08-11 Anxety

第8部 Oi Wharf 

奥多摩から4日目


(11)Anxiety  ****************************************************************** 2758文字くらい



「全治3週間、か…。」

美樹は香と一緒に病室に戻ると、

ベッドに腰をかけるやいなや、

そう呟いた。



「美樹さん…。」

香は、心底申し訳なさそうに、

吊り下げられた腕を見る美樹に歩み寄った。

「……ごめんなさい、

……こんなことにならなければ、

海坊主さんと一緒に仕事をすることができたかもしれないのに。」



美樹ははっとして、

大急ぎでこの空気を変えようと口調を明るくした。

「やだぁ、香さん!

全治3週間って私の経験からは、

かなり短い方なのよ!」

美樹は、少し腰を浮かせて

香の肩にそっと手を添え、

自然に自分の隣に座るように促した。

ベッドに並んで座った2人は、

サイドボードの上にある薬が目に入る。



「昔ね、

前線で大けがを負った時は、薬品も包帯もなかったわ。」

「……そ、そんな。」

「衛生兵に連れて行かれて、

何ヶ月も病院から動けなかったこともあったし。」

美樹は少し上向きで天井を見上げ、

政府軍の傭兵として闘っていた頃を思い出していた。

その時、

自分に怪我を負わせ守れなかった不甲斐なさで、

ファルコンも精神的に落ち込んでいたことが

懐かしいシーンとして浮かんで来た。

怪我から回復して、

それでも一緒に傭兵として生きていくと、

心に決めファルコンに意思を伝え、

まもなく突然の別れを強要されたのだ。



「だ、か、ら、こんなの軽傷中の軽傷よ。」

香は柳眉を八の字にしたまま美樹を見つめた。

「それに、言ったでしょ!謝らないでって!」

笑顔で返す美樹に、

香は彼女の強さのオーラーを感じる。

「……そ、そうね。そうだったわね。」

くすりと微笑み返して、

美樹と視線を絡ませた。

「香さんこそ、

冴羽さんについて行きたくてしょうがないでしょ?」

「え?」

「顔に書いてあるわ。」

「……だめよ。私なんかが着いていったら、

撩の足手纏いにしかならないから。」

香は目を伏せ俯いた。

「彼、心配するな、って念を押しに来たわよ。

2人で大人しく待ってろっ、だって。」

「うん、あたしも言われた。

どんなことをするかもちゃんと説明してくれたから、

今回は、いつもよりも不安は少ないけど、

でもやっぱり心配なのよね…。」



美樹は、

香の気持ちが痛い程共感できた。

いつ間違いが起きてもおかしくない裏稼業、

美樹自身も

ファルコンが内緒で危険な仕事をこなしていることは、

随分前から認知していたし、

待つ者としての不安に押しつぶされそうな心理は、

家族を、両親を

戦火で失った過去があるからこそ、

より深く抉られる。



「大丈夫よ。すぐ戻ってくるわ。」

「うん。」

美樹は、左手を香の手に優しく重ねた。



「……さっきね、

ミックが気になることを言っていたの。」

「ミックが?」

「読んでいた数よりも何倍だとか…。」

美樹は、左手を顎にそえて首をかしげた。

「警護兵が多いと聞いていたけど…。

ね、香さん、教授の部屋に行ってみましょ。」

「書斎に?」

「教授とミックの悪戯がどんなものか見てみましょうよ。」

美樹は思い立ったら即行動、

とすっと立ち上がって、ドアに向かった。

「あっ!待って美樹さん!!」

香がちょっと大きな声を出した。

「痛み止めと促進剤飲んでから!」



促進剤とは、

裂傷などの傷口のタンパク質合成を助ける薬剤のことだ。

美樹も痛み止めがないと、

こうして歩いたり話したりすることが困難になることは

分かっていたので、慌てて踵を返した。

「あ、ごめんなさい!忘れていたわ。」

「お水これでいい?」

そばのポットとコップに手を伸ばし、飲み水を用意する香。

「ありがと。」



白い三角巾が目に入らなければ、

本当にいつもの美樹の姿そのものだと、

普段の空気を感じた香は、どことなく安堵した。

撩からは、

美樹が安心して待っていられるように、

一緒にそばにいることが

今回の役目だと言いつかってきてはいるが、

むしろ不安で心がくすぶっているのは、香自身の方。

ミックの言葉の意味も気になり、

表情も硬くなっているのが自分でも分かる。

