06-08 Home Cooking

第6部 A Day Of Ryo & Kaori 

奥多摩から3日目


(8)Home Cooking  ***********************************************************3656文字くらい



香は、キッチンに戻ると、大食い2人分のお弁当を整えて、

お茶の入った水筒も2本自宅から持ってきていた。

夕食は3人分、肉野菜炒めはすでに温めるだけ。

ご飯、味噌汁、豆腐サラダにフルーツと、和風で揃えた。



そこへ、撩がやってきた。

「香ぃ〜、俺らそろそろ出るからなー。」

「え?海坊主さんは?」

「ああ、さっき着いた。今教授と話してる。」



自分が美樹と話していた間に

ファルコンが到着していたことにやや驚く。

「あ、撩これ持って行って!」

重たいバスケットを手渡す。

「なんだ?これ?」

「お弁当。夕食代わりに、車の中とかで食べられそう?」

「ああ、助かる。」

香は受け取ってもらい、少しほっとした。

じゃまだと、置いていかれることも覚悟していたのだ。



「俺とタコが、どっかで外食したら、目立つし、

 金かかるしでいいことないからなぁ。有り難く持って行くよ。」

「撩、気をつけてね…。」

「心配するなって。今日はさっさと終わらせてすぐ戻るから。」

「撩…。」

「美樹ちゃんとおしゃべりでもしながら待ってな。」

また髪の毛をくしゃりとされ、香はほんのり赤くなる。

(うー、これだけで、ほてってくるなんて〜。)



