08-03 Hope (side Ryo)

第8部 Oi Wharf 

奥多摩から4日目


(3)Hope (side Ryo)*************************************************************3746文字くらい



「ところでさぁ〜、ちょぉ〜っとくらいは、

俺とこうなることを見越して飲んでいた訳じゃないのぉ?」



いきなり口調を変えて軽いノリで聞いてみた。

目的語は、もちろんピルのこと。

香は目を見開いて俺を見つめる。

すると細い柳眉が切なく八の字になった。

目を伏せ再び俺の胸に額をすり寄せ身を預ける。



「……み、見越して、なかった…。」

「はぁ?本当かよ?」

香はがばっと顔を上げた。

「ほ、ほんとよっ!だって、だって、撩はっ…。」

そこで止まってしまい、しばし沈黙が流れる。



「……だって、撩は…」

押し殺した香のか細い声。

「あの、…船であったことを、

……なかったことに、するのがいいような態度だったし…。」

初めて香から記憶があったことを打ち明ける揺れる声。

伏せられる瞳。



「……あたしを完全に女として見てないんだって、思ってた、から。」



つきんとまた胸に痛みが走る。



「仕事上のパートナーとして、それ以下でも、それ以上でもないって、

ずっと自分に言い聞かせて、た…。」



さらに香の声が小さくなる。



「……撩とこうなるなんて、……絶対あり得ないだろうって思っていたから、

……あんたは、……そんな関係を、望んでいないって、

……思っていたから、

……本当に、……撩とのことを、…考えて、飲んでいた訳じゃ、ないの…。」



俺は盛大に溜め息をついた。



「な、なによっ!撩よりも、

どっかのチンピラにバージン奪われる可能性のほうが

よっぽど高いって思っていたから、ちゃんと身を守らな…っ。」

俺は唇で香の口を塞いだ。

聞くのが辛い。

自分から聞いたのが大馬鹿だった。

「んん…。」

香が言おうとしたことを吸い取るかのように、深いキスをした。

香の体が小さく震える。

じっくり温度をあげてから、

ちゅっと音を立てて、そっと唇を離した。




「……お前、ピル飲んでることバレないように、相当努力してただろ。」

「!!っ……し、知ってたんだっ。」

茹で上がった顔のまま素で驚く香。

「んー、気付いたのは少し後だったがな。」

視線が泳ぎ、伏せ目になった香は小さく続けた。

「た、確かに必死に隠していたけど…、

りょ、撩に、その、き、き、期待してるって、

思われるのがイヤだったから、

だ、だから、も、もうこっそり飲むのが、しゅ、習慣になってた、し…。」

はぁと香は深く溜め息をつく。



「ほ、ほんと、かずえさんの言う通りだわ…。」

「なんだよ。」

「あんたが、とっくに知っていたってこと。」

「そりゃな。」

「……じゃあ、……も、もしかして、

一昨日も、そ、その、………ピルなしでも、大丈夫、だった、のは、…わ、分かって、た?」

「もっちろん。」

俺の速答に、香が更にかぁーと朱に染まる。

ちょっと直球で言い過ぎたか。

「香ちゃんの女の子の日は、匂いが微妙に違うから、

大体リズムが分かっちゃってるの、ぼくちゃん。」

香は、増々全身を赤くした。



俺は、香の髪の毛を梳きながら、抱き込み直し、

初めての時に考えていたことを、今伝えることにした。

避妊具なしで身を繋ごうとしたとき、

もし命を授かったら、

それを受け入れる覚悟を持っていたことを。



俺の血なんて、残す必要は全くない。

命のバトンなんて、己で途切れてしまえばいい。

女を孕ませるなんて、もっての他。

数多(あまた)の命を奪い去ってきた自分にそんな資格なんぞ

持つことも考えることも許されるはずがない。



そう考えていたことが、

見事に逆転し、

香となら全てを受け入れられると、あの瞬間思考の大改革が起こった。



多分に、この2、3年未成年のチビたちが、

自分たちの生活空間に出入りしていたことも、

自覚していなかった父性本能なんぞを引っ張りだしていたのかもしれない。



香となら『そういう未来』も悪くはない。

あの時、本気でそう思ったのは間違いない。



俺は、すっと息を一息吸って、ゆっくり口を開いた。

「あのな、香、……もし、……お前が望むんであれば、

……ピルを飲むのをやめてもいいんだぞ。」

はっと香が顔を上げる。

「りょ…。」

抱きしめる腕に力を込めた。




あ〜あ、言っちまったぁ〜。

自分の甘甘なセリフに、耳が熱くなるのが分かる。

香と目を合わせられず、胸にわざと抱き込んだ。

って、胸がどんどん濡れて来るじゃねぇーか!

