08-02 Contraception (side Ryo)

第8部  Oi Wharf 

奥多摩から4日目


(2)Contraception (side Ryo) ***************************************************2866文字くらい



「……すまなかったな。お前に、言う前に…、中で出しちまった。」

俺は、香の髪を撫でながら謝罪を伝えた。

「……ううん、大丈夫。」

一瞬どこか躊躇う表情が見えたが、すっと息を吸って決心したように、

香は口を開いた。

「……ちゃんと、飲んでるから…。」

初めて香がピルを飲んでいることを自ら俺に吐露した。



さて、どうしようか。

前から知っていたと言うべきか、

今初めて知ったと芝居をするか。

考えているうちに、香からまた話し始めた。



「そ、それにね、教授からね…、教えてもらっていたの。」

「教授から?」

「あ、あの、きょ、教会でね、…傷を診てもらっている時に。」

ああ、あの時か。

「撩もあたしも、……何も、問題ないから、……安心しろって。」

「……そうか…。」



俺は目を閉じて香を抱きしめ直した。

自分の生活の日頃が日頃だし、過去も過去なので、

恐らく、何も知らないままだったら、

香に余計な心配や怯えを与えていたのかもしれない、と

今回ばかりは教授の計らいに感謝した。



「でも、おまぁが嫌だったら、ちゃんとゴム使うぞ。」

「ゴムって?」

がくっと脱力した。

この言葉から教えなきゃならんのかぁ?



「ああもうっ!避妊具のコンドームのこと!」

「ああ、それね…。高校の時に保健体育で習ったけど、

でもなんでゴムって言うの?」

香の素朴な質問に、

いかにこの女が色事に関して縁遠いものであったかを思い知る。



「基本成分が天然ゴムで出来ているせいだろ。

パッケージも輪ゴムが入っているように見えるし。」

「あたし、見たことないからわかんないけど、輪ゴムみたいなの?」

「気になるんだったら使ってみるか?」

片眉を上げて、半分冗談、半分本気で言ってみた。

「ぅぅ…。」

香は赤くなって口をつぐんだ。

「……りょ、撩は、……どっちが、ぃぃの?」

「へ?」

俺に質問を返すのか?

