08-07 I'd Like To Kiss

第8部 Oi Wharf 

奥多摩から4日目


(7)I′d Like To Kiss  ***********************************************************1951文字くらい



「……ん。」

身じろぎながら、香は目を開けた。

「目ぇ覚めたか。」

はっと細い体が揺れた。

「い、今何時っ?」

上半身を起したとたん、香の視界に撩のドアップが飛び込んできて、

ぼぼっと血液が顔面に集る。



「え?あ?な、な、なんで?」

寝起きの香は、若干混乱気味。

「今、4時前。」

涼しい顔をして、そう言った撩。

時間を聞いて我に返った香は、なんとか時間軸を思い出した。



「あ、あ、も、もう出かける準備しなきゃっ!」

「まぁ、待てよ。」

撩は、慌てる香を抱き寄せて、耳朶に唇を寄せた。

「うひゃあっ!」

「教授んとこ行く前に、一発どう?20分もあれば…っぐえ!!」

さらにボボッと朱色を重ねた香は、恥じらいハンマー100tを出現させた。

「おのれは、明るいうちから何考えとんのじゃっ!」

リビングが揺れる震動と共に、カエルが潰れたような悲鳴が重なる。

「ま、まったくもうっ!」



香は赤くなりながら、足早にベランダに向かった。

「は、早くたたんで、準備しなきゃ!」

大急ぎで干されていたものを回収し、窓際の床でテキパキと衣類をたたむ香。

「よ、よかった。ちゃんと乾いている。」

その気配を感じながら、ソファーとハンマーの間でまだ痙攣している撩。

「ちょっと、撩!いつまでも挟まっていないで、出かける準備しちゃって!」



「し、しどい…、かおりしゃん。こ、この一発ぢゃなくて……。」

ハンマーをごろんとずらして脱出した時には、

香は洗濯物をかかえてリビングを出るところだった。



脱衣所でフェイスタオルとバスタオルを指定席に置きながら、

香は予定を思い描いた。

「えーと、駅に寄って伝言板も見なきゃね。買い物はしなくても大丈夫のはずっと。」



7階に撩の服を運びながら、一つ思い出した。

「あ!そうだ!あれ使えるかしら。」

撩の部屋で服をしまうと、香は自室に駆け込んだ。

「あった。おもちゃレベルかもしれないけど、

教授がくれたものだから、使えなくはないよね。」

ドレッサーの引き出しを開けた香は、

金属性の細長いものを2本手にしてショルダーバッグの中にしまい込んだ。



自分の衣類も片付けた後、

戸締まりをしながら、撩を呼ぶ。

「りょー!準備できたぁ?」

「あいよー。」

トイレから水の流れる音と同時に声が聞こえた。

香はキッチンに寄って、イスにかけてあった上着に袖を通して、

コップに少しの水をつぎ、軽く喉を潤した。

「さ、早く行かなきゃ。かずえさんが待ってるわ。」



廊下に出ると、撩がジャケットを羽織りながら近づいて来た。

ホルスターに入っているパイソンがちらりと見えて、

相棒もちゃんと撩の胸に収まっていることを知り、香はおのずと安心する。

「特に持って行くものはないわよね。戸締まりもしたし。」



先に玄関まで来た香が、ふと振り向くといきなり視界が暗くなった。

「みんなんところじゃ気軽に出来ないからな…。」

至近距離で聞こえたそのセリフを頭が理解するまえに、

口を塞がれてしまう。



「ふっ、んんんっ!」



突然深く抱き込まれて、湿度の高い口づけを受けた香は、

再び混乱に陥った。

この出かける前の慌ただしいときに何をやっているのかと、

思わず撩の胸板を押し返し、ハンマーを出そうとしたが、

撩の温度を感じつつ、頭の片隅で冷静になる部分が生じて来た。

これから危険な仕事に赴く撩を思うと、

無事に戻ってきて欲しいという切なる願いが込み上げてくる。



香は、しばし躊躇いながらも、

初めて自分からも求めるようなキスを返してしまった。

それに気付いた撩は、一瞬動きが止まったが、

香の後ろ頭をしっかりと固定して、しばしその甘い口腔を味わい続けた。

狭い玄関に、お互いが接している部分から水音と吐息が漏れる。



「……も、…でなきゃ…。」



か細い香の声で、お互い飛びそうになった気分から引き戻された。

「だな…。」

撩も唇を合わせたまま答える。

「で、伝言板確認してから、教授のとこに行こ…。」

撩の胸をそっと押して、やんわりと離れる香。

顔を真っ赤にしたまま、小さな声でなんとか喋る。

かなり離れ難い思いが渦巻くが、時間がないことはお互い承知済み。

致し方なく撩も同意する。

「ああ。」



玄関を出ると撩はその形のいい細い肩を優しく抱いて、二人は駐車場まで降りて行った。

クーパーに乗り込むと、香は照れをごまかすように、シートベルトをしながら言った。

「こ、今夜は何時に戻ってこれるかしら、ね?」

「さぁてね、雑魚さんたちの力量次第かな。」

エンジン音が駐車場に響き、タイヤが鳴った。

「帰ったら、……覚悟しとけよ。香ちゃん!」

「へ?」

顔は正面のまま、にんまりと助手席に視線を送ってくる撩に、

香はぞわぞわっと背中に何かが走った。



撩はくすりと笑い、アクセルを踏む。

「じゃ、駅に行くぞ。」

クーパーは、勢いよく幹線道路を進んで行った。


*************************************
(8)につづく。





えー、えー、もう新婚カップル状態のお2人でございますぅ〜。
そうそう、冴羽アパートの玄関ね、たぶん彼らの居住空間に繋がる
玄関のある階は5階じゃなかろうか。
だから、海原父ちゃんがやってきた時、
カオリンの「あの足で6階まで?」というのは、
たぶん5階の間違いかもと。
玄関に入ってすぐに、登り口の階段があり、
そこが6階の吹き抜けに繋がる間取りだと思いまっせ。
サリナちゃん&アルマ女王が来た時には、
すでにその設計になっていたような。
それより以前は、あの玄関に通じる階段は描かれていなかったかもかも〜。

【お詫び】
2回連続、「もくじ」へのリンクが滞り、大変失礼致しました〜。
宿泊客対応&後片付け&天然記念物関係の対応で、
ばたばたしておりましたぁ〜。
更新そのものは、約2ヶ月先までは自動的に1919で
アップされるように整えておりますが、
諸事情で、「もくじ」と「につづく。」のURLの張り付け作業が
追いつかない時もございますので
要領の悪いワタクシをお許し下さいませ〜。
現在、短編「Dentist」の続きをちまちま作っています。
区切りのいい時にお披露目できればと…。
取り急ぎお詫びでしたぁ〜。
2012.09.19.21:20

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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