06-03 Shooting Coach (side Ryo)

第6部 A Day Of Ryo & Kaori 

奥多摩から3日目


(3) Shooting Coach (side Ryo) ***********************************************4053文字くらい



掃除と洗濯を終え、伝言板を確認しに駅まで往復した香は、

大急ぎでアパートに戻ってきた。

リビングのソファーで寝っ転がっていた俺。

まじめ系の本に目を通していたのだが、

香の気配を感じて、いつもの愛読書に持ち替えた。

いや、別に隠すことじゃないが、なんとなくな。

一体、誰に言い訳しているのか、自分でもこの奇行に苦笑いする。



最近不穏な動きも聞かないし、伝言板はとりあえず一人で行かせたが、

情報屋から怪しい話しを少しでも聞いた時は、

ナンパという名の護衛が常。

人知れず、香を狙ったおバカを退治した数なんてもう分からないほどだ。




「撩、ただいま!依頼はなし。他に変わったこともなし!」

リビングに元気な声と一緒に入って来る香。

「了解。」

愛読書をテーブルの上に投げ、むくっと起きる俺。

「で、予行練習って何するの?」

ガラステーブルに持っていたカバンを置いて、俺の顔を覗き込む香。

「おまぁ、ローマンそのバッグに入ってる?」

「あ、うん。」

「じゃあ、それ持って地下に来い。」

「え?」

香の分かりやすい驚きがダイレクトに伝わって来る。

「特別短期授業すっぞ。」

「!!」

香は、あわててバッグ取り、そのまま持ってついて来る。



一緒に、射撃場へ降りていくと香が尋ねて来た。

「撩…、あたし、てっきり護身術からだと思ってたんだけど。」

「あー、それもいずれな。」

背中を見つめられている香の視線を感じつつ、目的地へ到着。



「撩、ミックが来た時、あんた、あたしに二度とここを使うなって言ってたけど。」

「んあ?それ、取り消し。」

「は?」

簡単に前言撤回する俺の言葉に唖然とする香。

「じゃねぇと、訓練できねぇだろ?」

俺は、返事をしながら壁面の収納から、銃弾の入った箱を持って来る。

「今日は13発だけな。」

「え?13?」

「弾は入ってんな。」

俺は耳に使用済みの弾頭をねじ込む。

香も自分用にキープしてある口径の小さい弾を耳栓に使った。



「まずは、最初に6発撃ってみろ。」

俺は腕組みして、香の斜め後ろに立ち、指示を出した。

あらかじめ香が外に出ている間に用意した新しいブルズアイ型の的がすでに、

奥にぶら下がっている。

香には、本当はマンターゲットの的は使わせたくないが、

そうも言ってられなくなるな…。

あ、そういえば、キャッツの地下は人型だったか…。

まぁー、仕方ないか。



「じゃ、じゃあ、撃ちます。」

つい『ですます調』での言葉が出てしまう香に、

ふっと顔が緩んだが、

香はそれも気付かずに、真剣な眼差しで静かに息を吐いた。

足は肩幅、脇も締めている。持ち方も問題なし。

ガァーン!! ガァーン!! ガァーン!!

