08-14 Doubt

第8部 Oi Wharf 

奥多摩から4日目


(14)Doubt  ******************************************************************3176文字くらい



教授宅の前に、ランクルが音をたて勢い良く停車した。

「さて、荷物を降ろしますかね。」

運転席から出て来た撩は、

後部座席の荷物に覆いかぶせていたカバーをめくり取る。

前日の下見の時に、現場に隠していたものと、

今回持参した諸々の銃火器の内、冴羽商事管轄の物品をセレクト。

撩は、それらをかかえて裏口に停めてあるクーパーへ向かった。

助手席からのっそり出て来たファルコンは、撩を一瞥する。

「撩、先に入ってるぞ!」

「ああ。」



ファルコンは、一応呼び鈴を押して玄関の戸を開けた。

防犯装置はこういう時は解除されている。

出迎えはなく、そのまま真っすぐ廊下を進み、教授の書斎へ向かう。

どすどすと、わざと気配を消さない歩き方で、

遠慮なく木製の扉を開けた。

「戻った。」

「ファルコン。」



すでにその接近を感じ取っていた一同は、ファルコンの姿を確認する。

煤(すす)や埃(ほこり)に若干まみれているものの、怪我はない。

美樹はほっとした表情で立ち上がり、その巨体に歩み寄った。



「……おかえりなさい。」



右腕を三角巾で吊るしたまま、そっと左頬をファルコンの腹部に寄せた。

香は、足音が一人分であったことを先に感知し、

撩の姿が見えないことに、まさかの思いが意識を覆う。



「ファルコン、冴羽さんは?」

美樹はファルコンを見上げた。

「…………。」

口をつぐんで美樹から目をそらすファルコンに、

香はすぐさま最悪のイメージが湧き出て来る。



「……海坊主さん、……嘘でしょ?」



小さな震える声が漏れる。

ミックも思わず立ち上がった。

「ま、まさか、やられたのか?」

「………。」

ファルコンは、美樹の両肩に大きな手を乗せたまま

サングラスを伏せそのまま動かない。



沈黙が流れる。



一人、教授は奥の机でにやにやしているが、

ミックも美樹も香もそれに気付かない。

すでに香の目の焦点は合っていない。

小刻みに震えながら、右手で口を押さえ、

溢れる何かを必死にこらえようとしている。

「ファルコン!一体何があったの?」

美樹がただ事でないその反応に目を見開き大きな声で聞き返す。



「何だぁ?」

撩は、クーパーを玄関先に停め直した後、

ひょこひょこと、がに股猫背で屋敷の廊下を歩きながら

書斎へ近づいていたが、

部屋の中から美樹やミックの焦りを隠していない声や気配が漏れるのを耳にする。

「おい!カオリ!しっかりしろっ!」

ミックが叫ぶ声に敏感に反応した撩は、何事だと教授の部屋へ飛び込んだ。



「さ、冴羽さん!?」

突然の撩の乱入に、美樹は混乱した。

しかし、すぐに今までのやりとりが、

連れ合いのちょっとした悪戯であったことを瞬時に理解し、

ファルコンをちらりと見て、

はぁと、大きな溜め息をついた。



香は、撩が部屋に入って来る直前に、立っていられなくなり、

書籍が積み上げてある台に手をついて、

片膝を床に付いた。

そこに先ほどのミックの叫びが重なり、撩の登場となったのだ。



「香っ、どうしたっ!」

ミックより先に駆け寄り、かがんでその体を支えた。

「…りょっ!」

焦点を失っていた目は、潤み見開き、しっかりと撩の顔にピントが合った。

この瞬間まで、もう二度と会えないかもという思考に塗られていた脳が、

突然の元気な撩の出現に、当然理解が追いつかない。

しかし、自分を支えている撩の腕を自らの手できゅっと握ると、

その服越しから体温を感じ、

今ここに撩がいることに間違いないと頭と心が確信した。

体の緊張が緩む。



「……よ、…かった。」



そう小さく一言口から零れたと思ったら、香はふっと意識を飛ばしてしまった。

「お、おい!香っ!」

「香さん!」

「カオリ!」

ミックと美樹が駆け寄る。



「ほほ、大丈夫じゃ。緊張の糸が切れたんじゃろ。」

からからと微笑みながら、奥で教授が声をかけた。

「ミック、一体どういうことだ…。」

香を抱き支えながら、一緒にかがんでいる堕天使を睨む。

「No!No!俺は何にもしてないぜっ!ファルコンがっ!」

「俺も、何も言っていない。」

さらっと答えたファルコンに、美樹がまたはぁと深く溜め息をつく。



