08-15 Security Camera

第8部 Oi Wharf 

奥多摩から4日目


(15)Security Camera  ******************************************************* 2466文字くらい



「まったく、

何を必要以上に心配してんだか。」



抱きかかえている香の横顔を

愛おしく見つめながら呟いた撩。

廊下を歩いていたら、

ちょうど大学から戻ったかずえと鉢合わせになる。



「あ!冴羽さん、戻ったのね。よかったわ!」

「俺らが先に終わったみたいだな。」

「そのようね、

こっちもなかなか区切りが悪くて、…って、

何で香さんこんなことになってるの?」

目を閉じたお姫様抱っこの香にようやく気付いたかずえ。



「あ、いや、ちょっとな。タコが余計なことをしでかしてな。」

「えーっ!?」

「いや、何にもしちゃいないんだが、

ちょいとした誤解があってな。」

ファルコンが香に暴力でも振るったかと勘違いをさせるような言葉尻に、

撩は慌てて繕った。

「ミックが知ってるから、

詳しいことはヤツに聞いてくれ。」

「何だかよく分からないけど、ケガや病気じゃなさそうね。

あ、そうだ、

香さんの荷物が台所にあると思うから、玄関で待ってて。」

「ああ、頼む。」

(かずえちゃんも遅くまで大変なこって。)



玄関で香を抱えたまま器用に靴を履き、

香のパンプスも右手でつまみ上げる。

そこへ、かずえが香の上着とポーチを持って来た。

「たぶん、これだけだと思うわ。」

香の腹部に上着をふわりとかけ、

ポーチは撩の左指にかけた。

「香さん、お疲れ様。」

「じゃあ、明後日な。」

「ええ、…冴羽さん、ゆっくり休んでね。」

撩はかずえに軽くウインクをして、

玄関の戸を閉めた。

後ろ姿を見送ったかすえは、

腕組みをしてふぅーと一息肩を落とす。

「……休めない、かも、ね。あのお二人さんっ。」

そう言い残して、

奥の部屋に戻って行った。



撩は、

門前に停めてあるクーパーの助手席を開けると、

そっと香を座らせ、靴も履かせた。

ストッキング越しに見える形のいい爪に、

柔らかい土踏まずにと、

これまで触れることのなかった部位に

ややどきりとする。

上着をぱさりと羽織らせ、ポーチも膝に置いた。



(今、起しとくか。)



