08-05 Sunny-Side Up (side Kaori)

第8部 Oi Wharf 

奥多摩から4日目


(5)Sunny-Side Up (side Kaori) **************************************************2528文字くらい



廊下にベーコンの焼ける香りが漂う。

「撩…。」

キッチンの戸を開けて声をかけた。

「おう、もう出来るから座ってろ。」

「あ、手伝うわ。」

撩のそばに行くと、言葉通り完成直前。

「もう、皿に移すだけだから。」

じゅーという音と共に、

厚切りベーコンをたっぷり使った目玉焼きが

ソーサーにするりと移動した。

「さて、食うか。」

フライパンをガスレンジに戻し、

グラスを2つテーブルに置いた。

「あ、あたしが注(つ)ぐわ。」

冷えた軟水のミネラルウォーターが出されていたので、

それぞれに注(そそ)いだ。

いつもの食卓が整う。



「あー、腹減った!いっただきまーす!」

撩は、さっそく自作の主食にフォークを伸ばし、

器用に卵とベーコンを一緒に刺して口に運んだ。

「そ、そんなに卵食べるの?」

6個は目玉がある。

「朝昼兼用だからな。おまぁ2つで足りんのか?」

「ん、充分。ありがと…。」

ちょっと沈み気味で返事をしてしまった。

「ごめんね、あたしが用意しなきゃいけないのに…。」



目の前には、

たっぷりのサラダとフルーツ、ヨーグルトまで用意され、

食パンとバケットもすでにトーストされている。

短い時間でセッティングされた

まるでホテルの朝食のような配膳に、

撩が、自分以上に料理ができることを、

改めて思い知らされる。



「気にすんなって。」

口一杯に、レタスやら、キュウリやらを詰め込んで

もぐもぐしながら撩は答えた。

「起きれないようにしっちゃってるのは、

ボクちゃんのせいだしぃ〜。」

4個目の目玉焼きを突っ込みながら、

にやりとした顔であたしを見る。

ぼっと顔が朱に染まった。

「冷めちまうぞ、早く食べろよ。」

「はぁ〜、やっぱ慣れない…。」

あたしは、左手で左右のこめかみを押さえた。



「…い、いただきます。」

ふぅーと息を吐き出して

ぷすっとベーコンと白身をフォークで掬い取った。

ぱくっと口に放る。

絶妙な加熱加減に程よい塩味とコショウの刺激。

卵の旨味が口に広がる。

「…おいしい。

……撩ってさ、普段はちゃらんぽらんのくせに、

何やっても器用にできるのよね…。」

「褒めてんの?けなしてんの?」

あたしはトーストに卵とベーコンを乗っけながらちらっと撩の方を見た。

「……両方。」



そう言いながら、

複雑な気分を隠すように涼しい顔をして、

即席ベーコンエッグサンドをぱくっとかぶりついた。

撩の作ってくれた食事を普段の生活で味わえるなんて。

これって、かなり贅沢なことよね。

もぐもぐしながら思いを巡らす。



「……うん、悔しいくらい美味しい。」

「使っている食材は、

いつもおまぁが作っているもんと変わらんぞ。」

「……でも、あたしが作るのより美味しい…。」

撩は、左手で頬杖をついてふっと笑った。



「……人が作ったもんってだけで相乗効果で旨く感じるもんさ。

まぁ、テクニックもちったぁ入っているかもしれんがな。」

「……火加減とか、切り方とか?」

「そっ。」

「……やっぱり悔しい…。」

いじわるそうな顔でニヤニヤしている撩をじろっと睨んで、

お互い、ふっと笑った。



「おまぁ、今日はちゃんと動けそうだな。」

「え?」

「この前はかぁーなり辛そうだったからなぁ。」

「そ、そ、そんなことはな…。」

「バレてないと思ってんのぉ?」

あたしが言い終わる前に、そう言った撩は

サラダを口に突っ込みながら、にやついて

ちろりとこっちを見る。

「…ぅ。」

はぁ、撩に隠し事なんて無理なのよね。



食べ終わった撩は、

くすりと笑いながら、のっそりと立ち上がった。

「ごっそんさん。俺、洗濯もん見てくるわ。」

シンクに食器を運びながら、撩はそう言った。

「あ、あ、もう仕上がってるかも。あ、あたしがやるわ。」

「いーの、おまぁはゆっくりメシ食ってろ。」

撩は、片手をひらひらさせながら、

キッチンを出て行った。



は、は、は…、ち、違い過ぎる。

あいつが、食器をちゃんと自分で運ぶなんてっ!

今まで話していた相手は、本当に撩なんだろうかと、

あるいは撩が私を

他の別人と取り違えているのではないかと

まだ思ってしまう程に、

今までとは違い過ぎるやり取りに、

まだ困惑が続く。



かと言って、

あの曖昧な関係に戻りたいのかというと、

決してそうではない。

後戻りなんて、望む訳がない。

だけど、この激変に、

自分の身も心もついていっていない。



「……まだ、たった4日よ……。

ずっと一緒に居るって心に決めたんでしょ…。

焦らなくても、いいじゃない、の、かな?。」



サラダの具をフォークにプスプスと重ねながら、

この先の長さと、

ケジメをつけてからの短い時間を振り返る。

無理に慣らすことはないだろうけど、

いちいち心臓への負担が大きく、

いろんな意味で身が持ちそうにない。



でも、……『ずっと』って言っても、

いつ終わりが訪れるか分からない。

明日かもしれないし、

数ヶ月後かもしれないし、

数年後かもしれないし、

数十年後かもしれないし。

常にその覚悟を持って生きて行くことを思えば、

恥ずかしいとか、照れくさいとか、慣れないとか、

言っている場合じゃないのも、……分かるんだけど……。



「でも、やっぱり慣れないのよぉぉぉ〜。」



あたしは、フォークを持ったまま、

両手で顔を覆ってしまった。

耳から頭皮からしゅうしゅうと湯気が出る。

あれだけ、男女だとか、唯一もっこりしないとか

散々言われ続けていたのに、

この変貌振りは一体なんなのよぉ。



「い、嫌な訳じゃ、ない、んだけど、ね…。」

指の隙間から食べかけの食事が目に入る。

「うー、とにかく早く食べて台所片付けよう!」

あたしは、作ってくれた撩に感謝しながらも、

大急ぎで残りをかき込んだ。



「ご、ごちそうさま!」

がたっと席を立ち、

食器や調理器具やらを素早く洗い、

コーヒーの準備に取りかかった。

ミルを回しながら、今晩の動きにも思いを巡らす。

「とにかく無事に終わって欲しい。」

無意識に出た声。

ヤカンが鳴き、はっと我に返る。



自分の想いに気付いてから、ずっと思っていたこと。

好きな人のために、しかも初恋の相手に、

こうしてコーヒーを煎れることが、どんなに幸運なことか、

今でもその想いでお湯を注ぐ。



「撩…。」

焙煎の香りが漂う。

「あたし、幸運すぎるわ。」

揺れるカップの黒い水面を見つめながら、

あたしはコーヒーをリビングに持って行くことにした。


*********************************************
(6)へつづく。





撩ちゃん2回目の手料理です。
「ハウルの動く城」の目玉焼きを重ねて下さいませ〜。
いつか訪れる終わり、とーぶん先であって欲しいですが、
ケシさんもおっしゃっている通り、
なんだかんだ言いながら天寿をまっとうしちゃうかも〜。


【誤植発見感謝!】
「ソサー」⇒「ソーサー」に直しました!
mさん、ご連絡ありがとうございました!
2016.02.07.04:08

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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