05-15 Pillow Taik

第5部 Professor’s House  

奥多摩から2日目


(15) Pillow Talk ****************************************************************4345文字くらい



香は、シャワーを終え、

キッチンで翌朝の朝食の仕度と、

今日の午前中にし損なっていた片付けを進めていた。



「ふぁ〜あ…。」




無意識に欠伸(あくび)が出る。

いつの間にか日付が変わる直前。

「明日は夕方から教授宅だから、

それまではこっちの家事が出来るわね。」



そこへ、

撩がチャッと扉を開けた。

「俺、シャワー浴びてくるわ。」

そう一言告げると、

香の返事を待たずに、

さっさと目的地に向かってしまう。

香が浴室にいる間に、

ミックへ連絡し、武器庫へ行き、

自室で衣装チェックを超特急で終わらせて、

6階に来た次第。

(シャワーも、とっとと終わらせよう。)

早く香とゆっくりしたいという思いで、

おのずと素早い行動になっている次第。




「あれ?もう行っちゃった?」




と振り返ったら

いなくなっていたので、

空耳だったかしらと

勘違いしそうになるくらいの、

短いピットイン。

「まぁ、いいわ。コーヒーでも準備しておきましょうかね。」

香は、一通り台所仕事が済むと、お湯を沸かし始めた。

ミルから挽くコーヒーは我が家の定番。

(アニキと暮らしていた時は、お茶が多かったなぁ。)