そんなに泣くなよぉ、香ぃ〜。



「…………め、……なこ、と。……出来ない。」

「か、香?」

嗚咽と共に小さく答える香。

細かく肩が震えている。



「……もう、……あたしの、中では、……ずっと前に、

……決着が、ついているの。

その話し、は、……望む、べきものでは、…ない、って…。」

顔を伏せたまま、涙声で途切れ途切れに単語が繫がる。



なぜと、聞きたかった。

しかし、返って来る言葉は、容易に想像がついた。

また、自分が足手纏いだと言い、自分さえも守れないのに、

更に守るべきものが増えたら、俺が傷つくと。

パートナーとしていられなくなるとも思っていたかもしれない。

香は、とっくの昔に、それを悟り、完全に望みを捨てていたのだ。

俺のパートナーであり続けるがための、一つの犠牲として。



真柴由香里の時以降、

香が折々に小さな子供や同年代の親子連れを見ては、

沸き上がる羨望を抑え、切ない表情をしていたのを知っている。



女性としての権利を捨てさせていたのは、俺自身。

俺は…、一体どれほどの、権利や希望を香から奪っているのか…。

もう捨てさせたくはない。

お前の人生を背負う覚悟はもう出来ているんだ。

だから…、

もう捨てなくてもいいから。



「……香、……お前が望む未来を、…諦める必要はない。」



暫しの沈黙の後に、俺が零したセリフで

香が少し震えながらゆっくり顔を上げた。

真剣な表情と目でじっと見つめる。



「りょ…。」



困惑の表情をした香は、目元が涙でぐちゃぐちゃになっていた。

香の頬を左手で包み、人差し指の背で涙を拭う。

そっと瞼に唇を寄せると、香は大人しく目を閉じた。



俺の覚悟を、ちゃんと受け止めてくれ。

香の体がやや強張る。

「時期が来たら、また考えればいいさ。」

「りょ…。」

そっと開いた瞼。

視線が絡む。



香の体が今度はふるふると小刻みに震え始めた。

大きな瞳から、ぼろぼろとこぼれ落ちる大粒の涙。

もったいなくて、優しく吸い取っていく。

その温かい滴が持つ塩分でさえも愛おしい。



「ヒック、りょ…、ヒック、…、ヒック。」



たぶん、気配からすると、悲しみの涙ではないはずだ。

声を殺した鳴き声が、嗚咽がしばらく続く。

たぶんに、相当苦しい決心をしていたんだろう。



「あー、でもガキは、も少し後がいいなぁー。」

ちょっとだけ軽い口調で言ってみる。

「え?」

「生まれたら、おまぁ付きっきりになるだろ?