射撃場に6発の銃声が響く。

「ふぅー」

と小さく息を吐く香。



「ほぉー。」

まじで驚いた。

照準を合わせたのは、ミックが来た時。

それ以来、美樹ちゃんのところで、時々練習しているのは知っていたが、

8ヶ月間で、その回数は、そんなに多くないはず。

決して十分とは言えない練習期間でここまで上達していることに、

正直衝撃を受けた。

美樹ちゃんの指導の賜物か。

そんな俺の心理は微塵も見せずに、とりあえず褒める。



「やるじゃん。円の中に入りゃいいほうかと思っていたが、

中心から、3円分にみんな当たってんじゃん。」

しかも、半分は2円分に入っている。

香は元来運動神経はいいほうだ。

鍛えたら、こちらの思惑以上に上達しそうな気配を感じた。

「あの同心円は、直径60センチだ。

香の弾は落ち着いて撃てば、直径30センチの枠には収まるってことだ。」

俺は、スイッチを押して的をブースまで戻した。

そして新たな的を付け、定位置に戻す。



それを目で追う香を見ながら、俺は自分のパイソンを取り出した。

「しかし、30センチだと、仮に肩や腕を狙ったとしても、頭や心臓に当たっちまう。」

香の肩がピクッと揺れる。

「的が絞れるように、衝撃に慣れて手ぶれを少なくしないとな。」



そう言いながら、香のローマンを取り上げて、

パイソンを持たせた。

「ええ?!」

香が俺のほうに困惑した目を向ける。

もちろん、直接撃たせたことなんてない。

唯香の救出の時に、照準を合わせてもらったが、

これは女の腕で扱える銃ではない。



「撩…。」

目を大きく開け、複雑な表情で銃と俺を見つめる。

「これで撃ってみろ。」

「ど、どいういうこと?」

この展開が飲み込めない香は、重そうにパイソンを両手で持つ。

「一度衝撃の大きい銃を撃っておけば、手ぶれが軽減される。」

「っでも!」

冗談抜きで不安な顔になった香。

「大丈夫だ。たぶん後ろにふっ飛ぶだろうが、俺が支えるから。」

「…重たい。」

本体100グラム強の重量差は、手首だけの支えだと、

ローマンに慣れた手では当然重い。



「だから、これは1発だけ。」

ごくりと唾を飲む音が聞こえる。

「下手に腕に力を入れると肩を脱臼するかもしれんぞ。」

ドキンと飛び上がる香に苦笑する。

「両手でしっかり持て。あまり狙いに長くかかっていると重心が下がるぞ。」



香は意を決したように、ふぅと息を吐いて、

すぅっとパイソンを構えた。

真後ろに立っている俺はその表情を見ることはできなかったが、

きっと射抜く強い視線で的を見ていることだろう。

想像するだけで、ぞくりとする。



香の指にくっと力が入る。

ガァーンンンン!

「きゃあっ!」

予想通り、香は弾かれて俺の腕の中にどさっと飛んで来た。

「はい、ご苦労さん。」

「いったぁー、手が痺れるぅ。こんなの当たりっこな…。」



「………。」



俺と香は、的を見て暫し沈黙。

「……当たってんじゃん。」

円の外ではあるが、的に穴は空いていた。

しかも円の近く。

いや、的にかすりもしないだろうと思っていたのが、

これまた想像を裏切られた。

たいしたもんだ。

柏木圭子の時、彼女は相当数撃ってやっと当てられた。

比較対象には置けないが、それでも最初の1回で穴を開けるとは。



「撩の銃って、こんなに衝撃が大きいなんて知らなかった。」

腕の中で、香が小さな声で言う。

「あ?」

「だって、いつも片手で軽々とポンポン撃っているんだもの。」

パイソンを俺に渡しながら膨れっ面の香。

「鍛え方が違うの!」

「あんたの腕、丸太みたいだもんね。」



香は、自分の腕が巻き付かれたときの重さを思い出しているようで、

今自分が俺の腕の中にいることに気付くと

はっとして顔を赤らめた。

あわてて、体勢を立て直そうとする香。

かなりギクシャク気味だ。

たったこれだけで、恥ずかしがるとは、んとかぁいんだから〜。



「じゃあ、次はまたローマンで撃ってみな。」

まじめな顔を作りつつ次を促す。

「は、はい。」

本当に生徒のような返事に、俺も調子に乗ってきそうだ。

受け取ったローマンに装弾し構える香。



「あ、軽く感じる。」

「油断するな。」

「はい。」

脇を締め直して、足も踏み直す。



ガァーン!ガァーン!ガァーン!