ふと思い返す10代の日常。



二十歳の誕生日から人生が変わったと言ってもいいくらいの

大きな転換期を経て、

あっという間に、6年以上が過ぎた。

あと4ヶ月そこそこで、7年目となる。

その間に、

こんな風にコーヒーをいれること数知れず。



思いを寄せる人のために、

コーヒーをいれられることそのものが、

実はものすごく幸運なことのだと言い聞かせ、

溢れそうな欲を押さえながらの日々。

そして唐突に迎えてしまった人生最大級の節目。




まだ、信じられない。




「ふぅー。」

小さく息を吐く。

お湯を待っている間に、

椅子にかけていたタオルで、

まだ水気の残る髪を包んで揉んだ。





— それとも、一緒に浴びるぅ? —





突然、

さきほど撩の残したセリフが頭に浮かんでしまった。

「や、やだっ!」

シャワーを浴びている時は、

明日の朝食のメニューをどうしようかとか、

教授宅で作る夕食の予定なんかをイメージしていたので、

すっかり忘れていた。




「だ、だ、だめっ!絶対だめっ!は、は、恥ずかし過ぎる!」




香はタオルに顔を埋めた。

頭から蒸気が上がる。

いらぬ想像をしただけでこの調子だ。

もし『そんなこと』になったら、

羞恥心で即死するかもしれない。





「……はぁ。」




香の心境と連動するように、やかんが高く鳴いた。

「あっ…と。」

立ち上がって、コンロの火を緩めると、

半開きの扉からかすかな物音が聞こえた。

ちょうどいいタイミングかもしれないと、

コーヒーを2人分いれ、

リビングへ運ぶことに。




カップを持って、キッチンの電気を消し、

目的地に着けば、

ガラステーブルにコーヒーをそっと置いた。

自分も腰を下ろしたところで、

撩の登場。

Tシャツとスウェット姿。

「あ、寝る前だけどコーヒー飲む?」

「ああ、サンキュ。」

若干湿った髪が色っぽく見えたのはお互い様。

撩は差し出された

いつものコーヒーカップを受け取りながら、

香の右横に遠慮なくドサリと座った。



以前だったら、

来客時以外には

隣り合って座ることは殆どなかったソファーで、

L字型の長辺側に並んで腰を下ろしている。

その距離でさえも、

香はこっ恥ずかしく、撩と目を合わせられない。

それをごまかすように、

両手でカップを包んで

顔を伏せがちにしてコーヒーを啜(すす)る。



その一方で、

緊張しながらも、

自身の五感が色々と拾ってしまう。

リビングに漂うコーヒーの香りと、

風呂上がりの石けんやシャンプーの香り。

左隣りから、

すっと液体が流れる音と、

こくりと喉が動く音がする。

ふぅーと息を吐き出すかすかな空気の流れさえも感じた。




「……やっと、落ち着いたな。」




左手にカップを持ち、

右手はソファーの背もたれにひっかけ、

深く体を預けた姿勢で座る撩から

まずは言葉が出た。

「う、うん。」

これは、素直に共感できる。

なんだかんだ言いながら、

本当に濃密で慌ただしい1日だった。




香は、

コーヒーの馥郁(ふくいく)とした芳香をすぅっと鼻腔に導いた。

疲れ気味の体と頭が少しクリアになった気がする。

コーヒーの香気成分に浸りながら、

少しずつ喉に流す。

そんな香の飲む早さに合せるように、

撩ものんびりカップを傾けた。



「ふぅ。」



底が見えたコーヒーカップを

コトリとテーブルに置くと、

それを待っていたかのように、

ふわっと撩の腕に抱き込まれた。

腕をまわすと同時に、

持っていたカップを当たり前のように

その隣に並べる。

「あ。」

「お疲れさん。」

さっきと同じ優しく柔らかい声が降って来る。

香は、かぁーと赤くなりながらも、

そのまま撩の腕の中で身を委ねた。




「ん……。」




心地いい。

感触が、温度が、匂いが、その全てが心地いい。

撩が自分の髪の毛に顔を寄せているのが分かる。

頭皮に感じる鼻からの呼気が

妙にくすぐったい。




「……もう、今日はやることないんだろ?」

「ぅ、うん、た、たぶん。」

浸っていたところに突然の質問、ドキリとする。

「じゃあ、寝るか!」

ふっと体が浮く。

「えっ!」



気付いたら、またお姫様抱っこ。

すでにリンビグの電気が消され、

廊下を闊歩中。

まるで瞬間移動のような素早い動きに

驚き声もでない。

競歩のようにすたすたと歩く撩は、

あっという間に7階の自室に着いた。




部屋は暗いままで、

かすかに外の人工的な光が漏れ入るくらいの

青みがかった照度。

「はい、到着ぅ〜。」

そう言いながら、また『あの時』のと同じように、

そっとベッドの奥側へと香を降ろした。

すでに全身真っ赤っかの香は、化石寸前の状態。

くくっと笑う撩は、

そのまま一緒に横になり、香を引き寄せた。





「んなに硬くなるなって…。」

「そ、そんなこと言われてもっ。」




器用に体を寄せられ、

いつの間にか

撩の左肩を枕にする形で

体を密着させている自分に気付き、

硬直は増すばかり。



ここに寝かせられたってことは、

昨日は見送ってもらったけど、

またあのようなことが待っているのだろうかと思うだけで、

恥ずかしさで身が動かなくなる。




「……明日、頑張ってもらおっかなぁー。」






「……え?」

「だから、体力温存しとけ。」

そう言いながら、横抱きに香を腕で包む撩。

(は?明日?頑張る?体力温存って?)