撩は、

運転席にどっさっと乗り込みドアを勢いよく閉める。

その音と震動で、

香がうーんと言いながら覚醒しそうになった。

ぺちぺちと頬を叩いて香を起す。

「香、香!おい、起きろ。」

「ん…。」

街灯の明かりだけが僅かに漏れ入る薄暗い車内で、

パチっと香の目が開いた。

目をこすりながら、

まだ状況が見えていない様子に、

撩は次の言葉を待った。



「あ、あたし一体…。」

「気付いたか。」

はっと顔を声のするほうへ向ける香。

「撩!」

仄暗いが、確かに撩がそこにいる。

右手をハンドルにかけ、

左手をポケットに入れて、自分を見ている撩。

だが、香はまだ自分がどこにいるのか、

なぜこの状態なのか理解できない。

「え?ここは?美樹さんは?」

「ここは、教授んちの前。

全て終わった。もう帰るところ。」

「…………。」



まわりの風景を視線だけ動かして、

今自分がクーパーの中にいることがやっと分かった。

そして、

ファルコンが書斎に戻った時のシーンが蘇り、

自分が気を失った時ことを思い出した。



「りょ……。」



撩をまっすぐ見つめる。

「良かった…、無事で…。」

大粒の涙がぼろぼろと両目から零れ落ちる。

「おいおい、大したことじゃないって、大袈裟だっつーの。」

撩は、右の指で香の左の目尻をそっと触れ涙を払うが

間に合わない滴が流れ伝う。



「だ、だってっ!海坊主さんがっ!」

「あー、ちゃんとヤツにはお仕置きしといてやる。

だから泣くなって。」



撩は、

その大きな温かい両手で香の頬をやんわりと挟んだ。

濃い硝煙の匂いと火薬の匂い、埃くささが近くなる。

撩の左の親指は、香の右目の涙を掬い、

右の親指の腹が、ゆっくりと香の下唇を確かめるようにスライドする。

その乾いた感触に、香はふるりと肩が揺れ、

反射的に目を閉じた。

少しかさついた唇が香のそれにそっと触れる。



「ん…。」



クーパーの中で初めて交わす口付け。

香を安心させるように、

自分も香をより感じられるように、

徐々に深くなる動きに、

わざと音を立てて口腔内を味わっていく。

お互いの唇が潤いを取り戻す。

頬に添えられた左手は後ろ髪に滑り、

右手は左耳を掻き上げ、

そのまま肩経由で腰までゆっくり下降し、

自分のほうへ引き寄せた。

何度味わっても飽きることがない唇。

いっそ、

タバコのように持ち歩ければいいのにと、

より深く口唇への刺激を求める。



ほどなくして、

遠くで飼い犬が吠える声が聞こえて、撩ははっとなった。

ここは、まだ教授宅前。



(しまったっ、

外構に監視カメラがあったんだ。

やべ。この角度はぎりぎりか?)

香とのキスに不本意ながら周辺の事情を忘れかけていた撩は、

またちゅうっと吸い上げてぽんと唇を離した。

「……りょ。」

香は、野山に実る赤い実のごとく

全身真っ赤に熟れ上がっている。

「……続きは、帰ってから、な。」

この言葉に、更に赤が重なった。



教授に見られてやしないかという焦りを微塵も見せずに、

撩は香をそっと身から離し、

シートベルトを付けさせ、

自分も装着するとおもむろにエンジンをかけた。



「まぁーったく、

タコには子猫1ダースでも送りつけてやろうかっ。」

お気軽モードの口調になった撩に、

香は赤くなりながら答えた。

「……1ダースじゃ、…た、たりないかもね。」

ふっと撩は口角を上げる。

「じゃ、帰るぞ!」

アクセルを踏み、家路へと急いだ。






。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


「おおお、惜しいのうぅ。」

パソコン画面を食い入るように覗いていた教授は舌打ちをした。

ちょうど、

監視カメラの角度が微妙過ぎて、

車内の撩と香の顎から上がルーフで見えない。

「教授ぅ……、何をされているんですかぁ?」

腕組みをした仁王立ちのかずえが、

教授をじろりと見下ろす。

「ほ、か、かずえくん、おかえり。

いや、香君の様子が心配での…。」

「教授、これは『のぞき』と言うんです。

あ、ミックが客間のカメラ壊してましたから。」

「……先行き短い老人の楽しみを奪わんでも…。」

小さな声でぼそっと呟く教授。

「何かおっしゃいましたぁ??」

「ほほ、いや、独り言じゃ。」

そんなやりとりをしているうちにパソコン画面から、

クーパーの姿がなくなった。

「いつまでたっても、ベビーフェイスはベビーフェイスじゃの…。」

教授はにやつきながら、画面を切り替えた。


*********************************************
(16)につづく。






教授…、長生きしそうです。
いや、冗談抜きで、Hは寿命向上につながると
なんかの論文で出てましたよ〜♡

【誤植発見感謝!】
ちゅう寸前のシーン、
「右手は左耳の搔き揚げ」⇒「右手は左耳の搔き上げ」
に修正いたしました〜。
天ぷらじゃないんだから〜。
何を揚げるっちゅーねんっ!
mさま、ご連絡ありがとうございました!
2016.02.07.10:36

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プロフィール

きまりも

Author:きまりも
since 2012.03.31.


5周年記念に
プロフ画像を貼ってみた。
十波ちゃん作。


中学高校時代に読んでいた
シティーハンターに
再燃しハマってしまいました。


ブログのタイトルは
ホトトギスの英名。
基本カオリストです。
丑年といえば年がばれるか?


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