08-06 Slumber

第8部 Oi Wharf 

奥多摩から4日目


(6) Slumber *********************************************************************3016文字くらい




ガチャ!

「うわ!」

「きゃあ!」



リビングの扉を開けたとたんに、

撩の持っていた空の洗濯カゴと

香の持っていたコーヒーを乗せたトレーが接触する。

反射的に右手の指3本で撩はトレーを支えた。

「ほぉー、セーフ。おま、まさかコーヒー持っているとは思わなかったぜ。」



撩は向かう扉越しに、香の気配を感じていたものの、

開けて驚かしてやろうかという悪戯心が先走っていたので、

何かを持っている可能性があるかは思慮していなかったのだ。



「あー、驚いたぁ。コーヒーの海を作っちゃうところだったわ。」

「そりゃ勘弁なだ。」

「も、もう干し終わっちゃったの?」

「おぅ、カゴ置いてくるわ。」

「は、早っ…。」

ベランダを見て驚いた。

(どんなスピードで干したのよ。)



カシャリと、ガラステーブルにトレーを置いて、窓際に向かう。

今日の夜、戦闘態勢になるというのに、

穏やかな風に揺られる洗濯物が大きなギャップを感じさせる。

窓の桟(さん)に右手を添えて、街並を眺め、これからのことを考える。

今は1時台。

夕方4時頃には家を出て、教授宅へ向かわなければならない。

3時間はフリータイム。



「掃除って気分には、なれないわね…。」

香がそう呟いたところで、撩がリビングに戻ってきた。

「この天気ならすぐに乾くだろ。」

コンと撩の右肘が窓枠に当たる音が頭の上から聞こえた。

そっと視線を後ろに流すと、

緩く丸めた右手をこめかみに当てて寄り掛かり、

左手はズボンのポケットに入れ、

香の真後ろに立つ撩がいた。

近さに、かぁと顔が赤くなる。



「あ、ありがとね。助かったわ。」

「たまには、って言っただろ。」

くしゃりと頭に手を乗せる。

「さ、飲もうぜ。一休みだ。」

「うん。」



撩はソファーの短辺にどさっと腰を降ろした。

香は、長辺側に行こうかとガラステーブルをまわろうとしたが、

つま先の方向を変えたとたんに、手首を引っ張られた。

「おまぁは、こっち!」

「うわっ。」

撩の左隣にどさっと座らされた香は、その近さにまた赤面する。

撩は左手で香の肩を抱き寄せたまま、右手でコーヒーカップを口に運んだ。

ブラックの苦みが心地良い。

香は、視界の端に映る撩の左手の指が気になって、カチコチになっている。



「おまぁ、カップ持てないようだったら、口移しで飲ませてやろーか。」

悪戯顔でにやつきながらの視線を送る撩。

「はぁ?ばっ、な、な、なにを、と、突然っ!」

赤い顔のまま舌を噛みそうになりながら言葉を返す。

慌てて自分のコーヒーを持ってすする香は、流し込む場所を間違えて、激しくむせ始めた。

「ゴホッ、ゴボッ」

「おいおい、落ち着けったら。」

撩は苦笑しながら,左手で背中をさすってやった。

「ぅぅぅ…。」

この初心な反応がいつまで楽しめるのか、関係が変わった今、

ますますその動き一つ一つが愛おしくてしょうがない気分だ。



「あんた、絶対、か、からかって面白がっているでしょ…。」

コーヒーカップを両手で持ったまま、

前屈みの姿勢から、ちょっと潤んだ怒り目で、撩をきっと軽く睨む香。

その目は反則だろ、と自分の動揺を隠しながら、ポーカーフェイスで返事をする撩。

「わかるぅ?カオリンの反応がとーっても楽し…ぎゃっ!」

言い終わる前に、ミニハンマーが左頬にヒットした。



「もうっ!」

香は頬を染めたままお怒りモードで、残りのコーヒーをすすり始めた。

撩はその様子を見ながら、ふっと微笑んで、また香の肩を抱き直し、

目を伏せながらコーヒーを空にした。



香も飲み終わり、視界の左端に見える撩の指が気になりながらも、

そっとカップをテーブルに戻す。

撩は、右肘をソファーの縁にひっかけ、左手の指を香の髪にゆっくりと絡ませた。



「……お前に、今晩のことを、説明しておく。」

一瞬、香の肩がピクリと動いた。

「……うん。」




「前も話した通り、

埠頭でコンテナが船に積み込まれるのを邪魔するのが仕事だ。」

撩の指が香のくせっ毛をくるくると弄ぶ。

「たぶん、中身は偽札と銃器。

これが運べるかどうかで、国の軍事力を左右すると思い込んでいる。」

「思い込む?」