「ファルコン、……確かにあなたは何も言わなかったけど、

悪戯にしては度が過ぎるわ。」

こめかみを押さえて首をふる美樹の姿に、

撩はこの騒ぎの主犯格がファルコンであることを悟った。

「おい、タコ。一体何をやらかしたんだ。」

香を支えたまま、眉間に皺を寄せて尋ねる。



「フ、フンッ!俺は何もやっていないっ。」

腕を組んでそっぽを向いてちょっと頬を染め、

バツの悪そうなファルコンにミックも文句を言う。

「た、確かになぁ、何にも言っていないし、何もしてないがっ、

あんな態度だと、みんな勘違いするに決まっているだろうがっ!」

「ああ?」

撩はまだ詳細が掴めない。



「全く!遺体を持って帰れないくらいの状況かと、勝手に勘ぐっちまったぜ。」

ミックも立ち上がり腕組みをして騙された怒りをあらわにする。

「そうよ、ファルコン。冴羽さんがコンテナと一緒に海に沈んだかと思ったわ。」

「だから、俺は何も言っていない。お前らが勝手に勘違いしたんだろ。」

「もう!香さんにそんな言い訳通じると思うの?」



美樹は撩に抱きかかえられている香にそっと近づいた。

「……冴羽さんの姿を見て、…気を失うくらいの想いを、かかえていたのよ。」

かかんで額にかかった前髪を左手でそっとかき分ける美樹。

目を閉じている香の美しい顔を見ながら、くすりと美樹と撩が口角を上げた。

「なーるほどね、だいたい分かったよ。

タコのイタズラにしちゃ、ちょっとやり過ぎだな。」



「ほっ、ほっ、ほっ、これまでの疲れもあったかも知れんの。」

教授もおもむろに近寄り、香を覗き込んだ。

「撩、ファルコン、例の情報はもう流しておる。

明日の夕刊あたりで表に出るかもしれんのう。」

「ええ、やつらの一人が無線機でそんなようなことを口走っていたんで、

出たタイミングも上々です。」

「ああ、お陰で船内にいた連中も戦意喪失状態だったな。」

ファルコンが得意そうに付け加えた。

「なんで、ファルコンが分かるんだよっ!」

まだ苛立っているミックがつっこんだ。

「フンッ!貨物船の看板にいた奴らの気配が変わったのが分かったからだ!」

ファルコンはそう言うと、腕組みのまま、そっぽを向いた。



明日には、南ガルシア共和国の悪事情報が、洗いざらい報道される。

これで政府そのものが崩壊する外部からの情報クーデターだ。

密輸されそうになった品も、よそが狙うこともなく、

偽札も出回る心配が消える。



「あいつらには、一度ミニをぶっ壊されたんで、これですっとしましたよ。教授。」

「ほ、それにしては、派手な仕返しじゃの。」

教授がくすりと笑った。

「おい、海ちゃん、依頼人には2人分、いや4人分の金払えって言っときな。」

「……善処する。」

本気でない言葉尻と分かってはいるが、一応真面目に返答しておくことにする。



「しかしのう、二人とも汚れ放題じゃのう。

撩も、ファルコンも、ひとっ風呂浴びてこんか?」

「いや、俺はこのまま帰ります。」

香をお姫様だっこで抱きかかえ立ち上がった撩に、

教授は細く微笑んだ。

「ま、そのほうがよかろう。」

「美樹ちゃん、また明後日来るからねん。」

「冴羽さん、ごめんなさいね。ファルコンのせいで、香さんこんなことになってしまって。」

「なーに、すぐに目ぇ覚ますさ。」

「冴羽さんも、今日はゆっくり休んで、…て、そーゆー訳には、いかない、かしら?」

意味深な流し目で美樹は撩に視線を送った。

後ろでファルコンがぼっと赤くなる。



「ふっ、美樹ちゃんも怪我のこと忘れんなよ。」

「あーら、ご心配なくぅー!」

「じゃ、教授、明後日の午後また寄ります。」

「ああ、見送らんでいいかの。」

「結構ですよ。」

そのやり取りをミックは面白くなさそうに見ていた。

「おい、俺には何にも言わないのか?」

「へっ、お前にかけてやる言葉なんてねーよ。」

撩はそのまま教授の部屋を出て、玄関先へ向かった。



*******************************************
(15)へつづく。





お姫様抱っこ、もう何回目だろう〜。
いやね、かおりんかなり疲れていたと思いますよ〜。
心身共にハードな4日間でしたからね〜。
帰宅後、もう一踏ん張りぃ〜♡
ベッドまであと2、3話お付き合い下さいませ〜。

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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