『何を』『何のために』と明確に言わない撩の言葉に、

香は、きょとんとした目で顔を上げた。



「今日は朝からハードだっただろ?」

視線が合った撩の口からそう呟かれた。

「そ、そう言われてみれば、ね。」

確かに、

もうそのまま引き込まれそうなくらいの

強烈な睡魔がそこまで来ている。

撩の左手がゆっくり香の髪を撫でる。

それだけで、

胸部から心臓の形がそのまま飛び出てきそうになる香。



「おまぁ、このまま寝たら、明日の朝寝癖だらけになるぞ。」

ドライヤーで乾かし損なったややウェットなくせっ毛に、

撩の指が絡まる。

眠気と戦いながらの返答。

「……りょ、撩だって、まだちゃんと、乾いてない、じゃない?」

「じゃあ、二人とも起きたら寝癖だらけだな。」

香は、目を閉じ髪の毛に触れられている感触を

くすぐったく感じながら、照れを隠しきれない。

「んー、も、もうこの状態じゃ、

ドライヤーで乾かしにいくのも、面倒ね。」

自分で言った、『この状態』という単語に、

あっと、指先で口を押さえ、勝手に赤面する。




すると、

ふっと鼻から息が軽く出る音を感じた。




「……お前と、こんなふうにピロートークできるなんてな。」




優しく甘い声に、またドキリとして目が開く。

「ピ、ピロー?」

近過ぎる撩の顔にまたかぁーと体温が上がっていく。

「そ、ピローは枕のこと。トークは会話。つまりベッドで交わす会話のこと。」

撩は目を閉じながら、そっと香の鼻先に唇を寄せた。

「ひゃ!」

香の肩がピクッと上がり、瞳がきゅっと閉じられた。

その目蓋にも撩の上唇と下唇が薄く開いたまま滑って行く。




「……ずっと、こうして、触れたかった…。」




小さく掠れ気味の声で、つい漏れ出た本音。

撩の左手は相変わらず髪を優しく撫でる。




「……ずっと、触れてはいけないと、思っていた…。」





小声で更に続く、

撩の偽りのない呟き。

長く太い指が香の前髪を掻き揚げ、

額に唇が降ってくる。




「りょ……。」



撩も相当に苦しんでいたことを

屋上で聞いた言葉と共に思い返す。




「……あ、あたしも、…ずっと、…そう思ってた。

…今までの関係を、

…その、…壊すのが、すごく、……怖くて。」

香の声がさらに小さくなった。

「……自分の、気持ちを口に出したら、

もう、…ここに、いられなくなるんじゃないかって、

だ、だから、ずっと…、ずっと…。」



そこまで言ったところで、

撩の温かく柔らかい唇が、

香のそれをそっと塞いだ。

「んっ…。」

ミドル級のやや湿っぽい口付けを暫し続けた後、

そっと唇を離すと、撩は香の耳元で囁いた。




「……ずっと、一緒だって、言っただろ?」



赤くのぼせた香は更に体温を上げてしまい、

頭もぼんやりしてしまう。

「んと、おまぁはよく赤くなるなぁ。」

そんな香を見つめながら、くすりと笑う撩。

「しょ、しょうがないでしょっ!」

目を閉じたままそっぽを向こうとする香は、

そのまま撩の胸に頭を押し付けられ、

身動きがとれなくなった。

太い足も自分の両脚にからんでくる。



「りょ…。」



丸太のような太い左腕も、

自分の脇腹から腰回りに巻き付いている。

(ひゃあ…、大きなヘビにからみつかれているみたい…。)

密着度が高くなり、ますます照れが沸き上がるが、

同時に、撩の匂いと体温と心音に、深い安心感を得て、

さらに目蓋が重たくなってきた。



もう睡魔が舞い降りる直前と感じた撩は、

ふっと微笑んで小さく言った。

「……おやすみ。」

「ぇ?……ね、寝て、ぃぃ、の?」

とおずおず聞いてくる香が可笑しくて、

ついくくっと笑ってしまった。



「だ、か、ら、明日、頑張ってもらうって言ったろ。だから今日は休め。」



香は、

さっき分からなかった『何を』頑張るのかという目的語が、

今の撩の言葉でなんとなく理解でき、

またボボッと赤くなる。

その意味に気付かなかったフリをするのは苦しいかもと思いつつ、

小声で言葉を返した。



「…ぅん、ぉやすみな、さぃ…。」



香は、そのまま抵抗もなく

撩の腕の中ですーと眠りに落ちていった。



撩は、

まだ右手で香の髪の毛を撫でている。

鼻先をくせっ毛に埋めて、

その感触にじっくり浸る。

「撩ちゃん、しゃ〜あわせかもぉ〜。」

ぼそっと口をついで出てしまった言葉に、

はっとなり、

慌てて香が起きていないかを確かめる。



(ほっ、しっかり寝てるぜ。)



気持ちは、

2回目のもっこりタイムを楽しみたいところであるが、

初貫通から2日はインターバルを置きたいと勝手に決めつけ、

教授宅での働き振りからも、

香の疲れはいつも以上のはずと、

今晩も抱き込んで休むだけと決心していた撩。



一緒にベッドに寝るようになって、

やっと3日目。

こうして触れ合っているだけでも、

言い様のない満足感を得られる。




「んと、おまぁは、すごい女だよ…。」




小声でまた本音が零れる。

もちろん聞こえていない香は、

すーすーと静かに寝息を立てている。

再度、香の髪にキスを落とす。




「……ずっと、……傍にいてくれ…。」




抱き直す腕に少し力を込めて、

そのぬくもりを確かめながら、

撩も静かに目蓋を閉じた。


***************************************
第6部(1)へつづく。





自主オアズケです。
実はそーとーガマンしていますが、満足もしているおかしな心境。
このあたりの空気もシツコイですが、
海原戦前夜の二人の雰囲気を重ねてもいいかもなぁ〜と。
だって、ベッドのそばでハグですよ〜。
あの二人がっ。
冷静に思い返すと、かぁーなりすごいシーンかも。
よく朝ベッドの上にいたりするしぃー。
という訳で、やっとこさ第5部終了でございますぅ〜。
次は奥多摩から3日目が始まります。
いつ、美樹ちゃんのお店復活まで辿り着くんだろうぅぅ。
こんな超鈍行の時間軸だと、飽きちゃうわよねぇ〜。

【ロンドンオリンピック】
カオリ、リョウと読みが同じ人がアナウンスされるだけでも
うれしくなってしまうぅ〜。

【今更修正】
煎れる⇒いれるに訂正巡礼中。
Sさんお知らせ感謝!
って、今ソチ冬期オリンピックの最中だし…。
2014.02.12.00:05

【今更修正】
自分で言ったこの『状況』を
自分で言ったこの『状態』に修正しました。
他若干改稿〜。
mさんありがとうございました!
(1年以上前に御連絡を頂いてましたのに〜)
2017.02.13.22:19



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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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