「そっ。実際には役立つか怪しいシロモンだからな。だが奴らは必死だ。」

撩はそのまま左腕で自分に香を引き寄せた。

「積み荷を守るために、雑魚共がうじゃうじゃ集るらしい。」

「……。」

香の身が少し硬くなった。



「かなり鬱陶しそうだが、そのために夕べ、埠頭にタコとイタズラをしてきたから、

仕事は楽に出来そうだ。」

「警察は動かないの?」

「冴子には、事が収まるまで待機するように言ってある。

サツだけじゃ阻止は出来ないよ。」

撩は人数の多さから、密輸しようとしているブツの押収は、公僕では無理と判断した。

「下手なタイミングで警察が動くと、銃撃戦で犠牲者がでるだろうし、

コンテナの中身を使える状態で押収されたら、またそれを狙って、次の襲撃が起こる。

だから、海に沈めて使用不可にするのさ。」

作戦を詳しく語る撩を、香は切なげに眉を寄せて見上げた。



「……ついていっちゃダメなんだよね…。」

「言っただろ?

おまぁは、美樹ちゃんが不安がらないように、そばにいてやることが役目だ。

美樹ちゃんも自分のケガを押してでも、タコと一緒に行きたいと思っているはずだ。」



美樹も香も同じ気持ちでいることは、ファルコンも撩もちゃんと分かっている。

だからこそ、教授宅で待機することを素直に選ばせる方が難しいことも理解している。

「さっさと済ませて戻ってくるから、大人しくみんなで待っとけ。」

「ん…。」



香は話しを聞きながら、今のこの状況が、

あの海原戦の前夜に二人で話していた空気と似ていることを思い出した。

「日付が変わる頃には、みーんな片付いているはずだ。」

撩は、香を抱きかかえながら、頭をコーナー側にしてソファーにごろんと仰向けに転がった。

常備してあるクッションが枕になる。

「ひゃああ!」

「んー、いー抱き心地♡」



自分の両脚で香の脚も挟み込む。

「っちょ、ちょっと!人を抱き枕かなんかと一緒にしないでよっ!」

かっかとしながら、自分の上でジタバタする香をやんわりと締め、

重さと感触と匂いを楽しむ。

「ボクちゃん専用の抱き枕だもんね。」

「ぅぅー。」



しばらくジタバタしていたが、

逃げられないと諦めた香は暴れるのをやめて、

大人しく体重を預けることにした。



今までのことを思うと、

撩と自分がここでこんなことをしているなんて、

心底信じられない。

初めての体勢に、自分の心臓が暴れている。

同時に撩の規則正しい心音が右頬から伝わって来て、さらにドキリとする。

恥ずかしさもあるが、それ以上に心地いい。



香は目を閉じたまま、ゆっくりと体の力を抜いた。

握りしめていた指も、そっと開き撩の胸板にぺたりと広げる。

Tシャツの布越しに熱を感じ、またぽっと赤くなる。

すると、わずかに撩の体が揺れた。

撩は、左指を香の後頭部に埋め、右腕はその細い腰に回して、

静かに瞼を降ろした。



「……ぁったかぃ…。」



香が小さく呟く。

その声に、このまま夜まで離したくない、このままでいたいと、

撩は抱き込み直し、腕に少し力を入れた。



「……ねぇ、この後どうするの?」

「ん?」

「武器の準備とか、……しなくていいの?」

「大丈夫だ。昨日のうちに必要なもんは全部用意してあるよ。」

「そっか…。」

「洗濯もん乾くまで、お昼寝タイムだ…。」

「……そ、…だね…。」



ずっと、こんな時間が続けばいいのに。

口には出さずとも、同じことを思いながら、午後の陽だまりの中で、

二人はまどろむことにした。


********************************************
(7)につづく。





ソファーでのお昼寝シーン。
マリーちゃん来日時の「リョウが育ったところは日本じゃないのよ」の
リビングのコマを無理矢理強制修正して下さいませ〜。
えーと、タバコは削除、手足はカオリンにからめて、穏やかに目を
閉じてもらいましょう!
うう、自分で挿絵を描けんのがぐやしいぃ〜。
いや、子育て4コマまんがなんかは、
たまに描いていますけどね。
北条さんのあの時代のあのタッチは、
プロのアニメーターでも再現困難。
まだ手を出す勇気は持ち合わせておりませぬ〜。
ああ、脳内イメージをそのまま画像にできるソフトが欲しい!

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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