ボクちゃんほったらかしにされるかもしんないしぃ〜。」

額に口づけを落とす。

「だ〜か〜ら〜、しばらくは、俺たちだけで楽しみたいな〜っと」

「………ば、か。」

ぐずっと、鼻をすすりながら、香が微笑んだ。

「今更だろ?」

「……んとうに、…ば、か、なんだ、から…。」



こんな危険な世界に生きる闇を背負った男にとって、

家族を持つこと自体が、自らのリスクを大きく増幅させる、

そんなことは、もちろん承知済みだ。

普通だったら、そんな甘ったれた愚かしいことは選ばないだろう。

考えうるありとあらゆるリスクを跳ね返す自信がなければ、

香にこんなことは言えない。



ただ、香と共に生きていくことを決心してから、

内的な精神面の強さと、

物理的かつ本能的なエネルギーが高まっている自覚がある。

半端な関係だった頃とは比べ物にならないくらいのそれは、

自分でも想定外の変化だ。

あの湖畔で告げたことに偽りはない。

何が何でも生き抜いて、お前の未来を守り通す。

だから、安心して俺の傍に居て欲しい。



俺は深く香を抱き直した。

「りょ…、まだ、…言って、なかった……。」

「ん?何を?」

「お、はよ。」

涙でくしゃくしゃになった香の微笑みを見ながら、

ミラー効果で、俺も薄く笑った。

「おはよう。香ちゃん。」

ぎゅっと抱き込む。

細い体から水蒸気が上がる。



「……腹へってないか?」

「え?」

「もう、昼前なんだけど。」

「う、うそっ!」

「嘘じゃねえって。」

「はぁ〜、どうしてぇ?」

「何が?」

「……ここで、寝ると、…ちゃんと、…起きれない…。」

がっくりと力を落とす香。

「いいんじゃない?」

「だ、だ、だめよっ!あたしは、朝起きてから、

料理とか、ゴミ捨てとか、掃除とか、洗濯とか、伝言板とか、

色々することがあるのにっ!」

抱き込まれたまま、真顔で抗議する姿がまた可愛らしくて。




「そんなのは、俺がしておくって。」

「え?」

「だから、気にしないで、目が覚めるまでゆっくり休め。」

「りょ…。」

「で、もう起きるか?」

「……な、なんか、やっぱり、

あんたが、あたしにそんなセリフ吐くなんて、なんか、…気持ち悪い。」

「あぁ?」

「……やっぱり、当分、…かかりそう。…慣れるのに。」



俺は、くすりと笑って、上半身を起し、

右手で香の頭部をくしゃっとした。

「先にシャワー浴びてこいよ。その間に、メシ作っとくから。」

「撩…。」

俺はベッドから足を降ろすと、トランクスだけ履いて、立ち上がった。

背中に視線を感じる。

自分のシャツとズボンを引っ張り出し、さっさと着込んだ。



ふと思い立って、ベッドの周りの香の服を回収して、

横になっている香の横にぱさりと置く。

「トーストでいいよな。」

ベッドサイドに右手をかけ、身をかがめ、左手で香の右頬を包み、

軽く唇に触れた。



すぐ赤くなる反応は、なんとなく暫く続いて欲しいと思ってしまう。

こんなことをしている俺の姿は、昔の俺からは全くのイメージ外。

一体誰だコレと言いたくなる。



「おまぁも、早く降りてこいよ。」

湯気を出している香からそっと離れて、

先に部屋を後にした。


***************************************
(4)につづく。





うわー、撩が甘甘ですぅ〜。
「時期がきたら、また考えればいいさ。」のところは、
カラス越しのキスをする直前の見つめ合う二人の
表情で代用して下さいませ〜。


【ちょいと長いですが撩と香の子供の有無について語っちゃいます】

実際、現在子育て中の自分を振り返ると、
あまりにも、社会的にかかわる部分が多くなり、
あんな生き方を選んだ2人が子供を持つことは
以前は前向きにイメージできなかったのですが…。

一線越えたら、この事案を無視することは出来ないでしょうし、
撩自身も責任や覚悟を決意しての行動だと想定すると、
香となら全てを受け入れられるというコアも持っていてもおかしくないかと。

さらに、
実生活で娘さんを持つ北条さんのことや、
AHで娘を持つ撩の姿、
これまでにCHで登場した子どもたちと撩のやりとり、
美樹の「いいなぁ…ね ファルコン わたしたちもこういう子がほしいわね」(第216話)と
するりと出た子を持つことに肯定的な発言、
香自身が子供好きであることを撩が分かっていることなどを総合的に見返すと、
香が30歳になる前までに、
この2人の気持ちが、
自分たちの愛の結晶を作りたいという心理になっても、
また家族を作りたい、増やしたいという気分になっても、
不思議ではないと感じるようになりました。

ワタクシの中では、原作終了時(1991年11月)の2人の年齢は、
香26歳、撩32歳、もうすぐ27と33。
(とりあえず、香プロデュース採用で撩と北条さんの年齢は
 リンクしているという設定ですが。←訂正しました:25と31で書いてましたが26と32で)
その後3、4年くらい2人でいちゃついていれば、
そろそろどうする?と考えてもいいのかもと思います。
その間に美樹やかずえが出産するかもしれないしぃ。

最大の敵とも言えるユニオンも再活の恐れが限りなく低い背景も加味し、
教授のサポートの存在もあれば、
躊躇いに繋がる要素はかなり小さくなってくるはず、と。
仕事が入っても教授宅に、キャッツに、ミックのところにと
お互い託児ができるでしょうし〜。

子供ができれば、
当然お父さんはどんなことをしている人なの?
と家族内でも外部からでもその疑問は降り注ぐ訳で、
まぁ、これまで通り「ビルの管理人」でもいいでしょうし、
ビラ配りで既に発信している「よろずや探偵業」兼業でもいいでしょうし、
戸籍上は撩が記載されなくても、
法律上は「槇村○○ちゃん」もしくは「槇村○○くん」でどうにでもなるでしょうし、
芹霞さんの「フランス婚」的親子の位置づけ採用ならば、
全く問題なさそうだし、
戸籍復活が法律上可能でも、
撩はそれを選ばないだろうしぃ、と
こちらも妄想をしていくにつれ、
子持ちキャラへの移行に箍が外れてしまいました。

そして何かきっかけさえ出てくれば、
「撩、あ、あの、ね…」とかわいく子供を欲しがる香に
撩ちゃんはノックアウトではなかろうかと。
きっと必要以上に頑張りそうですが〜。

個人的には、すでにかずえと美樹が母親になっているところに、
たまに、2人の子供を預かったりして、疑似体験しちゃってから、
神宮寺遥ちゃんあたりに再登場してもらって、
彼女が結婚し、かわいい赤ちゃんを世話している姿が、
話題のきっかけとなり、
子作りの起爆剤になったら面白いかも〜と。

ただね、ケニーとソニアの一件が撩にとって
けっこうトラウマ的なんじゃないかと。
せっかく幸せな父親と可愛い娘の姿を目の当たりにし、
同業者のケニーが家族を思う愛と、
家族を持つからこそ得られる強さを
この時少なからず感じていたと思いますが、
結果、その親子を引き裂くことになってしまったので、
大事なものは作るべきではないと、
更に心を固める事案であったかもしれません。
この経験を前向きに受け止めるのは、
かーなり苦しそうです。
しかし、もし同じようなことに撩が巻き込まれたとしても、
きっと最善の選択肢で無事解決できるスキルはあるはずと
踏んでいます。
そーゆーことが複数回発生しても、
それを乗り切れる精神力もきっとこの2人には育っていると思いますがのう。

長くなりました〜。
こーゆー妄想が楽しくって〜。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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