さっきと同じ6発を連続で撃ち込む。

硝煙の匂いが濃く立ち上る。

「え?」

「こりゃ、効果抜群だな。」



同心円の2円分に全て弾痕は収まった。

驚くことに、かなり中心に集中している。

「直径20センチに縮まったぜ。」

明らかに、ついさっき撃った成果とは違う結果に、

香は呆然としている。



「うそ…。」

「うそじゃねぇって。」

ローマンをじっと見つめ、また的を見る香。

「……たった1回、撩のパイソン撃っただけで?」

「ま、こんなもんじゃね。」

ゆっくり腕を降ろして、ふーと肩で息を吐く。

「……信じらんない。」

薬莢をパラパラと落とす音が響く。

「世界一のスイーパーに指導してもらってんだ。成果が出て当然だろ。」



本当に特別短期授業の名の通り、

短い時間で香にとって大きなステップを踏ませてしまった。

複雑な気分だ。

上達して欲しいような、して欲しくないような。

いや、俺たちの関係が変わった以上、上手くなってもらわなきゃならんのだが、

どうもまだ心のどこかで、なんかひっかかってんな。



香も俺も耳から弾頭を抜き取り、銃弾の入った箱の横に置いた。

「だが、香、忘れるな。…お前には、

人を殺めるようなことは絶対にさせない。」

俺は、あの廃ビルの屋上で伝えたことを繰り返す。

彼女のローマンを取り上げて、ブースのテーブルに置きながら、

腰をくいっと引き寄せた。

「そのためには、ある程度正確に撃ち込めるようにならなければ駄目だ。」

「りょ…。」

そのまま香の細い体を抱き込んだ。

服越しに困惑が混じった緊張と照れが伝わってくる。



「相手を生かしつつ、戦闘能力を奪う方法はいくらでもあるが、

殺してしまうより、そっちのほうが格段に難しい。 

銃もナイフも数センチ違うだけで絶命させてしまう。」

香の体がぴくりと強張る。

「そんな間違いが起こらないように、俺がしっかりコーチしてやる。」

「撩…。」

茶色い猫毛に指を通す。

硝煙を浴びた香の髪の匂いが、沈めていた後悔の念を引っ張り出してきそうだ。



「授業料は高いぞー。」

自分のもやもや感を勘ぐられまいと、おふざけモードで言ってみる。

「はぁ?これって有料なの?」

「まーさか、ンな訳ねぇだろ。」



きょとんとする香には皆まで言おうか迷ったが、

ひとまず『授業』を終えることにした。

「今日はここまで!」

香の両肩に手を乗せ、名残惜しいが身から離す。

「あ、はい。」

まだ『ですます調』で話す香は、

慌てて落ちた薬莢を拾い、ダストボックスへまとめて入れ、

ローマンに充填し、弾の入った箱を素早く元の場所に戻した。

射撃場の使用は一時禁止していたが、

銀狐の時以来、銃火器の管理は任せていたので、

てきぱきと勝って知ったる動きで、後片付けをした。



「的はどうすっか。」

俺はモーターのボタンを押して戻ってきた穴の空いた的をぴっと取った。

「記念に、取っておこうかな…。」

いつもはすぐにゴミ箱行きであるが、

初めてパイソンで開けた穴1つプラス6つの覗き穴が出来た的を

香はそのまま受け取った。

「じゃあ、上がるか。」

「はい。」

まだ、生徒気分で返事をする香が可笑しくて、

つい、ぷっと笑ってしまった。

「なによ。」

「べぇ〜つにぃ。」

香の肩を押しながら、

射撃場の照明を消し、防音扉を開けて、一緒に地下を後にした。


************************************
(4)へつづく。





カオリン「ですます調」の自覚ナッシングです。
香が銃を扱うことに、撩もかなりの心理的な揺れがあると思います。
そもそも、香が人を傷付けることそのものに大きな抵抗を持っていると思いますが、
身を守るための手段までは、
なんとか許容範囲と思っているかもしれません。
原作では、バズーカで敵を気絶させる無意識のスキルがあることが表現されていましたが、
香が銃で実際に人に当てたシーンはゼロだったはず。
そんな彼女が、いつか自分の銃で人を撃ち当ててしまう未来を撩がどんな思いで、
受け止めるのか、これは安易な言葉では言い尽くせないかもしれません。
しかし、香は、きっと撩を守るためなら、
例え相手が絶命しても引き金を引くことはためらわないでしょう。
黒蜥蜴の時に、反射的に乱射した彼女の心理を思うと、
自分よりも撩の命というのは、変わらないコアなのかもと。
ただ、香自身も自分が人を殺めてしまったら、
撩の背負う苦しみがいかほどかは、十分理解していると思いますので、
撩の訓練でちゃんと急所を外せる技術を身につけることでしょう。
カオリン、基本素質はあんのよ。
ミックのコーチの時に、短時間で集中してど真ん中当てたしね。
だからAHの射撃はヘタだった設定は、どーも納得いかん。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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