「撩、そろそろ行くぞ!」

ファルコンの野太い声が聞こえた。

キッチンに入ってきた大男は、香に向かって言った。

「香、すまんな。美樹を頼む。」

「もちろん。早く戻ってきてあげてね。」

「ああ。」

「じゃっ、行きますか!」

撩はバスケットを携えてファルコンと一緒にキッチンを出た。

「いってらっしゃい!」

男たちの後ろ姿を見送った香は、ふぅーと息を吐いた。

「本番は明日なのよね…。」



言い様のない不安は、いつものこと。

今回は、具体的に何があるかを教えてもらっている。

今、自分がすべきことは、美樹さんと彼らの帰りを待つこと。

「さ、食卓に運ばなきゃ。」

香は、食堂に配膳を終え、美樹と教授を呼びに行った。





「ほほ、今日は和食か。香君、ご苦労じゃったな。」

「わぁー、美味しそう!頂きます!」

3人での食卓は、初めてのパターン。

「工夫がないメニューでごめんなさいね。」

香は、なんだか申し訳なさそうに、自分の箸を伸ばす。



「十分すぎるわ。嬉しい。お豆腐好きなのよ。」

相変わらず左手で器用に箸を使う美樹は、

次々とおかずを口に運ぶ。

「まったく、撩がうらやましいのう。」

何だかいやらしい笑みで、茶碗を持つ教授は、

にやつきながら、香を見る。

「きょ、教授っ。」

赤くなる香に、美樹もくすくす笑う。



食べながら、教授は続けた。

「かずえ君が多忙で、二人には苦労かけるが、もうしばらく辛抱してもらえんかの。」

「あ、大丈夫です。さっき、かずえさんとちゃんと打合せしましたし、

こちらも、依頼が入ってないんで、気になさらないで下さい。」

香は、冗談など抜きで、まじめに教授に答えた。

「そうですよ。教授、転がり込んだのは私の方なんですから。」

美樹もすぐに反応した。

「現場ですぐに教授に手当てしてもらったからこそ、

こうして食事も出来るんですし。」

微笑みながら感謝を表した美樹は、治療中の肩口をそっと見つめた。



「まぁ、美樹君もファルコンから聞いておると思うが、

今回の相手は、南ガルシア共和国の軍部がターゲットじゃ。」

美樹もある程度聞いていたようで、反応してきた。

「最初は、密輸の阻止だけということでしたよね。」

「その通り。じゃが、撩が元から潰そうと言って来てな。」

「撩が?」

初めて聞いたことに、香は驚いた。

「大丈夫じゃ、もう手は打っておる。」

香は、ここまでの話しで、

すでに教授が裏で何らかの操作をしていることを知った。

「今日は、武器のチェックと、現場でトラップをしかけるくらいじゃろう。」

「明日の夜には終わるんですよね。」

香は、なるべく明るい口調で教授に聞いた。

「ほほ、ちぃーとばかし雑魚が多いようじゃが、大丈夫じゃろう。」

つい、先日100人近くのクロイツ親衛隊を相手にしたばかりなのに、

また大勢を相手にする現場に行くことになろうとは、

あの2人がそういうものを呼ぶのだろうかと、

3人同じことを思い描いていた。



「ミックも適当に動いていることじゃし、

今回は準備時間もある。心配はいらんじゃろ。」

連れ合いを待つ二人の女性を安心させるかのように、

教授は穏やかな口調で宣言した。



「それにしても、美味しいのう。滋味と温かさのある家庭の味じゃ。」

教授は顔をほころばせて、食事を進める。

「そう、そうなのよ。香さんの手料理って家族愛を感じる味付けなのよねぇ。」

美樹も教授の意見に乗る。

「うーん、中学の頃からアニキと分担して食事作っていたせいなのかしら。

教えてもらったのは、殆どアニキからだし。

あとは料理本見て独学も入っているけど…。」

香は、二人の意見に困惑する。



「相手を思いやる愛ある食卓なんじゃよ。裏の人間には縁遠いもんじゃ。」

教授はもうすぐ食べ終わりそうな気配。

「そうなのよね。

昔は、コンバットレーションばかり食べていたから、

本当に、日本の主菜、副菜がそろっている食卓って、

無条件で心の栄養になる気分なのよね。」

美樹が続けた。



「コンバットレーション?」

香が初めて聞く言葉に、疑問符を付ける。

「軍隊用の携帯保存食のことなの。

缶詰とか乾パンとか、レトルトの詰め合わせとか。

ろくな味じゃなかったわ。」

眉を寄せて話す美樹の表情から、本当に美味しくなさそうなことが伝わった。

「きっと、撩も、香君の食事を口にする度に、

美樹君と同じことをいつも感じているんじゃないかのう。」



戦場で生きて来た撩の食生活を垣間知り、

香はドキリとした。

綺麗に食べ終わった教授は、丁寧に手を合わせた。

「ごちそうさま。いい味じゃった。香君。」

「あ、ありがとうございます。あ、あのお茶煎れて来ますわ。」

席を立とうとした香だが、教授にやんわり止められた。

「いや、今日はわしが煎れるかのう。

食事の途中で席を立たせるのは忍びないしのう。ほっほっほ。」

と、空の食器を持って教授はキッチンへ向かった。



その姿を見送った後、美樹は香に視線を向けた。

「ねぇ、香さん、昨日も言ったけど、今度お料理教えてくれない?」

「そ、そんなっ!私が美樹さんや海坊主さんに教わりたいくらいなのに!」

香は、食事が喉につまりそうになりながら答えた。

「違うのよ。お店で出しているサンドイッチやパスタは、あくまでもよそ行き。

ただ、普段の毎日の食事は、香さんのところのような形も導入したいのよ。」

「あはは、うちは、大食いが1人いるから、質より量って感じで、

安くて、たっぷりで、美味しくて、と3拍子揃えば

何でもいいってスタイルだから…、あはは。」



正直、自分の作った普段着の食事で、教授と美樹がここまで、

プラス評価を語るとは思わなかった香は、

どう反応していいか分からず、もうしどろもどろでごまかしている。

「こっちも大食いがいるから似た条件よっ。だから、ね!」

その二人の大食いを思いながら、くすくすとお互いに笑った。



「いい顔じゃ。女性はやはり笑顔がいいのう。」

ちょうど教授がお盆にお茶を3人分乗せて持って来た。

「あまり上手な煎れ方ではないんじゃが、茶葉はいいはずじゃ。」

二人の前に湯飲みを差し出しながら、教授は言った。

「ありがとうございます。」

香は、いい茶葉と聞いて昨日のことを思い出した。

「あ、あの、昨日も、こ、こ、高価なワインをありがとうございました!」

「ほ、撩に聞いたのかい。」

にやっと笑みを浮かべて教授は返した。

「び、びっくりしました。あんなワインがあるなんて…。」

香は、クーパーの中で値段を聞いたときの緊張が甦る。

「ま、もらいもんじゃ。」

「私たちは、かなりラッキーですわ。ご相伴させてもらって。」

美樹も少し興奮気味。




「…いや、本当に幸運なのは、

あんたらと出会うことのできた、あの男共じゃろ。」

静かに緑茶をすすりながら、教授は穏やかにそう言った。



「教授…。」

香は、教授のその一言に目を開く。

「問題は、撩もファルコンも、自分たちは幸運だが、

お前さんたちを不幸にしたと思い込んでおる。

まったく、しようがない奴らじゃ。」



「ファルコンったら。まだそんなこと。」

美樹も呆れたように溜め息をついて、湯飲みに口をつけた。

「そうじゃないことを、ちゃんとしっかり伝えていきますわ。」

美樹は、毅然とした態度ではっきりと言った。



香は、一昨日、教授が自分に言っていた

『普通の女性が得られる幸せを奪ってしまった』というフレーズを思い出す。

もう少し教授が知っている撩のことを聞きたいと思ったが、

今はあえて尋ねるのをやめることにし、

黙ったままお茶を飲んだ。

「教授の煎れてくれたお茶、美味しいです。」

「ほほ、言ったじゃろ。茶葉だけはいいもんじゃからの。」

3人とも淡い笑い声を交差させながら、食事を終える。



「じゃあ、美樹さん。片付け終わったらお風呂に行きましょうか。」

「分かったわ。準備してくる。」

「ワシは、書斎でもう少しイタズラしみるかのう。」

3人ともそれぞれの方向に向かい、食卓を後にした。


*************************************************
(9)へつづく。





奥多摩から4回目の夕食です。
えーと、鶏モモ肉の照り焼きに、アジのマリネに、
パキスタンカレーに、肉野菜炒めと、
自分もそろそろ記憶が混乱。
献立表が欲しくなります。
とにもかくにも、
こいつらにはしっかり食事をしてもらわんとね。

スポンサーサイト
プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


9万hit記念に
とりあえず作ってみた
CH専用Twitter
 


拍手1000パチ記念につけちゃいました。



かなり便利なサーチツール

登録サイト最新情報はこちらをチェック!


試運転中…

カテゴリ
最新記事
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR
現在の閲覧者数: