸脇に顔を埋めさせられ、肩を包まれた。

心臓が跳ね上がる。

体温が心地いい。

頬が染まっていくのが自分でも分かる。



「撩…。」

「スピードあげるぞ。」

(早くアパートに戻って、お前のぬくもりを感じながら横になりたい。)

クーパーは、あと数時間で日付が変わる都心部のアスファルトを

なめらかに加速しながら、家路へと向かった。


*********************************
(13)へつづく。




ここだけでなく、全体的に
撩の言動が甘甘かもしれませんが、
ガラス越しのキスをかわす前の会話や、
海原戦の前のやりとり、
ローマンを手渡す時のセリフ、
クロイツ戦の時などを思い返すと、
オーバーライン後、多少の糖度は閾値内かなと…。
で、「おつかれさん」のセリフ。
ドラマCDのあの口調がたまらなく好きで、
ここで重ねてしまいました〜。
しかし、香ちゃんの肩抱いたままの運転って、
ギアチェンしにくくね?
及川優希の回で、なんとなく思っていましたが、
とにかくあのシーンは香ちゃんに置き換えたいので、
イメージの上書き保存です。



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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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