06-02 Breakfast (side Ryo)

第6部 A Day Of Ryo & Kaori 

奥多摩から3日目


(2)Breakfast (side Ryo) *********************************************************2307文字くらい



トイレ経由で洗面所に行き軽く顔を洗い、口を漱いでから、ヒゲをそる。

なるべく音を立てないように、

首にタオルをひっかけて、キッチンへ向かう。



静かにそっと扉を開けてみる。

テーブルの上には、

焼き上がったばかりのトーストとハム付きのスクランブルエッグ。

流しでサラダを準備している香の後ろ姿をロックオン。

いつものジーパン姿に、トレーナーでエプロンを纏う。

俺は、気配を消してゆっくり接近する。



包丁は使ってないな。

はずみでどこに飛ばされるか分からんから、

これはちゃんと確認しておかんと、ケガさせちまうかもしれんし。

真後ろに立っても、まだ気付かない香。

こりゃ気配を読む訓練もしっかりせんとなぁ。

香の匂いが鼻腔に流れ思わず顔が緩む。



その刹那、香の肩がピクッと動いた。

同時に、自分の両腕をひょいっと香の胴に絡ませた。

「きゃああっ!!」

シンクに、ちぎっていたレタスが舞って散乱する。

まぁ、なんとも愛らしい声で。

そのまま香の右肩に顔を埋める。

より強く感じる香の持つ心地良い匂いが脳を刺激する。



「ちょっ!ちょっとっ!な、な、なにすんのよ!急にっ!」

真っ赤になって振り返る香の心拍が早くなっているのが分かる。

「朝飯食いにきた〜。」

「け、気配消して突然ヘンなことしないでよ!

あーあ、レタスもっかい洗わなきゃあ。」

「あー、これ気配読む訓練つーことでぇー。」

鼻を香の首筋にすりつけながら、言ってみる。

「ひゃ!」

せっかく拾いあげたレタスがまた手元からこぼれ落ちる。

「香ちゃん、感じやすいのねぇ〜。」



香のヘソの位置でクロスさせた腕のさらに力を込めた。

とたん、顔面に衝撃が来る。

いや、来るのは分かってはいたんだが、長年の習慣でよけられないんだなこれが。

べしっという音と同時に、視界を遮っていたのは、

ハンマーでなく鍋だった。

「邪魔しないでちょーだい!さっさと席について食べちゃって!」

顔は照れで赤くなりながらも、

いつもの香のセリフにどこかほっと安心する。



「し、しどい…。ボクちゃんはカオリンのために…。」

スコーンと飛んで来たのは、今度はミニハンマー。

顎にクリーンヒット。

「食事の支度、邪魔するのがあたしのため?」

じろっと睨まれる。

「しゅびばせん…。」

落ち込んだフリをして、とぼとぼと大人しく席に座る。



何にもない時は、昼前までベッドでうだうだしていることが多いが、

こうして朝食をまともな時間に香と2人で食うことも、

依頼人がいる時以外は、

割合としてはかなり少なかったかもしれんな。

遅く起きて来るとだいたい朝昼兼用の飯になるし。

おおかた、ラップをかけられて、一人で温め直し、

伝言板確認と買い物をしに行った香を待つパターンが日常を占めていた。



そんなことを考えながら、トーストを手に持って齧りつつ、

テーブルに置かれている新聞に目を通す。

国際面に小さくクロイツの強制送還の記事が載っていた。

これでヤツはシャバには二度と出られないだろう。



「さ、食べよ。」

サラダとドレッシングを用意した香も席について、

フォークを手にとった。

「いっただっきまーす。」

さっきのやりとりからしても、

至って健康そうだ。疲労も殆ど残っていないようだな。

新聞越しに、香の健康チェックで一安心する。



「おまぁ、伝言板見に行ったあと、昼前に戻ってこれるか?」

「え?た、たぶん、買い物は午後で大丈夫だから、

 行ってすぐ帰れると思うけど。な、なんで?」

「教授んちに行く前に、

ちょぉーっとだけ、訓練の予行練習しよっかなぁーと思ってさ。」

はぐはぐと玉子とハムを口につっこみながら、

伏せ目で言葉を返す。



香の目が大きく開く。

肩から緊張する様子が対面から伝わって来た。

まぁ、そりゃそうだろうな。

こんなことを言うのは初めてだからな。



「うん、分かった。すぐ戻ってくるわ。」

想像以上に、まじめな返事を耳にして、

なんだかこっちまで緊張してきちまった。

「じゃ、じゃあ早くやること片付けないと。」

と、香はパクパクと食事を進めた。



「撩、パンのおかわりは?」

「ああ、頼む。」

自分の分をある程度食べ終わった香は、

再びトースターに食パンを入れ、食器をシンクで洗い、

コーヒーの準備も始めた。

ミルを挽く音が心地良い。

豆は、美樹ちゃんのところと同じもんのはずだが、

煎れる人間が違うと、微妙に味も違ってくる。

なんだかんだ言いながら、

何年も慣れ親しんだ香の煎れてくれたコーヒーの味が一番旨く感じる。

って、こーゆーこと、面と向かっちゃ言えないよなー。



「はい、どーぞ。」

コーヒーと焼き色のついたパンが同時にやってくる。

「サンキュ。」



一般的には、当たり前の朝食の風景かもしれないが、

こんな日常は、槇村と香に出会うまで自分の時間の流れの中には、

ありえなかったものだ。

この「普通で当たり前の日常」がいつ壊れるか分からないのが、

裏の世界の常識とは言え、

表で暮らしていてもそのリスクは決してゼロではない。

それでも、いつ命を落とすとも分からない、闇の住人に、

こんな家庭的で穏やかな空気を与えてくれたのは、槇村と香だ。



お前とこうして過ごせる時間が、

俺にとってどんなにも価値あるものか、

お前はきっと分かっていないだろうな…。



自分の目の前で、コーヒーを飲む香に、つと視線を流す。

ふっ、まだ緊張してやがんの。



「あ、あたし洗濯と掃除してくる!」

コーヒーを飲み終わった香は、自分のカップをさっと洗い、

慌ただしくキッチンを出て行った。



「さぁてと、特訓の前に準備しとくか…。」

俺もさっさと食事をすませ、洗いもんを片付ける。

ばたばたと忙しく動き回る香の気配を感じつつ、

伸びをしながら、今日の時間の使い方に思考を巡らせた。


*******************************
(3)へつづく。




朝食としては、奥多摩から2回目の食事シーン。
ああ、1回目も卵料理だったわ…。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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