「そりゃ、何も隔てるもんがないほうがいいけどな。」

素直に答えてみる。

「じゃ、じゃあ、…使わなくても、いいよ。」

「お、おい。」

思わず身を起こした。



「ぁ、ぁたしも、……間に、なにもないほうが、ぃぃ…。」

お前の言葉は嬉しいが、

避妊を全面的に香に委ねる形に少なからず抵抗を感じる。

お前にばかり責任をなすりつけるようで、

胸にちくりとくる。



その一方で、今まで殆どナマでしたことがなかったところに、

最愛の相手と小道具なしで中に放出しまった快感は

はっきり言って捨て難い。

欲と責任がせめぎあう。



「…あのね、…今まで、ずっと黙っていたんだけど…、

実はね、…ピルを、…飲み始めてから、…もう3年くらい、たつの。」

香がまるで懺悔をするような面持ちで話し始めた。

「…きっかけは、生理痛だったんだけどね、

使うのを真剣に考えたのは、…結構前なの。」

香は目を伏せゆっくりと続けた。

「…冴子さんの依頼で、アスレチッククラブであたしが捕まった時に、

この仕事を続けるなら…、必要かもって思っていたの…。」



随分前の話しだ。

香は、あの時3人の男に危うく貞操を奪われるところだった。

俺が助けに来るのがあとわずかに遅かったら、

一体どうなっていたか、苦い過去の記憶に思い出すだけでも

ぞっと身震いがする。

きっと香もそれ以上の恐怖を感じていたに違いない。



「…実際に飲み始めたのは、

柏木さんのボディーガードの依頼の時からだったんだけどね。

…あたしが油断したせいで、ホテルに攫われたじゃない。」

男装した柏木圭子のことを思い出す。



あれも、初対面から女だって気付かない振りするの結構大変だったんだぞ。

アカデミー賞モンの演技に自画自賛だぜ。

水道管ぶち抜きの件がなけりゃ、

俺も終始圭子を男扱いするつもりだったんだが、

そうもいかなくなって、もっこりモードに切り替えたんだよなー。

あの時、初めて香に発信機のことを話したっけな。



「…アスレチッククラブの時は、…まだ身動きできて、反撃できたけど、

…あの時は、ベッドで雁字搦めだったから、…抵抗できないまま

襲われたらどうしようって考えちゃって…。」

ぎくりとする。

あの時、すぐに隣の部屋に入ったら、ちょうど圭子がロープをほどこうとしていた。

完全に自由を奪われていた香の姿を思い出し、

もしそれで、あの男が覆いかぶさっていたとしたらと、

リアルな想像が浮かび、一瞬血圧が下がる。



たまたま敵が、手を出さなかったから良かったようなものだ。

一刻でも早く居場所を特定するために、

発信機をチャッチできる最短ルートを割り出し、

間違いが起こる前にと、内心は大きく焦っていた当時を思い返す。



腕の中で、目を閉じながら静かに語る香が小さく儚く見えてしまった。

そっと肩を抱き寄せる。

「…あたしのような、…女か男かわかんないようなのに、

欲情するヤツなんていないだろうって、…思っていたけど、

悪い方ばかりに想像が膨らんじゃってね…。」

俺の胸に顔を埋めながら、香は続けた。



「……いくら、……男言葉使って乱暴な振る舞いしてても、

……体は女でしょ。

いつ、どんな間違いが起こるか、…分からないし、

もし、起きても、……望まない子ができないようにしなきゃ、

って思っていたところに、

かずえさんが、生理痛にピルが効くこともあるって

アドバイスくれたの。

性病がうつされる危険はピルでは避けられないけど…、

避妊の方がまずは重要だと思って…。」



少なからずショックを受けた。

ただの生理痛緩和のための服用かと思っていたら、

繰り返し連れ攫われる香の経験から、

自分なりに身を守るための策という意味合いをしっかり含んでいたのか…。

抵抗できないまま襲われる可能性を考えていたとは…。

胸が、握りつぶされそうだ…。



「そ、それにね、もし長期間拉致されても、ちゃんと飲めるように、

荷物とか靴とか服に、小分けで隠して持ち歩いてい…。」

俺は香の唇に人差し指を添えた。



「…もう、いいよ。それ以上話さなくていい…。」

こっそり香の荷物を確認して、初めてピルの服用を知ったのは、

たぶん柏木圭子の護衛から結構過ぎてからだったはず。

香も証拠を残さないように、

錠剤の飲み殻をダイレクトにゴミ箱に捨てることはしなかった。

飲む場所も時間も、きっと俺にバレないようにと、

かなり注意を払っていたんだろう。



ピルの存在を知ってから、香の動きに注意していたら、

かずえちゃんからこっそり処方されていることを確認し、

読唇術で体調管理のためにというやりとりも見ていた。

それを知るまでは、

まさか香が他の男と関係を持っているかもしれないという、

あらぬ疑いと困惑でどす黒い感情が渦巻き、どうしようもない気分だったが。



しかし、まさか、

拉致された時に起こりうる、望まぬ妊娠をしないための手段として

自分から防衛することを加味していたとは。

香の考えや行動が読めていなかった自分に嫌悪する。

んっとに、情けねぇな。



「……間違いは、絶対に起させない……。」



俺は香を強く抱き込んだ。

「もし、敵に連れ攫われても、奴らが手を出す前に、俺が必ず助け出す。」

強い口調がおのずと紡がれる。

「りょ…。」

「だから、俺を信じてちゃんと待ってろ。」

「……ぅん。」

小さく香は答えた。


*********************************************
(3)につづく。





ちょいと長いですが、関連考察をば。
拉致監禁を複数回経験している香が、
自分が犯される可能性のことを全く考えていなかった訳ではないと
思っています。
撩に隠れての自己防衛がこういう形で行動に移していても
おかしくはないかと、
かずえの協力を得て上記のような設定を作ってみました。

ちなみに、撩は初めっから柏木圭一が女であることを分かっていた設定にしておりますが、
これは、オカマボスの時も、ギャンブラーで出てきたベティーちゃんも、
撩は分かっていて、道化師を装っていたと思われます。
あいつが初対面で性別を見抜けないはずはないと思いますし、
ソ二アの時のように、
年齢を重ねても同一個体と識別できる能力があることは、
疑いの余地なし。

ましてや、
変装をした美樹やシンデレラの香が分からなかったワケないというのが、
当方の思い込み。
だから、原作中の(戦闘シーンとか以外の)撩のモノローグなんて、
あてにならんのよね〜。
まさに自分さえもごまかさないと照れくさいんじゃない?という
美樹の推察に賛成〜!

このあたり、撩の二重人格的なものの匂いが…。
ダークな生い立ちから、明るい道化師を演じ、
無意識に心のバランスを保っているとかね。
ミックの「でもすっげぇ〜スケベだったナ」の証言や、
海原氏の「相変わらず楽しい男だよ」と呟いていたセリフからも、
ゲリラ時代から陽気な性格の振る舞いをしていたことが伺えますが、
戦中戦後のPTSDってシャレにならんくらい影響大という話もあるので、
幼少時代から過酷な環境に置かれた撩なりの
防衛本能的な自身のキャラ創造ってのは、考え過ぎ?
このあたり、また本編でもちらっと触れる予定〜。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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