「さ、行きましょうか。」

薬を飲み終わった美樹に声をかけられ、

2人は書斎へと向かった。



奥の書斎は、

初めてきた時とたいして変化がない。

白黒のモノトーンのスクエアが床を彩り、

ほんの少しだけ書斎独特の古い本の香りを感じる。



「カオリ、ミキ、休んでなくていいのかい?」

ミックが回転椅子をくるりと反転させ、

入り口に声をかけた。

「ええ、ちょっと様子が気になっちゃって。」

美樹が教授のほうへ歩み寄る。

「ほほ、いい時間になったら、あの国にとって都合の悪そうな情報が

全部ネット上に流れるはずじゃ。」

教授は楽しそうにコロコロと答えた。



「ねぇ、ミック。さっき撩に言っていた、1.5倍とかって、何のことなの?」

「…あぁ、聞こえてたんだね。」

ミックは、

ちょっとバツが悪そうな表情でパソコンの画面を見つめた。



「……隠しても仕方がないから、言うよ。

本当は余計な心配はキミたちにはさせたくなかったんだが…。」

ミックは、軽く息を吐き出すと、

香と美樹を交互に見つめた。



「当初、積み荷を守る雑魚の数は

多くても100人くらいだという情報だったが、

……どうやら、船内にも大勢引き連れて来ているらしい。

たぶん実動部隊50名ほど、

だから最初の情報の1.5倍くらいはいるかもなって話しを

撩に伝えたってワケ。」

「1.5倍?、ひゃ、150人?」

香は目を見開いた。

「なぁに、奥多摩でも

訓練されたクロイツの親衛隊100人をあっという間にねじ伏せたんだ。

今回は、下見もしてあるし、心配ないって。」

ミックが柔らかく微笑む。



立ちすくんでいる香に教授も声をかけた。

「以前も言ったがの…、撩が本気になったら、

東京を壊滅させるくらい訳ないことじゃ。

多少ハエがうるさいかもしれんが、

やることはちゃんとやって戻ってくるじゃろ。」



「そうよ、香さん、

ファルコンも一緒なんだから、心配しないの!」

「…え、…あ、うん…、そうよね。

ここで心配ばかりしても意味ないもんね。」

「まぁ、二人ともそこら辺に座って、待っててもよかろうし、

病室で休んでいてもいいんじゃが?」

「ここにいてもいいですか?」

香が控え目に呟いた。

「もちろん!」

ミックは少し元気がない香の肩を抱いて、

自分の近くの席へ促そうとする。

「ミックゥ〜、

あまり調子に乗るとかずえさんに言いつけるわよぉ。」

美樹がじろりと金髪の男を睨んだ。



「Oh ! No ! 

やましいことは決してないよ!ねっ、カオリ!」

慌てて触れていた手を離すミック。

「「かずえさんも大変ねぇ。」」

香と美樹のアドリブが重なり、4人は声を出して笑った。

「さて、そろそろ注意しておきますかね。」

教授とミックはそれぞれのパソコンに向き合い、

キーを叩き始める。



「あ!その前にあたし、洗い物片付けてくるわ!」

香はかずえから出かけ際に言いつかったことを

すっかり忘れそうになっていた。

「すぐに戻ります。」

そう言って一人キッチンへ向かった。


*****************************************
(12)へつづく。






んとに、
雑魚ばっか集めてもしょーがないんですけどね。
戦火の中にいた時の、ファルコンと美樹、
きっとちょっとでも美樹が傷を負うことがあったら、
その度に、海ちゃんは苦悩していたかもしれません。
(あちこちで描かれてているケガしたカオリンに悶々とする撩と同じかそれ以上で)
当サイトの設定では、海ちゃんの決別決意の前に、
美樹ちゃん大怪我の捏造をしてしまいましたが、
8歳から恐らく10代ラストくらいまで一緒にいたと想定すると、
この2人がこの間重ねて来た10年近くの時間もまた、
色々と切ない思いが湧いてきます。
別れた直後に、撩によって部隊殲滅という流れがあれば、
美樹を空港に置いてきて良かったと、
選択は間違っていなかった的な空気があったかもしれません。
この2人の関係も、
撩と香に負けず劣らず熱いものを感じます。

【誤植発見感謝!】
裏家業⇒裏稼業に修正いたしました。
ご連絡ありがとうございました!
2016.02.07.10:26

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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